WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

メセニー/メルドー

2006年11月03日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 80●

Pat Metheny & Brad Mehldau

Metheny /  Mehldau

5550006  話題の一枚である。私ならずとも、興味深い一枚であろう。私にとっても、両者ともはやい時期からフォローしているフェイバリット・アーティストだ。だが、この2人の競演はあまり思いつかなかった。サウンドの傾向が違うような気がしたからである。

 力のある2人の競演というと、往々にして、自己主張をしすぎて、駆け引きとしては面白くても、音楽としてはイマイチという場合が多い。そういう作品は、一度目は「おっ、なかなか凄いぞ」などといってしたり顔で聴くのだが、次第に聴かなくなり、CD棚の片隅に追いやられてしまうものだ。そういうCDを私は何枚ももっている。

 さて、このアルバムはどうか。Jazzの醍醐味とでもいおうか、2人の駆け引きを想像できる興味深いサウンドである。しかも、互いに技巧を誇示しあうのではなく、「調和」ということを念頭において演奏しているところがえらい。全体としていいアルバムだと思う。ただ、それらの音がうまく溶け合っているかといわれれば、やや疑問が残る。ビル・エヴァンスとジム・ホールの作品に比肩すべきアルバムという雑誌記事も見られるが、正直言って、完成度は今一歩ではなかろうか。このアルバムが末永く再生装置のトレイにのるかどうかは、もう少し聴き込んでみなければわからない。⑥ Find Me In Your Dreams のように感動的な演奏があったとしてもだ。

 ところで、雑誌広告にブラッド・メルドーの言葉として次のようにものが掲載されていた。「13歳の時に聞いたパット・メセニー・グループのAre You Going With Me が人生を変えた瞬間となったよ。僕にとって、パットはマイルスやコルトレーンやキース・ジャレットと同格なんだ。」

 冗談じゃない。《マイルスやコルトレーンやキース・ジャレットと同格 》 だと……、そんなことは当たり前だ。そんな当然のことをなぜ勿体つけて語る必要があるんだ。不愉快だ。

追伸……。ふと、思いついた。パット・メセニーとゴンザロ・ルバルカバのデュオが聴きたい。この2人はマッチすると思うのだが、どうだろうか。


闇の中から聴こえる音楽

2006年11月03日 | 今日の一枚(C-D)

●今日の一枚 79●

Jacky Terrasson & Cassandra Wilson

Rendezvous

5550004  カサンドラ・ウィルソンの1997年録音盤(Blue Note)。ピアニストは、当時、新進気鋭のピアニストとして売り出し中だったジャッキー・テラソンだ(1993年のモンク・コンペティションに優勝して注目を浴びていた)。どうでもいいことだが、このアルバムは、「スウィング・ジャーナル主催第31回(97年度)ジャズ・ディスク大賞」の金賞受賞作品だそうだ。

 このアルバムが記憶に残っているのは、その内容の素晴らしさはもちろんであるが、渡辺亨氏による解説の中の「闇の中から聞こえてくるカサンドラの歌声に包まれることの快楽。この快楽を一度でも味わったことのある人は、彼女の歌から逃れられない」という一節が、あまりにピッタリだからである。CDを聴き終え、解説などを読む前に私の頭の中に浮かんだのは「闇の中から立ち上がってくる音楽」という言葉であった。同じような言葉のイメージをもつことへの驚き。もしかしたら、雑誌か何かで同じような文章を読んだことがあったのかも知れない。けれども、そんな言葉をイメージするのは私だけではないに違いないと思わせる程、カサンドラの歌声は鮮烈に印象に残るものであった。

 カサンドラ・ウィルソンの歌声は、闇の深遠の中から、静かにゆっくりと立ち上がってくる。