WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

シークレット・ストーリー

2006年11月05日 | 今日の一枚(O-P)

●今日の一枚 82●

Pat Metheny     Secret Story

555  年月がたつのは速いものである。しばらくぶりにこのアルバムを取り出してみたら、1992年にリリースされたものだということに気づいた。私の記憶の中では、つい最近のことのように思えるのだが……。

カンボジアの子ともたちの声をサンプリングしてつくったという民俗音楽風の魅惑的な旋律からはじまり、全編にわたって飽きることがない。途中には矢野顕子のvoiceやトゥース・シールマンズのハーモニカも登場して興味深い。

 パット・メセニーのすごいところは、ずば抜けたテクニックをもつギタリストでありながら、決してその腕前を披露するような音楽をつくらず、トータルなサウンド世界を創造するところだ。その意味では、マイルス・ディヴィスに重なるかもしれない。マイルスのトランペットの力量とパット・メセニーのギターの力量とを考えるなら、このことは特筆すべきではないか。

 感動的な音楽だ。初めて聴いた時の胸の震えを今も覚えている。私の汚い心が洗われ、繊細でセンシティブな何かが確かに伝わってくる。私は思うのだが、このアルバムはその素晴らしい出来に比して、正統な評価を受けていないのではないか。パットのプライベートアルバムという色彩が強いものの、それまでの音楽の集大成という意味合いが強く、パットの多方面にわたる音楽性が良質な形で表現されている作品だ。その後、リリースされた『ミズリーの空高く』の影に隠れてしまった印象があるのだがどうだろうか。『ミズリーの空高く』はいうまでもなく、素晴らしい作品だ。けれども、今日しばらくぶりにこの『シークレット・ストーリー』を聴いて、『ミズリーの空高く』に勝るとも劣らず、場合によってはそれを凌駕する作品だと私は確信している。

 このCDを何年も聴いていなかったなんて……、不覚だった。などといって、本当はパット・メセニーを聴き始めると、仕事に支障がでるので、しばらく封印していたのだが……。まずい、明日から仕事にならないかもしれない……。