米国の401(K)導入状況について、今年5月のFPジャーナル(日本
ファイナンシャルプランーズ協会発行)にコラムが載っていました。
それによると、米国の401(K)プランが誕生して2006年11月で25年に
なるそうです。この25年で米国では確定給付型年金と確定拠出型年金
の加入者数は逆転しています。
ICC(投資信託協会)の発表によると、25年前は企業の確定給付型年金
の加入者は3000万人で、401(K)プランの加入者は、ほとんどいません
でした。それが、25年後の今日は、401(K)プラン入者が、4700万人と
なっている一方、確定給付型は2100万人です。
総資産額は、401(K)が、2兆4000億ドル、確定給付が1兆9000億ドルと
いうことです。(2005年末現在)
日本の企業年金制度の現状は、
厚生年金基金の加入者は、525万人(2007年9月1日)
適格退職年金は、 506万人(2007年3月末)
確定給付企業年金は、 430万人(2007年3月末)
と確定給付型が合計で、1461万人です。
一方、6年前に創設された確定拠出年金は、
企業型加入者が、 244万人(2007年6月末)となっています。
日本の企業年金の現状については、企業年金基金連合会や厚生労働省
のホームページで見ることができます。
適格退職年金から確定拠出年金への移行では、積立不足がある場合、
その不足額を補填しても、しなくても、確定拠出年金への移行は可能
です。詳しくは、9月24日のブログをご覧下さい。
企業の退職給付制度が退職一時金と適年により構成されている場合
は、退職一時金制度から確定拠出年金への移行もできます。
退職一時金制度からの移行で、資産の移換を伴う場合には、4年から
8年にかけて、資産を移換することになります。
適年の積立不足は補填せず、積立金だけを確定拠出年金へ移換し、
退職一時金制度からの資産の移換を組み合わせることもできます。
さて、確定拠出年金制度への移行では、「従業員に投資経験が少ない」
ことが、制度移行に当たっての最大の不安材料です。
これまで、確定拠出年金の導入コンサルを、さまざまな業種や従業員
規模が異なる中小企業で行っています。投資教育にも立ち会っていま
すが、投資教育を理解することについては、年齢、性別、職種での違い
はないように感じています。
事業主が心配するほど、従業員には投資教育への不安はありません。
むしろ、お金を払わないと聞けないセミナーが無料で聞けたというよう
に受け止めていることが多いです。
企業は、新製品を研究開発したり、新入社員を教育したりして、成長
していくわけですから、確定拠出年金制度における投資教育を、自社
の従業員が理解できないと考えるのは、取り越し苦労だと思います。
適格退職年金から確定給付企業年金への移行は、一般的に垣根が高く、
トータルコストが増えることになります。
確定給付企業年金には、基金型と企業型があります。
基金型は、厚生年金の代行部分がない厚生年金基金と似ており、大企業
向きの制度です。
規約型は、適格退職年金と似ており、中小企業向きの制度です。が、財政
検証が義務付けられており、厚生年金基金並みに行う必要があります。
適年から移行する場合には、権利義務が継承され、年金財政の洗い直しが
行われます。適年の予定利率は、一般的に高い設定(5.5%あるいは4%等)
になっていますが、年金財政の健全化を図るために、確定給付企業年金
では、予定利率を2.5%等と低くすると、積立不足(=過去勤務債務)が
増えることになります。この積立不足は、一定年数で必ず償却することが
求められています。
また、確定給付企業年金を終了する場合には、不足額がある状態では終了
できません。不足額を補填することが必要です。
厚生年金基金も適格退職年金も、約40年程で制度疲労に陥りました。
40年前に20歳前後で入社した人達が、いざ年金や退職金を受け取ろうと
したとき、頼りにならない制度になってきています。
確定給付企業年金の選択に当たっては、かなり長いスパンで検討すること
が大切だと思います。
適格退職年金から中小企業退職金共済への移行にあたっては、中退共の
掛金増額変更における国の助成を活用することをお勧めします。
適年の積立金は、従業員ごとの持分に分けて、中退共に移します。
持分の分配方法は、適格退職年金規程に定められています。
一般的には、責任準備金比例、要支給額比例、勤続年数比例のいずれか
になっています。
従業員各自の持分は、中退共で定められている、「引渡金額早見表」に
より移行時の通算月数と掛金を計算します。
通算月数は、適年の加入年数を越えることはできません。
「引渡金早見表」による金額と持分の差額は、残余の額として、掛金と
ともに1%の利回りで、従業員の退職時まで積み立てられます。
引渡金の計算に当たっては、通算月数が優先されますので、移行時の
掛金は、ほとんどの従業員が5,000円となることが多いです。
適年が積立不足となっている場合は、この5,000円の掛金のままでは、
退職金規程の支給水準に到達しません。退職金支給額を下げることは、
労働条件の不利益変更となります。
適年から中退共へ移行に際しては、退職金規程に則った、掛金テーブルを
作ることになります。移行後、それぞれの従業員の掛金を掛金テーブルに
沿って増額していく措置が必要になります。
中退共では、18,000円以下の掛金を増額変更すると、増額分の1/3が
