フルマラソンは今年も実業団所属の招待選手を軸に展開しそうだ。男子は本命不在の混戦模様だが、昨年2位に入った松尾良一(旭化成)が雪辱に燃えている。初挑戦の昨年はスパート勝負で敗れただけに、仕掛けどころを見極めたい。招待選手で最も持ちタイムがいい田村英晃(JR東日本)や34歳のベテラン福山良祐(ホンダ)らに加え、一般参加でロンドン五輪代表の藤原新(ミキハウス)の出場が決まり、がぜん面白くなってきた。
女子は初マラソンで2時間30分を切る好記録を出した城戸智恵子(キヤノンAC九州)や22歳の奥野有紀子(資生堂)ら伸び盛りの若手に注目。冬からのリオ五輪選考レースに弾みをつけたい。
ただ、ノーマークの選手が一躍脚光を浴びる機会が多いのも過酷な夏マラソンならでは。新星誕生にも期待がかかる。
加えて今大会は、リオパラリンピックのマラソン視覚障害者クラスの代表選考レースになったほか、はまなす車いすマラソン(ハーフマラソン)と合同開催。国内トップレベルの障害者アスリートの走りから目が離せない。
■松尾良一(24)=旭化成 昨年2位、雪辱期す
初めて北海道マラソンに挑んだ昨年は2位。「あまりの苦しさにレース直後は二度と出ないと思ったが、翌日になって2位が悔しくなりリベンジしようと誓った」
社会人6年目の今季、5000メートル、1万メートル、ハーフマラソンのすべてで自己ベストを更新。今大会に向け、7月中旬から千キロ以上走り込んだ。
「大きな故障がなく、不安要素もほとんどない」と順調な調整をアピールする。
昨年は25キロすぎに飛び出したが、終盤に失速して辻茂樹(大塚製薬)に抜かれた。「辻さんは大会3度目で、経験の差が分岐点になった。今年はコースも分かっているので、残り2キロを切ってから仕掛けたい」と言い切る。
長崎での高校時代から、トラックよりもロードに適性があると思い、「九州でマラソンといえば、宗兄弟がいた旭化成」と高校卒業後に迷いなく就職した。
マラソン10度目となる今大会は「昨年の忘れ物を取りに来た」。目指すのは優勝。それ以外考えていない。
■藤原新(33)=ミキハウス 復活の予感
ビッグネームは遅れてやってきた。2012年ロンドン五輪男子マラソン代表は、約1週間前に出場が決まった。「急な申し出にもかかわらず、スタートラインに立たせてもらえてありがたい」と感謝する。
出場の理由は、練習パートナーで10年大会優勝のサイラス・ジュイ(埼玉陸協)のエントリーだ。「ジュイがいない間、1人で練習するのはきつい」と語る。
自己ベストの2時間7分48秒は、出場選手の中で断トツ。ただ、ロンドン五輪で45位と惨敗した後は不本意なレースが続く。
「3年前の左足故障でフォームが変わってしまった。この夏に本来の走りに戻った感触があり、それを確かめたい」
道都で復活の走りを見せられるか。
■城戸智恵子(25)=キヤノンAC九州 実力十分、優勝狙う
「夏のマラソンは初めて。自分の力を出し切り冬の大会につなげたい」。2時間29分8秒で5位入賞した1月の大阪国際女子に続く2度目のフルマラソンだが、持ちタイムでは招待選手中トップだ。
熊本県出身。高校を卒業した2008年、実業団から声が掛かったが「練習がきつそう。陸上はもういい」と本格的な競技からは離れ、パン屋でアルバイトを始めた。その後は市民ランナーとして走っていたが、その年の12月に都道府県対抗女子駅伝の選考会に出場したところ、補欠に選ばれた。選手の必死な姿を見るうちに「もう一度走りたい」と、今の所属先へ進んだ。
ハーフマラソンで世界選手権代表になるなど実績を積み、「今回は選手の力はどんぐりの背比べ。優勝を狙いたい」とマラソンでも欲が出てきた。30キロの給水地点には、3年前に脳梗塞で他界した父に加え、母や祖母ら家族の写真を貼ったボトルを用意する。天国の父に力を借りるとともに、成長した姿を見せるつもりだ。
■奥野有紀子(22)=資生堂 視界に東京五輪
社会人1年目から夏のマラソン挑戦を決めたのは「5年後を見据えて、早い段階で経験したほうがいいと思って」。東京五輪で日の丸を背負うことを夢見てのことだ。
京産大4年だった今年1月、次世代の選手育成のため設けられた「ネクストヒロイン」枠で大阪国際女子マラソンに出場。初のフルマラソンで8位と健闘したが「最後の5キロは地獄のようなしんどさ。競技の怖さを知った」と振り返る。
7月下旬から約1カ月間、米国での高地合宿を行い、終盤の体力維持にも手応えを得た。「34~35キロからどれだけ体を動かせるか。沿道の方に粘る姿を見てほしい」。東京五輪でヒロインになるべく、北海道を大きなステップにしたい。
■車いすマラソン 代表選考へ力試し
車いすマラソンの男子に出場する久保恒造(34)=日立ソリューションズ、美幌高出=は「初の合同開催。何としても地元で優勝したい」と意気込む。
バイアスロンで銅メダルを獲得したソチパラリンピック後から、マラソンを主体に活動。11月のリオ大会選考レースに向け、仕上がり具合を試す絶好の機会だ。「強い選手とどこまで戦えるか確認したい」と力強い。
女子では、リオパラリンピックで念願の金メダルを狙う土田和歌子(40)=八千代工業=が出場。「スプリント力を向上させたい」と、スピードとパワーのある男子選手との並走でレベルアップを目指す。北海道マラソンとの合同開催は「注目度が高い大会なので、多くの人に関心を持ってもらえる」と、沿道からの大きな声援にも期待を寄せる。
一方、フルマラソンに出場する視覚障害者の多くは盲人マラソンの世界選手権4位の岡村正広(RUNWEB)ら、男女とも国内トップクラス。伴走者と心を一つにして、リオパラリンピックを目指す走りに注目したい。
08/30 北海道新聞