連載では、相談支援を受ける佐賀県内4世帯のケースで生活困窮者自立支援制度の今を伝えた。支える側は、どう感じているのか。就労訓練事業を受け入れている障害者福祉サービス「昆虫の里」所長の中尾富嗣さん(43)▽ファイナンシャルプランナーでグリーンコープ生活協同組合さが相談支援員の江頭こず恵さん(52)▽県生活自立支援センター相談支援員の坂井貴美子さん(30)-の3人に現場の思いを聞いた。(文中敬称略)
-支援の手応えは
中尾 就労訓練の受け入れはまだ男性1人だが、訓練開始前は表情も暗く無口だった男性が少しずつ朗らかになり、会話も増えた。社会で生きる力を取り戻しつつあると実感する。今後も就職につながるステップアップの場として訓練の場を提供したい。
江頭 困窮原因の一つがお金の使い方。従来の生活保護や社会福祉協議会の貸し付けだけでは、浪費などの問題は解決しなかった。家計相談は本人の生活習慣を向上させる手助け。家計を見直す中で「貯金せないかん」と気付いたり、反省したり、良くなるケースも出てきている。
坂井 相談者の多くは長年問題を抱え、頼れる人がいない。支援によって相談者の孤独は解消される。相談先が分からなかったという問題も少しずつ解決し、自立への意欲も高まる。引きこもっていた20代女性の場合、参考に学習支援のチラシを渡したところ、数年ぶりに家を出て資格習得の勉強を始めた。本人の一歩を後押しできた。
-支援しても困難なケースはあるか
江頭 生活再建には本人の自覚と努力が必要。たばこや酒に依存して家計を圧迫している場合、計画通りにいかないことも多い。借金や浪費を隠し、正直に話してもらえず実態がつかめないこともある。信頼関係を築き、本人のやる気を引き出すことが大事だ。
坂井 支援が進んでも、これで正しかったのだろうかと葛藤もある。ある20歳男性の家庭では、両親が祖母の年金約7万円を頼りに生活してきたが、高齢者虐待として世帯分離され、困窮していた。両親の就職は見込めず、男性に給料の半分以上の支援を求めざるを得なかった。
-それでも支援するのは
中尾 体力があっても就労に踏み切れない人や引きこもったまま悩んでいる人は、どの地域にもいる。そんな人が地元で活躍することができれば、本人の収入増や自己実現だけでなく、人手不足の解消や活性化にもつながる。助け合いは地域づくりだ。
江頭 自立には家計の改善が欠かせないが、県内で家計を専門的に相談支援しているのは昨年12月末現在、唐津市、武雄市、神埼市と10町に限られる。他の7市にも取り組みが広まってほしい。
坂井 支援の目的は困窮者が生活保護を受給する立場になることを防ぐだけではない。困っている人が地域で役割や人とつながりをもって、暮らしやすさを実感できるようにしたい。もし近くに困っていそうだけど“おせっかい”はできないという人がいたら「こんな支援があるよ」とそっと伝えてほしい。地域で見守り、支え合う仕組みづくりの第一歩になると思う。
=おわり
=2016/01/24付 西日本新聞朝刊=