1年間国から助成されます。掛金が18,000円までなら何度でも助成の対象
となります。
適年からの中退共への移行においては、この掛金の増額変更への助成を
是非、使ってください。
中退共の掛金を5,000円としたまま、退職金支給額の残りを生命保険とする
ことは、コストが高くなるのと、せっかくの中退共の長所を生かせません
ので、お勧めできません。
尚、適年の他に既に中退共契約がある場合には、一度中退共契約を解除
しないと、適年から中退共へ移行できません。中退共の解約手当金は、
従業員へ中退共から直接支給され、一時所得となります。
適格退職年金の積立金を移換できるのは、厚生年金金基金、確定給付
企業年金、確定拠出年金・企業型、中小企業退職金共済(中退共)です。
現実的な移換先としては、確定給付企業年金、確定拠出年金・企業型、
中退共です。これら3制度に、適年から積立金(=年金資産)を移す場合
には、その方法に違いあります。
中退共への移行では、適年の積立金のみの移換になります。
適年が積立不足の場合、その不足額を穴埋めしてからという方法は
取れません。
積立不足にあたる金額については、中退共に移行後、掛金を増額する
などの方法で対処することになります。
確定給付企業年金の場合は、やはり適年の積立金のみの移換となります。
適年の積立不足は、一定年数で必ず償却していく必要があります。
確定拠出年金への移行については、いくつかの誤解があるように思います。
まず、適年が積立不足では、確定拠出年金への移行はできません。
ほとんどの適年は、積立不足となっています。
では、この積立不足を穴埋めしないと、確定拠出年金への移行はできないの
でしょうか?
そうではりません。適年から確定拠出年金への移行に関しては、上記2制度
と違い、積立不足は補填しても、しなくても移行が可能です。
積立不足とは、責任準備金に対して積立金が不足している状態です。
責任準備金とは、将来の給付のために現時点で必要と考えられる金額の
ことです。
責任準備金を積立金と同額まで減額し、積立不足がない状態として、
確定拠出年金に移行できるのです。あるいは、責任準備金と同額まで
不足額を補填する、不足額のうち一定額までを補填し、足りない部分は
責任準備金を減額する等も可能です。
気をつけたいのは、積立不足を補填するために、銀行から融資を受ける
ことです。不必要な融資がほとんどですので、注意してください。
税制適格退職年金の移行先としては、厚生年金基金、確定給付企業年金の
基金型と規約型、確定拠出年金・企業型、中小企業退職金共済になります。
上記移行先の制度は、適年の年金資産を移換できる制度です。
このうち、適年の移行先として現実的なのは、確定給付企業年金、確定拠出
年金、中小企業退職金共済です。
適年から確定給付企業年金、確定拠出年金、中小企業退職金共済に移行し
た従業員数300人以下の企業へ、中小企業庁が平成17年9月から同年10月
に、アンケート調査を実施しています。
それによると、確定給付企業年金を選択した会社では、
従業員数が101人~200人までの会社が最も多く、45%強となっています。
選択理由は、①確定給付型での制度ある、②制度改定による従業員に与え
る影響を考慮、が多くなっています。
制度改定時の問題点は、①トータルコストの上昇、②移行手続きの煩雑さ、
③対応者の知識不足 が挙げられています。
確定拠出年金を選択した会社は、
従業員数が101人~200人が30%、51人~100人が20%、300人超が20%です。
選択理由は、①費用の見通しが立てやすい、②退職給付債務の計上不要、
③従業員の受給権が明白、を挙げています。
制度改定時の問題点は、労使ともに、「投資経験が少ない」ことに多数の
回答が寄せられています。
中小企業退職金共済を選択した会社は、
従業員数は、50人未満の会社が70%です。
選択理由は、「国の制度ゆえの安心感」が、やはり多くなっています。
制度改定時の問題点は、「掛金の設定方法が分かりにくい」を挙げています。
詳しくは、中小企業庁のホームページで見ることができます。
退職給付債務を認識する必要がある退職給付制度は、厚生年金基金、
適格退職年金、確定給付企業年金、退職一時金制度です。
退職給付債務-年金資産=退職給付引当金です。
この退職給付引当金は、B/S上の固定負債となります。
有税での引き当てです。
年金資産とは、厚生年金基金、適格退職年金、確定給付企業年金の
積立金のことです。積立不足ですと、引当金が嵩んできます。
退職一時金制度における退職給与引当金の非課税枠は、廃止されて
います。資本金1億円以下の中小企業等の場合は、平成14年度の決算
から10年間で取り崩し、益金として処理することが求められいます。
退職一時金制度では、年金資産=退職給付引当金となります。
退職一時金制度の内枠として、適年を実施している場合は、退職一時金
制度で退職給付債務を計算し、適年の積立金が年金資産となります。
厚生年金基金の総合型の場合は、加入企業ごとに退職給付債務や資産を
分けることが難しいとの理由で、各企業の決算に反映されることは、今の
ところありせん。
さて、問題は、生命保険を利用している場合です。
生命保険での退職金準備については、退職給付会計上の年金資産には
なりません。
生命保険の利用にあたっては、「節税、内部留保」という点に目を奪わ
れていると、足元をすくわれることになるのではないでしょうか?
