2020年の東京五輪・パラリンピックを見据え、航空会社やホテルが、障害のある人へのサービスを拡充している。4月1日に施行された障害者差別解消法なども背景に、「だれにとっても便利で快適なサービスを」という動きだ。
■樹脂製車いすで検査時間短縮
全日空は4月21日、羽田空港国内線の利用客に貸し出す車いすを金属探知機に反応しない樹脂製に換えた。
車いすの利用者は、チェックインの際に自分の車いすを荷物として預け、同社が用意した車いすに乗り換え、保安検査場を通るのが一般的だ。だが、この車いすは金属製。利用客が金属を身につけていなくても探知機に反応し、ボディーチェックを受けなければならなかった。
こうした不便をなくそうと、同社は13年、車いすメーカーの松永製作所(岐阜県養老町)と新製品の開発を始めた。試行錯誤の末、実現したのが樹脂製の車いすだ。座面のクッションやベルトを除き、車輪や軸受けなどが強化樹脂でできている。
羽田空港国内線第2旅客ターミナルに64台を導入。20年には、国内の空港(4月28日現在、49カ所)に計500台を備える計画だ。
報道関係者へのお披露目の場で、車いすを利用して12年という心理カウンセラーの矢嶋志穂さん(42)=川崎市=が試乗した。「これまでは、ボディーチェックに時間がかかるのがおっくうで飛行機の利用は年に2回程度。でも、樹脂製だと時間が短縮できる。飛行機で外出しようという気持ちにつながります」
同ターミナルの「スペシャル アシスタンス カウンター」では、聴覚に障害のある人らに遠隔手話通訳サービスも始めた。専用のタブレット端末を操作すると画面に手話通訳のオペレーターが現れ、利用客の手話を音声に、また空港係員の音声を手話に同時通訳してくれる。羽田を含む7空港に16年度内に採り入れ、利用状況をみて全国展開を検討するという。
これまでは筆談ボードが使われていたが、報道関係者の前で試用した聴覚障害のある東京都の女性は「私は手話のほうが会話がスムーズで楽ですね。飛行機に乗るのが楽しみになりました」。
全日空の空港業務推進部サービス開発チームリーダーの島田俊哉さんは「東京五輪・パラリンピックに向け、お手伝いが必要な利用者が増えると思います。だれもが便利で楽しく、安心して飛行機を利用できる環境を整えたい」と話す。
手話サービスを提供しているのは、福祉サービス事業を手がけるプラスヴォイス(本社・仙台市)だ。仙台市と東京都渋谷区にセンターがあり、計16人の手話通訳オペレーターが待機し、対応している。
■「おすすめは?」 端末通じ会話
東京・新宿の京王プラザホテルも5月1日、同様の遠隔手話通訳サービスを宿泊客向けに導入した。
タブレット端末を5台用意し、宿泊客に無料で貸し出す。午前8時~午後9時、ホテル内のインターネット通信が安定してできる場所で利用できる。フロントでの手続き、客室からフロントへの問い合わせのほか、持ち運びができるので宿泊者専用ラウンジでスタッフと話したり、端末を前に客同士が会話したりもできるという。
端末には音声を文字に変換する機能も備わっているので、手話サービスが利用できない場所でも幅広く活用できる。例えばレストランで、客が端末の画面に「おすすめのコース料理は何ですか?」と書いて、スタッフが口頭で説明を始めると、音声が同時に文字に変換され、表示される。
これまでは、97年に導入した筆談器を使っていたが、新機器でより細やかなサービスをめざす。障害者差別解消法が企業に求める「合理的配慮」をさらに充実させることや、20年に向けて「バリアフリーを推進してきた強み」で貢献することを考えたという。
同ホテルは、リハビリテーション世界会議が88年に東京で開かれた際、車いすで利用できる客室を設けたのを機に、バリアフリーを進めてきた。02年には車いすの高さに合わせたテーブルや盲導犬用のえさを入れるボウル、ノックの音に反応して天井灯が点滅するセンサーなど障害に応じた設備を整えたユニバーサルルーム10室を設置。15年度の稼働率は約83%で、全客室(1438室)の稼働率(約86%)と変わらない高さだ。
営業戦略室副部長の斎藤潤子さんは「ホテル名のプラザ(広場)には、幅広いお客様の憩いの場、コミュニケーションの場という思いが込められている。遠慮なく必要な情報を得て、ホテルライフを楽しんでほしい」と話す。
2016年5月6日 朝日新聞デジタル