ゴエモンのつぶやき

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「だれでも便利に」航空会社・ホテル、障害者対応を加速

2016年05月07日 03時52分54秒 | 障害者の自立

 2020年の東京五輪・パラリンピックを見据え、航空会社やホテルが、障害のある人へのサービスを拡充している。4月1日に施行された障害者差別解消法なども背景に、「だれにとっても便利で快適なサービスを」という動きだ。

■樹脂製車いすで検査時間短縮

 全日空は4月21日、羽田空港国内線の利用客に貸し出す車いすを金属探知機に反応しない樹脂製に換えた。

 車いすの利用者は、チェックインの際に自分の車いすを荷物として預け、同社が用意した車いすに乗り換え、保安検査場を通るのが一般的だ。だが、この車いすは金属製。利用客が金属を身につけていなくても探知機に反応し、ボディーチェックを受けなければならなかった。

 こうした不便をなくそうと、同社は13年、車いすメーカーの松永製作所(岐阜県養老町)と新製品の開発を始めた。試行錯誤の末、実現したのが樹脂製の車いすだ。座面のクッションやベルトを除き、車輪や軸受けなどが強化樹脂でできている。

 羽田空港国内線第2旅客ターミナルに64台を導入。20年には、国内の空港(4月28日現在、49カ所)に計500台を備える計画だ。

 ログイン前の続き報道関係者へのお披露目の場で、車いすを利用して12年という心理カウンセラーの矢嶋志穂さん(42)=川崎市=が試乗した。「これまでは、ボディーチェックに時間がかかるのがおっくうで飛行機の利用は年に2回程度。でも、樹脂製だと時間が短縮できる。飛行機で外出しようという気持ちにつながります」

 同ターミナルの「スペシャル アシスタンス カウンター」では、聴覚に障害のある人らに遠隔手話通訳サービスも始めた。専用のタブレット端末を操作すると画面に手話通訳のオペレーターが現れ、利用客の手話を音声に、また空港係員の音声を手話に同時通訳してくれる。羽田を含む7空港に16年度内に採り入れ、利用状況をみて全国展開を検討するという。

 これまでは筆談ボードが使われていたが、報道関係者の前で試用した聴覚障害のある東京都の女性は「私は手話のほうが会話がスムーズで楽ですね。飛行機に乗るのが楽しみになりました」。

 全日空の空港業務推進部サービス開発チームリーダーの島田俊哉さんは「東京五輪・パラリンピックに向け、お手伝いが必要な利用者が増えると思います。だれもが便利で楽しく、安心して飛行機を利用できる環境を整えたい」と話す。

 手話サービスを提供しているのは、福祉サービス事業を手がけるプラスヴォイス(本社・仙台市)だ。仙台市東京都渋谷区にセンターがあり、計16人の手話通訳オペレーターが待機し、対応している。

■「おすすめは?」 端末通じ会話

 東京・新宿の京王プラザホテルも5月1日、同様の遠隔手話通訳サービスを宿泊客向けに導入した。

 タブレット端末を5台用意し、宿泊客に無料で貸し出す。午前8時~午後9時、ホテル内のインターネット通信が安定してできる場所で利用できる。フロントでの手続き、客室からフロントへの問い合わせのほか、持ち運びができるので宿泊者専用ラウンジでスタッフと話したり、端末を前に客同士が会話したりもできるという。

 端末には音声を文字に変換する機能も備わっているので、手話サービスが利用できない場所でも幅広く活用できる。例えばレストランで、客が端末の画面に「おすすめのコース料理は何ですか?」と書いて、スタッフが口頭で説明を始めると、音声が同時に文字に変換され、表示される。

 これまでは、97年に導入した筆談器を使っていたが、新機器でより細やかなサービスをめざす。障害者差別解消法が企業に求める「合理的配慮」をさらに充実させることや、20年に向けて「バリアフリーを推進してきた強み」で貢献することを考えたという。

 同ホテルは、リハビリテーション世界会議が88年に東京で開かれた際、車いすで利用できる客室を設けたのを機に、バリアフリーを進めてきた。02年には車いすの高さに合わせたテーブルや盲導犬用のえさを入れるボウル、ノックの音に反応して天井灯が点滅するセンサーなど障害に応じた設備を整えたユニバーサルルーム10室を設置。15年度の稼働率は約83%で、全客室(1438室)の稼働率(約86%)と変わらない高さだ。

