災害時に通常の避難所で過ごすことが難しい高齢者や障がい者、妊産婦ら(要配慮者)を受け入れる「福祉避難所」が、県内で大幅に不足している。県のまとめでは昨年12月1日現在、県内の要配慮者約9万3200人に対し、市町が指定している避難所計231カ所の収容可能人数は約1万7800人で、収容能力は約19%にとどまる。要配慮者の約8割が必要な設備が整う避難所で過ごせない可能性があり、早急な整備が求められそうだ。【花澤葵】
福祉避難所は、自治体が災害救助法に基づいて民間の福祉施設や公共施設などをあらかじめ指定し、災害時に自治体の要請で開設される。国の指針では、バリアフリー化された施設であることのほか、介護用品や車椅子、衛生用品などの備蓄が求められている。また、要配慮者10人程度に生活相談員1人の配置が望ましいとされる。
福祉避難所が不足すれば、要配慮者は公民館や体育館など一般の避難所で過ごすことになるが、バリアフリー化されていなかったり、混雑するなどして大きな負担となる恐れもある。
県のまとめによると、県内で231カ所が福祉避難所に指定されており、内訳は高齢者施設が159カ所▽障がい者施設が35カ所▽特別支援学校が2カ所▽公民館が2カ所--などとなっている。
全20市町で最低1カ所は指定されているが、収容能力は、伊方町と上島町を除く18市町で不足している。県のまとめを基に市町ごとの収容能力を毎日新聞が計算したところ、東温市1・1%▽伊予市1・2%▽愛南町2・0%▽松野町5・0%▽内子町5・5%▽宇和島市7・8%▽四国中央市9・2%▽西予市9・6%--などとなり、8市町が10%未満だった。
なぜ福祉避難所の不足が解消されないのか。県内で要配慮者が最も多い松山市の高齢福祉課の担当者は「対象となる施設が元々少ないことが原因で、新たに施設が建つのを待つしかない」と説明。その上で「実際に災害が起きたら(今の状況では)間違いなく混乱する」と打ち明ける。
東温市は「施設側は入所、通所する人の安全が第一で、人材確保をどうするのかなど、どこまで協力できるかわからないということがある」(社会福祉課の担当者)。愛南町防災対策課の担当者は「町内の介護事業所は小さく、受け入れができる施設が少ない」とし、「一般の避難所の学校の教室などを福祉スペースとして利用していく予定だが、本当に必要な人が福祉避難所に入れるように、受け入れや運営の訓練が肝となる」と強調した。
2011年の東日本大震災や16年の熊本地震では、十分な整備や周知がされていなかったことから、負担の大きい避難所に身を寄せることを余儀なくされたり、福祉避難所を利用できなかったりした高齢者、障がい者らが多かった。
公益財団法人「愛媛県身体障害者団体連合会」(松山市持田町)の渡部一彦事務局長(61)は「障がい者も一般の避難所で対応できるように訓練を行っているが、車イスの方が普通のトイレを使うのは難しく、ベッドや食事などの問題もあり、それぞれの障がいに応じた対応が必要。きめ細かい対応ができる福祉避難所の整備が進めばいいが、協力体制も必要だと思う」と話した。
*視点
災害弱者救える社会に
福祉避難所の整備は全国的に遅れている。内閣府によると、2014年10月1日現在、指定している自治体は半数に満たない。
昨年4月、熊本地震の取材で一般の避難所を訪れた際、つえが手放せない高齢者が何人かに支えられながらトイレに連れていってもらう姿を見た。また、車中で寝泊まりを続け、亡くなった難病の女性もいた。福祉避難所が機能すればこうした避難者や周囲の負担は減り、震災関連死も防ぐことができたのではないか。そう思えてならない。
福祉避難所は1995年の阪神大震災を機に注目された。だが、東日本大震災や熊本地震では指定の遅れ、周知の不足などから十分に機能しなかった。この教訓を無駄にしてはいけない。
南海トラフ巨大地震の発生も懸念される今、行政は危機感を持って指定や周知の動きを速める必要がある。また、行政間だけでなく、住民も巻き込んで施設や人手不足などの課題解消に取り組み、支援の網の目から抜け落ちる「災害弱者」を救える社会をつくるよう力を入れてほしい。現状のままの放置は許されない。
