5月上旬、朝一番の飛行機で鳥取空港へ降り立った。時間に余裕があり、朝食もまだだったため、空港内の喫茶店へ。その名は「すなば珈琲」。平井伸治知事が鳥取砂丘を砂場に例え、「スタバはないけど、スナバはある」との発言が話題になったが、それを受けて地元企業がオープンした店である。
朝8時を過ぎたばかりなのにお客さんで満員。皆さん朝食が目当てらしい。メニューを見てびっくりした。のどぐろ定食が500円! 「のどぐろの一夜干しだけで1000円くらいしますよ」と店長。それをいただくことにした。
小鉢も多く、テーブルに載りきれないほどの料理。採算がとれるのか心配しながら食べていると、「早朝便の利用者をおもてなしするサービスです」と話してくれた。県から補助が出ているらしい。
空港から県立布勢総合運動公園(コカ・コーラウエストスポーツパーク)へ。リオデジャネイロ・パラリンピックの選考大会でもある日本パラ陸上競技選手権大会の取材である。12年ぶりに訪れたが、競技場はリニューアルされていた。スタンドとフィールドの間にあった50センチの段差が解消され、バリアフリー化が進んだ。2つめの大型モニターが北側のスタンドの上に完成したばかりだった。
競技が始まると、既設の南側の画面に競技の映像が映し出された。そして、北側の画面には障害のクラス分けについての解説。障害の度合いや部位がイラストで表示され、競技をより分かりやすくしてくれる。また式典などのときは手話通訳の映像も流されていた。
この大型モニターの設置は鳥取県と日本財団の共同プロジェクトで実現したそうだ。鳥取県は健常者と障害者が一体となってスポーツ振興をはかり、障害者スポーツの先進地を目指している。それを日本財団が支援。ほかにもユニバーサルデザインタクシー14台がこの日運行を開始。200台を導入する計画とか。
障害者スポーツの大会はいろいろ見てきたが、鳥取で驚いたのは観客の多さである。小学生や敬老会の団体と、動員をかけていることもあると思うが、それにしても正面スタンドには観客がぎっしり。観客は扇子状の応援グッズを鳴らしていた。だから競技場内が大きな手拍子で盛り上がる。
入り口でそれを配っていたのは花岡伸和さん(ロンドン・パラリンピック車椅子マラソン5位)だった。「これなら片手でも、お年寄りでも、楽に大きな音が出るでしょ」と花岡さんは笑顔で話してくれた。
大勢の観客からの大きな応援。それを受けてか、この日、山本篤さん(スズキ浜松AC)が走り幅跳びで世界記録をマークした。中西麻耶さんも女子走り幅跳びでアジア記録を出すなど好記録が続出した。
そして、表彰式でプレゼンターを務め、入賞者にメダルをかけたのは地元の子供たち。最初は切断された脚や腕を間近に見てちょっと緊張していたが、義足に触らせてもらったり車椅子を押したり。すぐに慣れた様子だった。
視覚障害者にメダルをかけるとき、横を向いたままの選手に戸惑う子供がいた。でも「メダルです」と声をかけ、その声もだんだん大きくなっていった。子供たちにとっても教室では学べない大切な経験ができたのではないだろうか。鳥取県のおもてなし。今後も目が離せない。すごい。

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2016.5.24 産経ニュース