 営業戦略室副部長の斎藤潤子さんは「ホテル名のプラザ(広場)には、幅広いお客様の憩いの場、コミュニケーションの場という思いが込められている。遠慮なく必要な情報を得て、ホテルライフを楽しんでほしい」と話す。

写真・図版

全日空の「スペシャル アシスタンス カウンター」での遠隔手話通訳サービスの場面。タブレット端末の画面の手話通訳オペレーター(中央)が、全日空の女性スタッフ(左)の言葉を手話で表現し、聴覚障害のある客(右)の手話を音声で女性スタッフに伝える=羽田空港国内線第2旅客ターミナル

2016年5月6日   朝日新聞デジタル


障害者差別解消法施行!障害者への入居差別はなくせるのか?

2016年05月07日 03時41分36秒 | 障害者の自立

今年4月に障害者差別解消法が施行されて、1ヶ月が経ちました。

この法律は、2006年に国連総会で採択された障害者権利条約を日本が批准するために制定された法律の一つで、日本社会から障害を理由とする差別をなくしていくことを目的としています。

法律は差別を解消するための措置として、民間事業者に対しても「差別的取扱いの禁止(法的義務)」と「合理的配慮の提供(努力義務)」を課しており、その具体的な対応として、それぞれの分野の担当大臣は事業者向けの対応指針を示すことになっています。

住宅の分野では昨年12月、国土交通省が宅建建物取引業者を対象とした対応指針を公表しました。指針では「差別的な取扱い」として禁止する行為として、以下のような事例が挙げられています。

・物件一覧表に「障害者不可」と記載する。
・物件広告に「障害者お断り」として入居者募集を行う。
・宅建業者が、障害者に対して、「当社は障害者向け物件は取り扱っていない」として話も聞かずに門前払いする。
・宅建業者が、賃貸物件への入居を希望する障害者に対して、障害があることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断る。
・宅建業者が、障害者に対して、「火災を起こす恐れがある」等の懸念を理由に、仲介を断る。
・宅建業者が、一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して、仲介を断る。
・宅建業者が、車いすで物件の内覧を希望する障害者に対して、車いすでの入室が可能かどうか等、賃貸人との調整を行わずに内覧を断る。
・宅建業者が、障害者に対し、障害を理由とした誓約書の提出を求める。

障害を理由に賃貸住宅への入居を断る行為は、以前から人権侵害だとして行政機関による指導の対象になっていましたが、法律が施行されたことにより、明確に「違法」だと認定できるようになったと言えます。

2010年には東証一部上場企業の大手不動産会社が、入居者と結ぶ賃貸借契約書に「入居者、同居人及び関係者で精神障害者、またはそれに類似する行為が発生し、他の入居者または関係者に対して財産的、精神的迷惑をかけた時」は契約を解除するという条項を設けていたことが判明し、大阪府が改善を指導。この会社が問題の条項を削除し、障害者団体などに謝罪する、という出来事がありました。今後、こうした「明文化された形での入居差別」はなくなっていくと思われます。

国交省が公表した対応指針では、努力義務である「合理的配慮」の事例もあげられています。例えば、「多くの事業者にとって過重な負担とならず積極的に提供を行うべきと考えられる事例」としては、「障害者が物件を探す際に、最寄り駅から物件までの道のりを一緒に歩いて確認したり、一軒ずつ中の様子を手を添えて丁寧に案内する」という行為が例示されています。

法律の施行と国交省の対応指針によって、障害者は賃貸住宅に入居しやすくなるのでしょうか。先ほど、「明文化された形での入居差別」はなくなるだろうと述べましたが、逆に言えば、「明文化されない、明示されない形での入居差別」はなかなかなくならないのではないか、と私は感じています。

大阪府と不動産に関する人権問題連絡会が2009年に、府内の全宅建業者を対象に実施した調査では、22・7%の業者が「障害者については家主から入居を断るように言われた」と回答しています。こうした家主の意識はすぐには変わらないため、明白に法律違反だと見なされるような形での入居差別は減っていくでしょうが、はっきりと理由を言わないで入居を事実上、拒否するケースはむしろ増えるのではないかと懸念しています。

