横須賀総合医療センター心臓血管外科

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心筋梗塞の機械的合併症③ 乳頭筋断裂の治療

2018-05-06 05:29:56 | 心臓病の治療
 心筋梗塞後に発生する乳頭筋断裂は、乳頭筋の心筋が壊死したことによって発生します。乳頭筋が断裂すると、それに付着する腱索が根元からその固定されている地盤を失うので、通常の腱索断裂による僧帽弁逸脱よりかなり広範囲の逸脱が突然発生します。広範囲の逸脱による大量の僧帽弁逆流、かつ、逆流に慣れていない心臓に突然、急激に発症する僧帽弁逆流は、急速かつ重症の急性心不全を発症させ、死亡する可能性の高い状態になります。救急車で急性心不全で搬送されたり、急性心筋梗塞で入院中に急速に進行する重症心不全の場合は、心筋梗塞後の機械的合併症の可能性があり、その中の一つが乳頭筋断裂です。通常は突然発症する重症の僧帽弁逆流を心エコーで発見すれば、この病態を疑います。完全に乳頭筋が断裂した場合は、乳頭筋のHeadが収縮と拡張に合わせて大きく振り回されるので、その筋塊が動くのがエコーで見える場合もあります。不全断裂の場合は、乳頭筋のHeadが、その基部からちぎれかかっているような病態で、この場合は、逸脱の範囲が小さい可能性がありますが、経時的に急速に僧帽弁逆流が重症化していることで疑います。
 乳頭筋には、前乳頭筋(内側・Postero-Medial Pappilary )と後乳頭筋(外側・Antero-Lateral Papillary Muscle)があります。そして、両方の乳頭筋は下壁側に付着しています。乳頭筋の血流支配は、前乳頭筋は側壁側なので、回旋枝領域の心筋梗塞で発症し、後乳頭筋は中隔側なので右冠動脈となっているため、右冠動脈とくに後下行枝(4PD)領域の心筋梗塞で発生します。前乳頭筋の断裂を発生しうる急性心筋梗塞の原因となる病変冠動脈はどれか、次より選べ - 1.前下行枝、2.回旋枝、3.右冠動脈 ⇒ 正解 2 と、いうような試験問題を、大学の卒業試験のために作成したことが過去にあります。
 通常、乳頭筋断裂の場合は、さらに断裂が今後進んだり、他の部位に付着する腱索にも影響が出たりと、僧帽弁逆流のメカニズムが変化していく可能性があるため、弁形成術を行う事は困難であるため、治療は基本的に弁置換術となります。まずは確実な逆流の制御を行い、救命することが最優先のため、不確実な弁形成術をこことみることは通常ありませんが、特殊な場合は弁形成術が可能となる可能性があります。
 弁置換術は、生体弁か機械弁か、その年齢で選択することになり、一般には65歳以上は生体弁、それ未満は機械弁が一般的です。
 急性心筋梗塞がベースになって発症する僧帽弁逆流であるため、乳頭筋断裂以外の機械的合併症である、左室破裂や心室中隔欠損症を同時に発症することは稀ですが可能性があります。また周術期の不整脈なども起きやすいので、周術期管理は慎重に行う必要があります。
 乳頭筋断裂の救命率は、毎年のアンケート結果を見ても、まだまだ低いようです。
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