生活情報の音声訳不足
10年後、視覚障害者に「声」を届けられなくなるかも―。役場広報などの生活情報文書の音声訳を続けるNPO法人「たびびと」=高知市中秦泉寺=が、ボランティア不足に悩んでいる。音声訳への理解を深め、「視覚障害者の目になってほしい」と訴えている。
音声訳は文字や図表などの活字情報を読み上げて録音する作業。「たびびと」は広報のほか、市長選の選挙公約や行政のパンフレット、料理レシピ、商品の取扱説明書などを音に変換してきた。
音声訳では、録音用の原稿を書き起こす作業に骨が折れる。
例えば、「箸」は橋や端と聞き間違えないようアクセントを強調する。「ご飯を食べる箸」と言葉を足すこともある。数字の7は1との混同を避けて「なな」と発音する。「偏在」を「偏り」と言い換えるなど、聞き手が理解しやすいための作業がいくつもある。
中でも最難関は、広報などで多用されている図や表の文章化だ。グラフの場合、目盛りの数をただ読み上げるのではなく、「AとBでは数の増減に偏りがある」などと、グラフが表す内容を端的に文章化する力が必要になる。
録音するまでに必要なこれら準備が正確にできるようになるには一定の経験がいる。しかし、たびびとのボランティア15人の平均年齢は60歳代で、若い人材が不足している。事務局長の浜田真理子さん(57)は「仕事との両立は難しく、ボランティアを休止したり辞めたりした人もいる」と、人材確保への焦りを隠さない。
一方で、録音図書のニーズは高い。医療の発達などで先天的な視覚障害者の数は減っているとされるが、中途失明者の多くは点字が読めないため、録音図書の高い需要につながっている。高知市立点字図書館の坂本康久館長は「目の見えない人にとって録音図書は欠かせない」と話す。
たびびとの浜田さんはきょうも録音マイクに向かう。「音声訳は障害がある人も暮らしやすい社会をつくるために必要。このまま活動を下火にさせたくないんです」
6月からボランティア養成講座
「たびびと」は音声訳ボランティアの養成講座を高知市(7月3日~)、香美市(6月6日~)、香南市(6月18日~)で開く。発声や発音のトレーニングのほか、図表の文章化などを全4回で学ぶ。参加費千円。問い合わせ先は浜田真理子さん(080・3168・8824)。
広報を音声訳する浜田真理子さん
2016.05.29 高知新聞