昨年、日本賃貸住宅管理協会が管理会社に対して実施したアンケート調査結果でも、障害者のいる世帯の入居を「拒否している」と答えた賃貸人の割合が2・8%と、五年前の同調査から1・2ポイント減少したのに対して、「拒否感がある」と答えた賃貸人の割合は74・2%と、前回よりも21・3ポイントも増加してしまいました。

「拒否している」と明言するのは不適切だという認識は広がっているものの、四人のうち三人が「なるべくなら入れたくない」と思っているのでは、部屋探しのハードルは高いままでしょう。

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昨年、全国賃貸住宅経営者協会連合会は、宅建業者、管理業者、家主向けに「障害者差別解消法について充分にご理解いただき、障害のある方々への適切なご配慮にお努めください」というタイトルのパンフレットを作成し、配布を始めました。

家主の意識は一朝一夕には変わらないでしょうが、地道な啓発活動が求められています。

全国賃貸住宅経営者協会連合会パンフレット(PDF)

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※関連記事:今後10年の住宅政策の指針が閣議決定!パブコメは反映されたのか?

(2016年5月4日「稲葉剛公式サイト」より転載)

 


<月9ドラマ『ラヴソング』>障害者差別解消法から見た吃音者への合理的配慮とは?

2016年05月07日 03時33分30秒 | 障害者の自立

青木英幸[発達障害を持つ社会活動家]

***

フジテレビで月9ドラマ『ラヴソング』が放送されています。「吃音」(きつおん[どもること])をラヴソングで初めて知ったという人もいるのではないでしょうか。

『ラヴソング』の中で「吃音者あるある」、「吃音者が困っていること」などが丁寧に描かれているため、吃音当事者の感想や意見が賛否両論に分かれて議論になる程のリアルなドラマになっています。

ドラマの中で中村真美(夏帆)と天野空一(菅田将暉)が吃音を持つ女性、佐野さくら(藤原さくら)と対話するシーンがあります。2人ともさくらの吃音に対しては一切反応をしません。筆者はこの状態が吃音者に対する究極の合理的配慮ではないかと感じました。

もちろん、本音でぶつかり合うシーンでは真美もさくらの吃音を指摘しています。それだけお互いの信頼、強い絆があるからでしょう。(第1話、さくらが会社を無断欠勤して自宅でストリートファイター4をプレイしているシーンがあります。真美が婚約者である野村から欠勤していること知らされるシーンです。無断欠勤を知った真美は本気でさくらを怒ります。「健太に口利いてもらった仕事なのにそれを失ってもいいの? ねぇどうやって生きていくの?[※筆者補足・吃音があるので]まともにアイスコーヒーも水だって注文できないくせに」)

【参考】<当事者が語る>フジテレビ「ラヴソング」でドラマ化されたリアルな吃音(きつおん)

2016年4月、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が施行されました。この法律は2013年6月に制定され2016年4月施行に向けてパブリックコメントや法律の周知が行われてきました。この障害者差別解消法が制定された背景には国際連合が中心となって動いてきた「障害者の権利に関する条約」の存在があります。

日本政府は2007年9月28日に署名。しかし、条約批准だけでは日本国内において本当の意味で障害者の人権や生活が変化するのか懸念を表明する障害者団体の重要な決断がありました。それにより日本国内では署名をした状態でしたが、条約は発効していません。

この重要な決断があったからこそ、障害者基本法改正や障害者差別解消法が制定され、その後、日本国内情勢が変化した2014年2月19日に満を持して条約が発効となったのです。障害者差別解消法は「障害(難病や社会的障壁も含む)を理由とする不当な差別」を禁止しています。

この法律の特筆すべき点は『障害者手帳の有無を問わない』としているところです。国の行政機関・地方公共団体など、民間事業者の両方において差別を禁止しています。また、官においては合理的配慮提供の義務化、民においては努力義務となっています。

不当な差別の例は「障害を理由に店舗・施設の利用、サービスや機会を提供しないこと」などがあります。合理的配慮の例は「●●障害のある人に対して、その障害や困り事に対して情報保障を行う、移動を補助する、休憩室や別室利用を選べるようにする」などがあります。

