全身の筋力が低下する難病で治療法が見つかっていない「ミトコンドリア筋症」で人工呼吸器をつけながら一人暮らしをする平本歩さん(31)=兵庫県尼崎市=が今月、自らの半生をつづった自伝を出版した。話すこともできず、舌のわずかな動きでパソコンを操作し執筆。ほとんど体を動かせなくても、懸命に自らの意思を伝える生き方に共感が広がっている。(加納裕子)
顔の筋肉が動かなくなる前に自伝を
本の題名は「バクバクっ子の在宅記 人工呼吸器をつけて保育園から自立生活へ」(現代書館)。「バクバク」は簡易呼吸器が作動する音を意味するという。
舌で動かせる特殊なマウスによるパソコン操作で、会話の文章作成などを行ってきたが、ここ数年、それが難しい日が増えた。顔の筋肉が動かなくなる前に「人工呼吸器の使用者や障害者の参考にしてもらうため、自伝を書く」と決意。執筆に取り組んできた。
平本さんは生後6カ月で人工呼吸器をつけた。気管を切開したため話すことができず、体もほとんど動かせずに寝たきり。食事は胃瘻(いろう)で人工栄養だ。
父は「自立に向かって邁進せよ」の遺言を残し病死
4歳のとき、本人の強い希望で病院から在宅生活に切り替え、地元の保育園から小、中学校に進み、受験にも挑戦して高校に通った。高校卒業の2年後、常に付き添っていた父親が「自立に向かって邁進(まいしん)せよ」との遺言を残して病死した。
これを機に、平本さんは平成23年、25歳の時に尼崎市内のマンションで一人暮らしを始めた。市内に住む母親(66)と必要に応じてメールなどで連絡を取り合い、たんの吸引や日常的な介助は、ヘルパー2人が24時間態勢で行う。
意思表示は、わずかに動く顔の筋肉を使って「○」「×」を伝える。パソコン操作も「文字を打つのは早くて得意」といい、1文字に10秒もかからない。
現在は、たん吸引の研修施設「ポムハウス」(大阪府箕面市)でたん吸引を必要とする当事者として講師を務める。「自立し、やりたい生活ができるようになった」。障害がありながらも精いっぱい生きてきた。
やまゆり園事件1年に「被害者には夢があったはず」
昨年7月26日、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が元施設職員の植松聖被告(27)=殺人などの罪で起訴=に刺殺される悲惨な事件が起きた。
「障害者は生きている意味がない」との植松被告の言葉には今も憤りを隠さない。「被害者にはいろいろやりたいことや夢があったはず」とした上で、平本さんは「誰もが自分らしく楽しく生活していけば、きっとこんな残酷な事件はなくなる。私のような人がいることを多くの人に知ってほしい」と話している。

重い障害がありながら一人暮らしをする平本歩さん。声は出せないがパソコンを使い会話することができる
2017.8.15 産経ニュース