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ペロシ

2022-08-03 23:31:22 | 国際

毛沢東が天安門の楼上から中華人民共和国の成立を宣言したのは1949年の事である。同じ年に毛沢東との戦いに敗れた蒋介石は台湾に渡った。アジアで中国の影響力が拡大するのを恐れた米国は1954年に台湾と米華相互防衛条約を締結した。周恩来・中国首相が台湾は中国の一部であり、台湾への米国の肩入れは許さない、と言明した。米華相互防衛条約が失効した後、米国議会は台湾関係法を成立させ、台湾との連帯を続けた。中国は武力による台湾解放を否定せず、米国は台湾有事のさいの米国の関与についてあいまいな姿勢をとり続けてきた。このような台湾をめぐる米中の変則的な角逐は以来70年近く続いてきた。

今年5月23日 、訪日中のバイデン氏は同日、日米首脳会談後の記者会見で、中国が台湾に侵攻した場合、軍事的に関与するかどうか問われると、「イエス、それがわれわれの責務だ」と答えた。

台湾武力統一がありうるとする中国と、万一の時は台湾を守るとする米中の口争いは、続いてきたが、それが米中武力衝突(戦争)につながると、本気で考える専門家は多くなかった。この程度なら経済力と軍事力で米国を追い上げる中国と、世界の大国として落日の気配を見せるようになった米国の言葉のチキンゲームのボルテージが上がっただけのことで済ませてきた。

ペロシ米下院議長の台湾訪問で中国は米国非難の音量を一気に引き上げた。米原子力空母・ロナルド・レーガンが時を同じくして、ペロシ下院議長を乗せた米軍機の飛行ルート近くのフィリピン沖を航行した。

8月3日の新聞は中国軍が台湾周辺で大規模な実弾演習を計画していると伝えた。中国軍が発表した演習海域が示されていた。台湾を取り囲んで6地域に広がる。ロシア軍がウクライナに侵攻する前の、ウクライナ包囲演習の図を思い出させるような不気味な演出である。

ペロシ訪台によって台湾の安全保障態勢がそれまで以上に改善されるのかどうか、まだわからない点が多いが、おおざっぱに言えば、改善されるという根拠は見当たらない。この秋の共産党大会で三選を目指す習近平国家主席にとっては、微妙な時期に底意地の悪いアメリカ帝国主義の嫌がらせである。ペロシ下院議長は中国に一泡吹かせることができと喜んでいるかもしれないが、中国は苦り切っており、臥薪嘗胆、今に見ていろと、しっぺ返しの機会を狙うだろう。

台湾をめぐる米中の対立に、中国と米国の軍事力がこれ見よがしに前面に現れたのがペロシ訪台の効果である。こうした米中の力の show-off はしばらく続くことになる。台湾有事は日本の有事と、無邪気にさえずっていた日本の小鳥たちもこれを機に、戦争回避の長期的な外交術の錬磨に励むといい。

(2022.8.3 花崎泰雄)

 

 

 

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