<吃音は障害者差別解消法施行後においてどのような合理的配慮が考えられるか?>

「合理的配慮」とはいささかわかりにくい表現ですが、先に述べたように、吃音があったとしても何事もなく接することではないかと考えています。ラヴソングではその点がとても丁寧に描かれていると思っています。真美、空一の2人とも、さくらの吃音を空気のように接するところが筆者はとても自然だと思いました。

ただし、これは理想と言われてしまえば理想ではあります。吃音の場合は吃音当事者が吃るところを相手が見て聞いてからはじめて、認識する障害です。例として身体障害のように身体の一部や車椅子を見て、「この人は障害や病気があるのかな?こうしたほうがいいのかな?」と先に考える余裕があることが多いでしょう。吃音の場合、事前に考えることはできません。

【参考】<パラリンピック報道の氾濫に危惧>パラリンピアンは一握り、大多数の障害者は「ごく普通の人」

『ラヴソング』第4話でもグリスターミュージックの水原に吃音の説明をするさくらのシーンが出てきます。吃音の場合は吃音者側から相手側に事前に吃音があることの申し出ができればベストであると考えています。障害でも社会的障壁でも難病でも、お互いの1歩の歩み寄りからが大切だと考えています。一方向ではなく、双方が歩み寄り考えるところからこそ新しい世界があると思います。

『ラヴソング』を見て「もしかしてこの人、吃音かも!?」と吃音に対する認知が広がっていくことを望みます。吃音への合理的配慮として、筆者が大きな柱と考えていることは、「吃音を笑わない・怒らない、吃音を治せと言わない、吃音を理由に機会を提供しない・奪わない」この3本柱です。

具体的な事例を下に記しておきます。

 1. 吃音者と話す時は時間の延長をする。面接や試験の場合もぜひ対応してほしい。

 2. 吃音者が話すことにどうしても困っている場合は筆談の対応もする。

 3. 吃音者と話す時に吃音者が言いやすい言葉を発話すること、言いやすい言葉を使うが故に敬語を省いてしまっても怒らない。

 4. 吃音者がマニュアル通りの順番通りの話し方をしなくても怒らない。

 5. 吃音者が人間社会のルールとして当たり前の挨拶ができなくても怒らない。笑顔や会釈することでもよいとする。

 6. 吃音者が発話できない言葉がある時は、発話ではない別のコミュニケーション方法は無いのかを考える。ブザーやホイッスル、電子メモパッド、アプリによるコミュニケーションを考える。

 7. 吃音者が接客業務をする場合、事前にお店の見えるところに「当施設には吃音のある従業員が働いています。」と掲示をする。

 8. 電話応対をするときに、自動音声で「この電話は吃音者が架電しています」、「この電話は吃音者が受電します」などの説明を行う。

 9. 学校に通う吃音者であれば「右手を挙手しているときは、問題も理解していて皆の前で発表できる。左手を挙手しているときは、問題は理解しているが吃ってしまいそうなので先生、指名しないでね」というルールを考える。


乙武洋匡の不倫報道を障がい者はどう受け取った?...

2016年05月07日 03時27分42秒 | 障害者の自立

「障がい者も性欲はあるし、それをタブー視するな」

 世間に大きな驚きをもたらした乙武洋匡氏の不倫問題。「週刊新潮」(新潮社)のスクープ記事では、妻以外に5人の女性と肉体関係があったことまで明かされ、それまでの乙武氏のイメージとはあまりにもかけ離れたスキャンダルに、様々な意見が飛び交った。

 では、乙武氏と同じく身体に障がいを抱える人たちはこの不倫報道をどう受け取ったのだろうか。「SPA!」(扶桑社)2016年4月26日号には、こんなコメントが掲載されている。

「おとちゃん(乙武氏)が何人もの女性と不倫をしていたというニュースは、身体障害者にとって大きな希望と勇気を与えるものだった。まぁ、とはいえ不倫は否定も肯定もしませんけどね(笑)」

 この発言の主は、障がい者が性的に自立できる環境づくりを目指すNPO法人「ノアール」理事長で、『たった5センチのハードル 誰も語らなかった身体障害者のセックス』(ワニブックス)の著者としても知られる熊篠慶彦氏。彼もまた出生時から脳性麻痺による四股の痙性麻痺を抱え、14歳から車椅子生活を送っている障がい者である。

