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news commentary

読み違え

2011-02-11 13:26:06 | Weblog
今朝、新聞を見たら、「ムバラク大統領辞任へ」「権限 副大統領委譲か」「エジプト、デモ衰えず」「軍の後ろ盾を失う」と言う見出しが、『朝日新聞』(2011.2.11 朝刊)1面におどっていた。

大、そのときがついにきたかと、続報を読むために、BBCのサイトを開くと、なんと、それは事実上の誤報だったらしいことがわかった。BBCは次のように書いていた。

Egypt's President Hosni Mubarak has said he will stay in office and transfer all power only after September's presidential election. His comments in a national TV address confounded earlier reports that he was preparing to stand down immediately.

勘違いしたのはメディアだけではなかった。米CIAのレオン・パネッタ長官も下院情報委員会で、ムバラク大統領が木曜日(2月10日)夜までに辞任する可能性が高いと証言した。しかしその数時間後、ムバラク大統領が、副大統領に権限の一部を委譲するが、9月まで大統領職にとどまるとエジプトのテレビで演説した。CIAはチュニジアの国外逃亡も読み切れず、さらにエジプトでも見当違いをして、その情報収集・分析能力の衰えを露呈することになった。

というよりも、それほどまでに、ムバラク大統領周辺のエリート内の権力争いと大統領の出方が、外部から読みにくい状況になっているといえる。

今日、2月11日は金曜日で、イスラム教徒にとっては、モスクに出かけて礼拝する日だ。カイロのタフリル広場に集まった人々がどんな動きを見せ、それに軍がどう対応するのだろうか。アメリカはエジプトに多大な軍事援助をつぎ込んできた。この軍事援助の継続については、タフリル広場に集まった人々に対するエジプトの軍の出方にかかっていると、軍の動きに影響を与えてきた。この影響力はどこまで持つのだろうか。

ムバラク大統領の即時退陣を要求する大衆運動、とムバラク体制を支える側とのせめぎ合いは手詰まり状態だし、民主化の促進を求めるアメリカのオバマ政権とエジプト側との間にも、外交的な手詰まり感がただよう。

強権政治の後始末はやっかいだ。1998年のスハルト政権崩壊の時は、副大統領だったハビビが大統領に昇格し、民主化への道を準備し、大統領選挙でハビビが野党候補に敗退することで、スハルト時代が最終的に終わった。

エジプトは大統領後継選びについても、複雑だ。時事通信が次のような解説記事を伝えていた。

権力移行に関するエジプト憲法の規定が大統領の早期退陣の障害になっている。 エジプト憲法はその84条で、大統領辞任・不在の場合は国会議長が臨時大統領に就任し、60日以内に大統領選挙を実施すると定めている。82条は、大統領が一時的に職務の執行ができなくなった場合、副大統領に職務が委譲されると規定している。だが、臨時大統領や副大統領に憲法改正発議の権限はなく、ムバラク大統領が即時辞任した場合、野党候補の出馬が事実上不可能である現憲法の立候補資格規定(76条)に基づいて大統領選が行われることになってしまう。

公正な大統領選挙をするためには憲法の改正が必要であり、憲法を改正するためにはムバラクが必要であるという、キャッチ22的状況におかれている。

(2011.2.11 花崎泰雄)


こう書いて一夜明けた12日、朝刊には「ムバラク大統領辞任」の活字が躍っていた。『アルジャジーラ』のサイトを除くと、タフリル広場に花火が上がっている写真が載っていた。だが、これからの展開で、タフリル広場で踏ん張った若い世代がどこまで発言力を獲得できるか。正念場はまだ続く。

(2011.2.12)


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