WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

幸せになる12の方法

2006年11月28日 | 今日の一枚(M-N)

●今日の一枚 92●

Madeleine Peyroux

Half The Perfect World

5550008  昨日、届いたばかりのアルバム。今日はしばらくぶりのオフなので朝から早速聴いている。妻も子もいない家で、ひとりボリュームを上げて音楽を聴けるのは本当にしばらくぶりだ。書斎で聴き、リスニングルームで聴き、それに飽きるとダイニングのBoseで聴いた。

 ピーター・バラカンが「希望と切なさが入り混じった曲が多いこの新作で、マデリン・ペルーは聴き手を圧倒せずに感情を伝える粋な感性と、どの曲も自分のものにする優れた解釈力をまた見せます。抑制の魅力が満喫できるアルバムです」という通り、非常に興味深くかつ優れたアルバムである。

 マデリン・ペルーの歌唱は、他の多くのジャズ・シンガーとは明らかに違うように思える。シャンソンとポップスのテイストが加味され、いかにもジャズといった趣がないのだ。実際、ニューオーリンズで生まれた彼女は、13歳の時両親の離婚のため、母親とともにパリに移住し、22歳の時までそこで暮らした経歴をもっており、フランス文化の影響を強く受けているようだ。しかしかといって、ジャズ的な素養が弱いかといえばそうではない。それは例えは、⑫ Smile を聴けば納得できるはずだ。シャンソンとポップスを混ぜ合わせてソフィスティケイトしたものをジャズにふりかけたもの、それがマデリンの音楽だ。

 彼女に対しては、「21世紀のビリー・ホリディ」「ジャージーなノラ・ジョーンズ」「ポスト・ジョニ・ミッチェル」「女性版レナード・コーエン」などすでに最大限の期待と賛辞が送られているが、そんな過大な言葉とは無縁に彼女は彼女自身の音楽を生み出していくことだろう。なぜなら、13歳のころからストリート・ミュージシャンとして歌い始めた彼女のバックボーンは、放浪の音楽なのであり、それは現在の彼女の音楽にも色濃く浮き出している。エスタブリッシュメントをしなやかに回避しつつ、放浪のミュージシャンであり続けること、彼女にはそれを期待しているし、そう信じている。

 前作、『ケアレス・ラブ』に勝るとも劣らない秀作である。

Madeleine Peyroux   careless love


振り向けばイエスタディ……青春の太田裕美⑫

2006年11月28日 | 青春の太田裕美

 Photo 1978年発表のアルバム『海が泣いている』収録曲だ。私の不確かな記憶によれば、LA録音とかで、ギターを弾いているのはリー・リトナーだったような気がする。気がするだけだが……。

 ところで、あったはずのLPがない。確かにもっていたはずだ。あるはずのものが見当たらないのは、何かしら、人を不安で、落ち着きの悪い心持ちにさせるものだ。アルバムにはタイトル曲の「海が泣いている」や「栞の結婚」などの名曲が入っており、それをアナログ盤で聴けないのは残念である。 

 「振り向けばイエスタディ」というタイトルは、気持ちはわかるが、ちょっとダサい。当時はこういう言葉の使い方がお洒落だったのかも知れないが、今となっては恥ずかしい表現である。歌詞の中に「振りむけばイエスタディ」という言葉が登場せず、その意味では練られたタイトルだったのかもしれない。ただ、歌詞に関しては、ちょっと芝居じみた感もあるものの、情感溢れるノスタルジックなものであり、私自身、心に迫るものがある。 

 大人の歌である。過ぎ去ってしまったアドレッセンスを追憶する静かな寂しさが漂っている。我々は年をとっていく。金持ちも貧乏人も同じように時間を失っていくのだ。たからこそ、追憶の歌は多くの人の共感を呼ぶのだ。 

 歌を聴きながら、その情景がイメージされるような映像的な歌詞だ。「君とは一緒に一夜づけした ノートの隙間に朝が見えたね」とか「女は名前を何故変えるのか この次逢ったらなんて呼ぼうか」など多くの人が自分の体験とダブらせて、感慨に浸ることだろう。 

 太田裕美は、自分自身が年齢を重ねながら、同世代が思いを分かち合えるような歌を歌っていく。「青春の太田裕美」の所以である。 

※   ※   ※   ※   ※   ※ 

英語のカードを片手にかざし  ラケット抱えた少女がとおる 

もうじき期末のテストなんだよ  あれから何年たったんだろう 

今でも時々夢を見るんだ  白紙の答案にらんでる夢 

君とは一緒に一夜づけした  ノートの隙間に朝が見えたね

愛って何?さって何?  小首かしげて君は聞くけど

答えがないから青春だった  答えがないから・・・woo  woo woo

              ※             ※

化粧を変えてもすれ違うとき  不思議に一目で君とわかった

お茶でもどうって誘う言葉に  うなづく仕草は昔の君

結婚するってうわさ聞いたよ  相手がやさしい人ならいいさ

女は名前を何故変えるのか  この次逢ったらなんて呼ぼうか

愛って何?若さって何?  小首かしげて君は聞くけど

答えがないから青春だった  時ってでっかい河みたいだよ

想い出はなつかしい友達なんだね