 熊篠氏はなぜ乙武氏の不倫騒動を「大きな希望と勇気を与えるもの」と評するのか。そこには、「障がい者」と「性」をめぐる世間の偏見が大きく影響している。

 障がい者は「清純」で、セックスのことなんて考えもしない......。健常者が抱く障がい者に対する偏見が彼らをどれだけ苦しめているのか。熊篠氏は「週刊宝石」(光文社・休刊)00年9月14日号のインタビューのなかで、実体験をこのように語っている。

「皆さま、健常者の方々は多大な誤解をなさっています。脳性麻痺という表現自体がバカヤローなんですが、両手両足は確かに麻痺していますが、脳全体やチンチンが麻痺しているわけではありません。
 食欲があるように性欲があり、寝ることと同じように朝立ちし、射精します。
(中略)
 それなのに、多くの健常者の人たちは、車椅子の障害者とは、健気にバスケットボールやマラソンに打ち込み、もしくは絵を描き、詩を書くという実に分かりやすいイメージしかありません。健常者と同じことをすると一生懸命頑張っていると言われるのに、なぜSEXしようとすると眉を顰められなければならないのでしょうか。
 僕はいま、怒っています。もう、プンプンです。長い時間をかけ、自然なかたちでデートを重ねてきたつもりだった女性の肩を抱こうとしたら、彼女はこう言いました。
「熊篠さんて、そんなことする人じゃないと思っていました。驚きです」
 そんなことって、どんなこと。健常者の世界では、男が女の肩を抱くといつから驚かれるようになったのですか。ボランティアの彼女は言ってくれましたね。
「だって車椅子の人は、そういうこと(性欲)がないと思ってたから」
 僕はブチ切れて、本当に脳が麻痺しそうになりました」

 ボランティアとして働き、障がいをもつ人の近くにいる人ですら、障がい者は性的な欲求を抱く人ではないという偏見に支配されていた。しかし、もちろん、生殖機能に障がいをもっていないのであれば、性欲は健常者と変わらない。

 だが、健常者はよくよく考えれば当たり前のこの事実になかなか思い至らない。いや、思い至っていたとしても、「障がい者」と「セックス」を結びつけることは「タブー」とされてきていた。こうしたタブー視は、たんにイメージの問題でなく、障がい者の自立そのものを妨げる要因ともなる。なぜなら、障がい者が「性的」に自立することは、実生活における社会的な自立をも促進するものだからである。

 熊篠氏も性的に自立したことで、社会的な自立もまた得ることができたという経験をもつひとりだ。彼は養護学校で出会った遊び人の理学療法の先生から「熊篠、女を知れば視野が広がるぞ」とそそのかされ、先生と一緒にホテルに部屋を取り、そこにホテトルを呼ぶことになるのだが、そこでの体験は熊篠氏にとって、単に「風俗嬢と性的な関係をもった」ということにとどまらず、社会的な自立の契機をも与える重要なものであった。

「とってもラッキーだったのは、相手の女性の親戚に知的傷害者がいて、僕に対し先入観や偏見がなかったことです。優しくて、「僕も普通にSEXできるじゃん」という自信を自然に持たせてくれました。こうしたことが、僕たちにどれほど勇気と力を与えてくれるものか、健常者の方はちょっと理解できないかもしれません。
 そして本当に、僕の世界と視野はパーッと広がったのです。いままで日常生活のなかで、大変だと思っていたことも、やってみたら大したことではない、と。入浴、着替え、掃除、工夫次第で簡単にできるじゃないか。それが相乗効果になり、精神的にも余裕が生まれ、自分のことは自分でするという気持ちが強くなり、一人暮らしを始めました」(前掲「週刊宝石」より)

「性」の自立が「社会的」な自立につながる。逆もまた然り。これは熊篠氏だけの特別な事例ではない。「障害者の性」問題の解決に取り組むNPO「ホワイトハンズ」では、身体障がいにより自力での射精行為が困難な男性に対して射精介助のケアサービスを提供しているのだが、同法人の代表理事である坂爪真吾氏は『セックスと障害者』(イースト・プレス)のなかでこのように綴っている。

