●今日の一枚 112●
John Coltrane & Johny Hartman
『ジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマン』、1963年の録音である。この頃のコルトレーンといえば、1961年にインパルスに移籍し、フリー・ジャズへの方向を歩み始めた時期である。良く知られているように、この時期、コルトレーンはマウスピースが気に入らずに手を加えたらますます悪くなり、急速調の演奏も思いどうりに出来ず、代わりのマウスピースも入手できなかった。そのため、プロデューサーの提案で、『バラード』や『デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン』、そして本作 『ジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマン』が録音されるわけである。そのような事情で成立した作品がこのような稀有な美しさをもったものになるとは、まさに奇跡的といえるかも知れない。
③ My One And Only Love は、この曲白眉の名演だと思っている。消え入りそうな高音が印象的なコルトレーンの繊細なソロにじっと耳を傾け感じ入っていると、満を持したようにジョニー・ハートマンのボーカルがはじまる。その低音はスピーカーのコーン紙を震わせ、空気を伝って私に届き、私の身体全体を震わせ、心を振るわせる。音が空気を伝わって私に届くことがはっきりと感じられ、鳥肌がたつ。胸がしめつけられ、切なさが身体全体にしみわたる。すごい演奏だ。生きていて良かった。人生って素晴らしい。そう思ってしまう。
あなたを想うと私の心は歌いだす
春の翼に乗った四月のそよ風のように
あなたは華やかな輝きに満ちてあらわれる
あなたこそ私のただひとりの恋人……