横須賀総合医療センター心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

一日に心臓は何回拍動している?

2018-05-03 05:54:44 | 心臓病の治療
 心臓は心筋細胞が一斉に同期して拍動していることで、全体として真腔内の血液を大動脈に送り出すポンプの役割をしています。
 では、一日に何回心臓は拍動しているでしょうか?

 だいたい一分間に60回(1秒に1回)拍動していると、1時間に3600回で、24時間で86400回です。一か月で259万2000回、一年で3153万6000回にもなります。
 10年で3億回、80年で24億回にもなります。患者さんにはよく、一日に10万回近くうごいている、と説明していますが、24時間ホルター心電図を記録すると、だいたい8~11万回の間で心拍数が記録されているのを日常的に見られます。


ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)の中で、著者 本川 達雄先生は、哺乳類の心拍数と寿命の関係を研究し、一生に打てる心拍数はほぼ決まっており、象もネズミも15億回としています。これによってハツカネズミは2~3年、象は70年近くいきます。人間もこれに当てはめると26.3年となってしまいますが、本川先生によると縄文時代のヒトの平均寿命は31年ほどだったとも言われており、人間の場合も当てはまるのかもしれません。心拍数が多いと心臓病にかかるリスクがあがるという研究は過去にもあり、また心臓病の患者さんにβ遮断薬を内服させ、交感神経の緊張を抑制することで心拍数を下げる治療を行うと心不全が改善して寿命が延長するという治療は実際に10年以上前から一般に行われています。

ご自分の心拍数を知るには、24時間ホルター心電図で正確に記録することができますが、最近はウェアラブル端末によって自分でも手軽に心拍数を知ることができるようになってきました。

もちろん心拍数だけが人間の寿命を規定するわけではなく、たくさんの因子が交錯する人生ですから一概には言えませんが、心臓を休ませることも人生にとって大事ということは間違いないと思います。

 
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心臓手術の流れ・横須賀市立うわまち病院

2018-05-02 22:16:07 | 心臓病の治療
心臓手術を受ける場合の流れを知りたいという患者さんの要望が多いとお聞きし、横須賀市立うわまち病院における診療の流れについて情報提供させていただきます。

診断確定のための検査を行った後に、治療方針が決まります。病気によって検査も治療も違いますが、心臓血管外科の手術における病気は主に、虚血性心疾患、弁膜症、大動脈疾患に分かれるのでそれぞれについて概略します。

①まずは確定診断、治療方針決定のための検査

基本検査として、採決、レントゲン、心電図、心臓超音波検査、脳および胸腹部の単純CT、心臓および頸動脈超音波検査、血圧脈波検査などがあります。
心臓カテーテル検査は虚血性心疾患には冠動脈の性状をみたり、病変部位の特定、血行再建の方針検討に必須検査ですが、弁膜症や大動脈疾患の手術には、最近は冠動脈CTで済む場合が少なくありません。最近のマルチスライスCTで64列と320列のものがありますが、320列ですと心房細動など不整脈があっても対応可能ですが、64列ですと不整脈があると正確な検査ができません。またMRIの上位機種では冠動脈の狭窄病変の検出も可能です。
胸部大動脈疾患や、小開胸の弁膜症手術は造影の大動脈CTが必要です。

入院が決まった場合は、術前の検査として鼻腔のMRSA検査(耐性菌を保菌している場合は術中使用する抗生物質の変更が必要です)やVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)検査を行います。

②入院は基本的に手術前日です。腹部大動脈瘤は食事の調整や前日の絶食があるため二日前の入院としています。糖尿病があり、血糖コントロールが悪い患者さんは1週間前の入院としています。手術の説明は入院後が多いですが、外来診察時にご家族も一緒の場合は外来で説明をする場合もあります。

③手術当日は、朝9時ころに病棟を出発し手術室へ向かいます。手術室に入ると、まず、全身麻酔を行うための静脈注射用の点滴ラインをとり、動脈の留置針(血圧モニター用)を入れます。腹部大動脈瘤の手術などで硬膜外麻酔を併用する場合は、最初に腰から麻酔用のチューブを局所麻酔で挿入します。これらの準備が整えば全身麻酔の導入です。酸素マスクから酸素を吸入しながら、静脈の点滴ラインから麻酔薬を注射して、これからが全身麻酔の始まりです。麻酔がかかり意識が無くなったことを確認してから気管内挿管を行います。その後、尿道カテーテルの留置、中心静脈ラインの挿入を行い、レントゲン写真で位置確認を行い麻酔導入終了です。これから全身の消毒、機材のセッティングなどに進みます。
 手術室入室から麻酔、セッティングを終えて執刀開始されるまで、約1時間から1時間半です。9時に入室しても執刀開始は10時半とかのことが多いので、手術時間はそこからのカウントになります。入室からの時間が手術時間と勘違いされている場合が多いので注意が必要です。

腹部大動脈瘤や末梢動脈手術以外の、ほとんどの心臓胸部大血管手術は、麻酔から未覚醒のまま集中治療室に入室になります。心臓胸部大血管手術は深く麻酔をかけるので、覚醒するのはその日の夕方や深夜になります。その間、急変したりした場合のことを考えると、まだ麻酔がかかっていたり、人工呼吸管理中のほうがスムースに対処、処置しやすいといえます。人工呼吸器から離脱するのは手術当日の夜間か、もしくは翌朝のことがほとんどです。最近の低侵襲心臓手術では回復も早いため手術室で人工呼吸器から離脱することもまれにあります。

手術翌日は、人工呼吸器から離脱できていれば、嚥下に問題ないか確認するために飲水のチェックを行い、水を上手にむせなく飲めるようであれば、食事と内服薬の開始です。また理学療法士とのリハビリが始まります。座位になるれうようなら、次は立位の訓練、その後は歩行へと徐々に運動のレベルを上げていきます。安全にリハビリできるように心電図や酸素飽和度などのモニターをしながらの運動になります。徐々に循環調整薬の点滴などが少なくなり、また胸に入っているドレーンからの排液が減少すれば抜去され、そうするとより動くことが容易になります。2~3日集中治療室で、こうした回復過程を経たのちに、安全を確認した後、一般病棟へ移動します。

一般病棟へ移動し、術後一週間を経過したあたりに術後の評価を行います。冠動脈バイパス術の場合はカテーテル検査によってバイパス血管の確認、弁膜症は心エコー検査、大動脈疾患はCTなどで評価します。また、弁膜症の場合はほとんどの場合、ワーファリンという抗凝固薬が必要です。その量の調整のため2~3日に一回の採血検査でPT-INR(プロトロンビン時間 = 凝固能の検査)をチェックし、服薬量を調整します。これらの調整が安定したら、だいたい2週間で退院となります。
 予定手術の場合は約9割の患者さんが術後14日で退院していきます。80歳以上の高齢の患者さんの場合は、若干リハビリに時間がかかることもあり、入院期間は長めになることが多いです。
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