さきごろ東京・大手町の丸紅ビルに行ってきた。大した用件ではなかった。サンドロ・ボッティチェリが描いた15世紀フィレンツェの美女シモネッタ・ヴェスプッチの肖像画を見に行ったのである。
子どものころ西洋美術史を教えてくれた教師がボッティチェリのファンで、そのせいで後年わたしはフィレンツェへ行き、ウフィッツ美術館でサンドロ・ボッティチェリの『春』や『ヴィーナスの誕生』を見た。今ではボッティチェリよりも、その時フィレンツェのレストランで食べた巨大なフィレンツェ風ステーキの記憶の方が鮮明に残っている。塩味だけの炭火焼――ビステッカとか言っていたな。
As time goes by…….
ボッティチェリがシモネッタの肖像を描いてから600年余り。丸紅がこの絵を購入してから50年余り。シモネッタを展示している丸紅ギャラリーは丸紅ビルの3階にあり、1階のロビーにはボッティチェリが描いたシモネッタの拡大写真が飾られていた。企業は金儲けに奔走するだけのものではない、という自負の表れなのだろう。
丸紅といえば、田中角栄のロッキード事件の残像が消えない。「ピーナッツ」が裏金の単位として使われたことの滑稽感も忘れられない。
立花隆が死んでまもなく1年になる。ロッキード事件報道における立花隆の活躍は、伝統的な大手新聞ジャーナリズムの怠慢の表れでもあった。
(2023.1.22 花崎泰雄)