2020年東京パラリンピックを目標に、メダルを狙える有力選手の発掘、育成や競技転向を探る動きが活発化している。大会に間に合わせるには「残り3年がリミット」と日本パラリンピック委員会(JPC)の強化担当者。その波が京滋のアスリートや現場にも押し寄せている。
■京都・滋賀へも波
福知山高1年の足立悠都選手(15)=京都府福知山市=は、昨秋に行われた国の選手発掘事業への参加をきっかけに東京パラ出場を目指している。今春から陸上の走り高跳びに挑み始め、7月には早くも日本パラ陸上連盟の強化育成指定選手になった。「やるからには東京に出たい」と夢を描く。
昨年11月、高校時代は走り高跳びの選手だった母の歩さん(46)の勧めで、国立スポーツ科学センター(東京都)で行われた選手発掘事業に参加した。身長179センチ、体重55キロと細身で手足が長い体つき。短距離走や垂直跳びなどの測定を受けると、陸上関係者から熱い視線を浴びた。「跳躍に向いている体格。頑張ればパラに出られるかもしれないよ」。声を掛けられ、心が動いた。
小学生から始めて全国2位にもなった社交ダンスを続けるか悩んだ末に決断し、高校では陸上部へ。「パラリンピック、大きな世界大会に出場したい」との思いが決め手になった。
生まれつき左前腕の二つの骨がくっつく病気などのため、左腕は短く、握力もほとんどない。体を動かすのは幼少の頃から好きで、雪の中でもサッカーを楽しんだ。中学では先輩に誘われてソフトテニス部に入ったが、意識が変わり始めたのは昨年9月のリオデジャネイロ大会。義足で走り高跳びに挑むアスリートをテレビで見て「すごい選手がいる」と感動した。
初挑戦となった今年6月の日本パラ陸上選手権は1メートル50センチを跳んだ。好記録を次々に打ち出した他種目のトップ選手に刺激を受けた。7月には「自分の可能性を試したい」と大阪市内であったJPCの選手発掘事業に参加、テコンドーやボートを体験した。
関係者から高い評価を得たが、今は陸上への思いが勝る。「もっと筋力をつけないと。自己記録を伸ばし日本代表に」と目を輝かせた。
■競技転向も
福知山高の足立選手が7月に参加したJPCの選手発掘事業は、競技スポーツに取り組む障害者を対象に、東京大会でメダル獲得の可能性が高い競技へ転向を促す狙いがあった。陸上や水泳のほか視覚障害者柔道など13競技団体が参加者30人の潜在能力を探った。JPCの強化担当者は「現在、11人が各競技団体とコンタクトを取っている」と成果を強調する。
競技人口の少ないパラ競技は、一握りのトップ選手だけが突出する「鉛筆型」と呼ばれる構造になっている。障害者スポーツに詳しい立命館大産業社会学部の金山千広教授は「健常者のスポーツと違って母数が少なく、種目トランス(転向)が効果的」と話す。ハンドボールから陸上に転向して1年半でリオ大会銅メダルに輝いた辻沙絵選手のように、各選手の適性の見極めと戦略が重要だ。
日本体育協会が事業主体となり、五輪とパラの有望選手を発掘、育成する「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」も本年度に始動し、今月13日に京都市内でパラ5競技の測定会が行われた。京都府はパワーリフティングと車いすフェンシングの2競技が育成拠点に指定され、1競技1千万円の助成金を基に、選抜された選手への支援を府体協が担う。府体協の川村隆史事務局長は「各競技団体と相談しながら事業を進めていく。フォーラムなどでプロジェクトの周知を図りたい」と意気込む。
滋賀県はスポーツ庁から委託を受け、特別支援学校を活用した実践事業に取り組む。2024年の国体とともに開く全国障害者スポーツ大会を見据え、「軸足は普及に」(県スポーツ局)と地域レベルで裾野を広げることを優先する。
金山教授は「20年以降は国の予算が今のように潤沢に付かなくなるはず。地域総合型スポーツクラブや学校教育で障害者スポーツを推進する体制をつくっておくべき」と提言する。
2017年08月27日 京都新聞