〈射精介助のデータを分析していく中で、「射精介助の利用率は、本人の社会参加の活発さに比例する」という法則が浮かび上がってきました。性に関する介助というと、若い世代の人、性的欲求の強い人が頻繁に利用する、というイメージがありますが、現実はむしろ就労やスポーツ、学業や障がい者運動、レジャーや旅行などの社会参加を活発にしている人の方が頻繁に利用する傾向があることが分かりました。
 性的にアクティヴな人は、社会的にもアクティヴです。自分の性ときちんと向き合い、自分の意思で性の健康を管理できる性的に自立した人は、他人の性も尊重できます。そのため、対人コミュニケーションもうまくいき、就労や趣味、スポーツなどのコミュニティにも参加しやすくなって、出会いの機会も増える......という好循環です〉

 健常者と同じように性的な体験をすることが自信となり、また、性的に自立している人は社会的にも自立しやすい。そのような傾向があるのだが、では、なぜ性的な自立が社会的な自立につながるのか。それは「母親の壁」が関係していると坂爪氏は指摘する。

 障がいをもって生まれた子どもとその母親の間には過度の母子密着が生まれやすい。トイレやお風呂、外出の世話まですべての生活を母親がサポートしているため、子どもはプライベートな時間をもつことが難しい。また、なんらかのコミュニティの集まりに参加していたとしても、そこに母親がついてくることにより、その場で恋愛関係が構築されることも難しくなってしまう。この「母親の壁」が結果的に自立を妨げることにもつながってしまうのだ。性的な自立は、この「母親の壁」からの自立ということでもある。

 また、こういった状況では、母親が本人に代わって意思決定をしてしまうことが多いため、自分から情報を集めたり、何かを決めたりということが難しくなってしまう。とくに、性的な情報などについてはその傾向が強い。思春期を迎えた子どもに「性的」な芽生えがあったとしても、家族はそれを見て見ぬ振りをしてしまうからだ。

 そのように、障がい者と性の問題を見て見ぬ振りしてしまうのは学校教育の現場でも同じだ。「寝た子を起こすな」の姿勢の性教育が、身体のどこに障がいがあるかは関係なく障がいをもつ人たち全員の教育に共通してあり、そうして性の問題をタブー視していることが、また新たな問題を生んでいると熊篠氏は主張している。

「異性との接し方、オナニーの方法、SEXの仕方など、障害者に対し、性に関する情報はあまりにも閉ざされていました。僕たちは性的に封印され続けてきたのです。でも、僕たちだって生身の人間なんです。性的欲求は体の奥からフツフツと沸き上がってきます。その欲求にどう対処すればいいのか、その答えが見つからずモンモンとした日々を過ごしている障害者が、僕の周りにはたくさんいます。(中略)僕たちは障害者というより、障害にがんじがらめにされた者たちなのです」(前掲「週刊宝石」)

「障がい者はセックスのことなど考えない純潔な人である」という健常者の勝手な思い込みは、彼らを苦しめ続けている。今回の乙武氏の不倫報道をきっかけに、そのような偏見が少しでも是正されればと願うばかりだ。

2016年5月6日   livedoor



【視覚障害者柔道】リオ代表内定。北薗新光が3階級減量で2度目のパラ出場へ

2016年05月07日 03時19分47秒 | 障害者の自立

 9月のリオパラリンピックの柔道(視覚障害)日本代表候補選手を決める選考会が4日、講道館で行なわれた。男子5(60kg級、66kg級、73kg級、90kg級、100kg超級)、女子1(57kg級)の各階級の優勝者6人の出場が内定(※)した。なお、今大会で実施されなかった女子63kg級は、国際パラリンピック委員会(IPC)の個人招待枠の指名を受けた米田真由美(三井住友海上あいおい生命保険)が代表に内定。

 視覚障害者柔道は弱視、全盲など視力の状態によるクラス分けはなく、一般の柔道と同様に、体重別で試合が行なわれる。両者が組んだ状態から「始め」となる。

 男子60kg級は、ロンドンパラリンピック代表の平井孝明(熊本県盲学校)と同66kg級代表だった廣瀬誠(愛知県立名古屋盲学校)による一発勝負。ロンドン大会後に廣瀬が階級をもともとの60kg級に戻し、これまで幾度となく頂点を争ってきた2人の対戦は、今回もゴールデンスコアに突入する大接戦に。最後は平井の攻めをかわした廣瀬が抑え込みで一本勝ち。