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災害時に通常の避難所で過ごすことが難しい高齢者や障がい者、妊産婦ら(要配慮者)を受け入れる「福祉避難所」が、県内で大幅に不足している。県のまとめでは昨年12月1日現在、県内の要配慮者約9万3200人に対し、市町が指定している避難所計231カ所の収容可能人数は約1万7800人で、収容能力は約19%にとどまる。要配慮者の約8割が必要な設備が整う避難所で過ごせない可能性があり、早急な整備が求められそうだ。
福祉避難所は、自治体が災害救助法に基づいて民間の福祉施設や公共施設などをあらかじめ指定し、災害時に自治体の要請で開設される。国の指針では、バリアフリー化された施設であることのほか、介護用品や車椅子、衛生用品などの備蓄が求められている。また、要配慮者10人程度に生活相談員1人の配置が望ましいとされる。
福祉避難所が不足すれば、要配慮者は公民館や体育館など一般の避難所で過ごすことになるが、バリアフリー化されていなかったり、混雑するなどして大きな負担となる恐れもある。
県のまとめによると、県内で231カ所が福祉避難所に指定されており、内訳は高齢者施設が159カ所▽障がい者施設が35カ所▽特別支援学校が2カ所▽公民館が2カ所--などとなっている。
全20市町で最低1カ所は指定されているが、収容能力は、伊方町と上島町を除く18市町で不足している。県のまとめを基に市町ごとの収容能力を毎日新聞が計算したところ、東温市1・1%▽伊予市1・2%▽愛南町2・0%▽松野町5・0%▽内子町5・5%▽宇和島市7・8%▽四国中央市9・2%▽西予市9・6%--などとなり、8市町が10%未満だった。
なぜ福祉避難所の不足が解消されないのか。県内で要配慮者が最も多い松山市の高齢福祉課の担当者は「対象となる施設が元々少ないことが原因で、新たに施設が建つのを待つしかない」と説明。その上で「実際に災害が起きたら(今の状況では)間違いなく混乱する」と打ち明ける。
東温市は「施設側は入所、通所する人の安全が第一で、人材確保をどうするのかなど、どこまで協力できるかわからないということがある」(社会福祉課の担当者)。愛南町防災対策課の担当者は「町内の介護事業所は小さく、受け入れができる施設が少ない」とし、「一般の避難所の学校の教室などを福祉スペースとして利用していく予定だが、本当に必要な人が福祉避難所に入れるように、受け入れや運営の訓練が肝となる」と強調した。
2011年の東日本大震災や16年の熊本地震では、十分な整備や周知がされていなかったことから、負担の大きい避難所に身を寄せることを余儀なくされたり、福祉避難所を利用できなかったりした高齢者、障がい者らが多かった。
公益財団法人「愛媛県身体障害者団体連合会」(松山市持田町)の渡部一彦事務局長(61)は「障がい者も一般の避難所で対応できるように訓練を行っているが、車イスの方が普通のトイレを使うのは難しく、ベッドや食事などの問題もあり、それぞれの障がいに応じた対応が必要。きめ細かい対応ができる福祉避難所の整備が進めばいいが、協力体制も必要だと思う」と話した。
■視点
災害弱者救える社会に
福祉避難所の整備は全国的に遅れている。内閣府によると、2014年10月1日現在、指定している自治体は半数に満たない。
昨年4月、熊本地震の取材で一般の避難所を訪れた際、つえが手放せない高齢者が何人かに支えられながらトイレに連れていってもらう姿を見た。また、車中で寝泊まりを続け、亡くなった難病の女性もいた。福祉避難所が機能すればこうした避難者や周囲の負担は減り、震災関連死も防ぐことができたのではないか。そう思えてならない。
福祉避難所は1995年の阪神大震災を機に注目された。だが、東日本大震災や熊本地震では指定の遅れ、周知の不足などから十分に機能しなかった。この教訓を無駄にしてはいけない。
南海トラフ巨大地震の発生も懸念される今、行政は危機感を持って指定や周知の動きを速める必要がある。また、行政間だけでなく、住民も巻き込んで施設や人手不足などの課題解消に取り組み、支援の網の目から抜け落ちる「災害弱者」を救える社会をつくるよう力を入れてほしい。現状のままの放置は許されない。

熊本地震の避難所で体操する高齢者や子どもたち。部屋は満杯で、ベッドや仕切りなどはなく、毛布などを敷いて生活した
毎日新聞 2017年8月1日