退職金制度のための生命保険の契約に際して、生保サイドからは、中小
企業会計の指針、それに盛り込まれている内容など、まったく説明され
ていないのが実情です。
退職金制度に生命保険を利用している場合は、一度退職給付債務を計算し、
企業決算に与える影響を考えてみたいものです。
退職給付債務とは、将来の退職時に給付する退職給付見込み額のうち
現時点までに発生していると認められる部分の金額のことです。
上場企業では、この退職給付債務に関する国際会計基準が強制適用
されています。
中小企業の場合は、新会社法の施行(H18.5)に伴い公表された、
「中小企業会計の指針」のなかに盛り込まれています。
「就業規則等の定めに基づく退職一時金、厚生年金基金、適格退職年金
及び確定給付企業年金の退職金給付制度を採用している会社にあっては、
従業員との関係で法的債務を負っていることになるため、引当金の計上
が必要になる。」
退職給付債務を計算する場合、上場企業では、原則法となりますが、
中小企業では、簡便法で計算することが認められています。
簡便法には8通りの計算方法がありますが、一般的には期末要支給額で
計算する方法が採用されています。これは、期末に、自己都合事由で
退職する場合の退職金を計算したものです。この金額から退職金として
準備済みの資金(年金資産=基金、適年での積立金等)を控除した金額
が退職給付引当金となります。そして、退職給付引当金はB/Sに負債と
して計上することになります。
「中小企業会計の指針」は、新会社法に則り、公認会計士や税理士等が
会計参与として決算書を作成する場合の指針です。会計参与の設置は
任意ですので、退職給付債務を気にしないでおくことは可能です。
しかし、一部民間金融機関や信用保証協会の融資(保証)の審査では、
会計参与が関与した決算書を求める事例が発生しています。
退職給付制度の検討に際しては、退職給付債務について考えてほしい
と思います。
商工会議所年金教育センターのホームページに、昨年11月から本年2月
末までに、全国35箇所で開催した「適格年金制度から他の制度への移行
対策に係わるセミナー」(中小企業庁委託事業)で、参加者を対象に実施
した調査結果が掲載されています。
(対象:1,026企業、回収数:869企業、回収率:84.7%)
この調査結果によると、
①2012年3月末での適年の廃止については、97.5%が知っていた、と
なっています。
②適年の廃止への対応については、決定済みが8.4%で、80.9%が検討
中で、何もしていないが9.9%と回答してます。
③上記で検討中と回答した企業の対応策決定時期については、未定の
企業が43.4%もあります。
適年への具体的な対応は、これからだと言えます。
適年からの移行先として導入した制度、あるいは導入予定の制度とし
ては中小企業退職金共済が、22.0%、確定拠出年金が15.1%、確定給付
企業年金が14.3%と回答しています。
これを従業員別で見ると、100人未満の企業では、中退共が3割程度を
占めていますが、300人以上の企業では、確定拠出年金や確定給付企業
年金の割合が高くなっています。
対策を検討するに当たって、企業が相談するのは、適年の委託先金融
機関との回答が32.5%と最も多くなっています。
では、適年の委託先は、どこかというと、生命保険会社が72.4%です。
つまり、企業は適年の対策を検討する時、適年の委託先の生命保険会社
に相談し、従業員100名以下の企業では、中退共を勧められているという
ことになるのではないでしょうか。
これは、適年を受託している金融機関は、必ずしも確定拠出年金の運営
管理機関とはなっていないことや、例え確定拠出年金の運営管理機関と
なっていても、確定拠出年金を受託する条件として、加入者となる従業
員が50名以上ないと引き受けないということ等があるためと思われます。
厚生年金基金と並び代表的な企業年金制度である税制適格退職年金は、
2002年4月1日から新設できなくなっており、20012年3月31日までに、
他の制度に移行しなければなりません。
適格退職年金(以下適年)の現状は、どうなっているのでしょうか?
適年は、10年前の1996年3月末で、契約件数が91,465件、加入者数は
1,078万人でした。
制度の新設ができなくなった2002年3月末で、契約件数は73,582件、
加入者数は917万人でした。
その後5年間で、契約件数と加入者数は、ほぼ半減しています。
2007年3月末の契約件数は38,885件(△34,697件、△47.2%)、
加入者数は506万人(△411万人、△44.8%)です。
(カッコ内は5年前との比較)
資産残高は、2002年3月末で、22兆6,594億円ありました。それが
2007年3月末には、15兆6,253億円(△7兆341億円、△31.0%)と、
3割強の減少となっています。
適年の移行先として、年金資産を持ち込めるのは、厚生年金基金、
確定給付企業年金の基金型と規約型、確定拠出年金・企業型、そして
中小企業退職金共済です。
このうち、厚生年金基金は、代行返上や解散により基金数が10年前の
1/3になっていることから、現実的な移行先とはいえません。
確定給付企業年金は、適年より制度運営が重くなる制度ですので、
採用は慎重に検討されることが望ましいと思います。
中小企業の適年の移行先としては、確定拠出年金・企業型か中小企業
退職金共済ということになります。