「パラリンピックへの挑戦はリオが最後」と表明している廣瀬は、「平井選手は年下だけど努力を惜しまない尊敬する柔道家のひとり。彼のためにもリオではメダルを獲りたい」と活躍を誓った。廣瀬はアテネ大会60kg級で銀メダルを獲得している。

 66kg級は藤本聰(徳島視覚支援学校)が優勝。長年の酷使で両手首にダメージがあるため、トレーニングにブラジリアン柔術を取り入れるなどして寝技を強化。その努力が結果につながった。過去4度のパラリンピックで金メダル3個、銀メダル1個を獲得している藤本は、ロンドン大会は選考会で敗れて出場を逃している。それだけに、リオ出場を確実にし、「ホッとしています」と笑顔を見せた。

 90kg級は4人が出場。北京大会代表の初瀬勇輔(ユニバーサルスタイル)、ロンドン大会代表でアテネ大会では81kg級で銀メダルを獲得した加藤裕司(牛窪道場)、シドニー大会100kg級銅メダリストの松本義和(アイワ松本治療院)と、そうそうたる選手に全勝したのが、昨年の日本選手権の覇者・廣瀬悠(はるか/伊藤忠丸紅鉄鋼)。

 昨年12月に入籍した妻・順子(同、旧姓:三輪)も女子57kg級で優勝し、夫婦そろってリオへの切符を手中にした。終了後は多くの報道陣の前で並んでガッツポーズ。順子は2014年仁川アジアパラ競技大会で銀メダルを獲得しており、リオで目指すは「夫婦でメダル獲得」だ。

 男子100kg超級は、正木健人(エイベックス・グループ・ホールディングス)が相手の棄権による不戦勝。ロンドン大会では日本勢唯一の金メダルを獲得しており、2連覇に期待がかかる。

「何より優勝できて嬉しいです」

 そう言って安堵の表情を見せたのが、男子73kg級の北薗新光(アルケア)だ。大学3年生で出場したロンドン大会は100kg級の代表で7位。それから4年を経て、今回は3階級も軽いクラスで勝負をかけた。

 今大会で、この階級のロンドン大会代表の高橋秀克(フジテレビ)に優勢勝ち、また昨年の日本選手権準優勝の19歳・石橋元気(福岡高等視覚特別支援学校)に一本勝ちと気を吐き、並みいる強敵を倒してリオ内定を手にした。

 階級変更の理由は、ズバリ「世界で勝つため」。2014年10月の仁川アジアパラは90kg級で銀メダルを獲得したが、その直前にアメリカで行なわれた世界選手権ではキューバの選手に一回戦負けを喫した。痛感したのは“世界”とのフィジカルの違い。北薗自身も力勝負を得意とするが、それで勝負できるのはより軽い階級だと実感したという。

 もちろん、大幅に体重を落とせば、自分の柔道も変わってしまう。それを避けるため、北薗は食事とトレーニング内容を徹底的に見直し、減量しながらもスピードとパワーはキープするという過酷な挑戦に黙々と挑んだのだった。

 そのハードルを乗り越えられたのは、周囲のサポートがあったからだと、北薗は言う。厳しい食事制限は妻の協力で継続できている。また、現在は会社の支援を受け、柔道に集中する恵まれた環境がある。そして毎日の稽古では、兵庫県警機動隊の隊員たちとともに汗を流す。そこでは全国警察柔道大会の優勝メンバーで、国際柔道大会にも出場経験がある隊員から指導を受けており、柔道の技と心を学んでいるという。

「機動隊の方々は本当に強くて、僕は全然勝てません。でも、これまで自信があったところでさえもっと鍛えないと、と思えるし、勝てないところでやることに意味があると感じています」

 稽古で教わった通り、どんな状況でも技をかけたら最後まで諦めないことが信条だ。その成果を今回の試合で出すことができ、手ごたえを感じている。リオについては、「好成績を残すことが、お世話になった人たち、そしてライバルたちへの恩返しになる。自分だけではなく、そういう人たちの気持ちを持ってやりたい」と話す。

 9月の本番に向けてさらに柔の道を追求していく。

2016.05.05  sportiva.shueisha