WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

心も身体もしびれる

2007年01月06日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 112●

John Coltrane & Johny Hartman

Watercolors0002_1

 『ジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマン』、1963年の録音である。この頃のコルトレーンといえば、1961年にインパルスに移籍し、フリー・ジャズへの方向を歩み始めた時期である。良く知られているように、この時期、コルトレーンはマウスピースが気に入らずに手を加えたらますます悪くなり、急速調の演奏も思いどうりに出来ず、代わりのマウスピースも入手できなかった。そのため、プロデューサーの提案で、『バラード』や『デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン』、そして本作 『ジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマン』が録音されるわけである。そのような事情で成立した作品がこのような稀有な美しさをもったものになるとは、まさに奇跡的といえるかも知れない。

 ③ My One And Only Love は、この曲白眉の名演だと思っている。消え入りそうな高音が印象的なコルトレーンの繊細なソロにじっと耳を傾け感じ入っていると、満を持したようにジョニー・ハートマンのボーカルがはじまる。その低音はスピーカーのコーン紙を震わせ、空気を伝って私に届き、私の身体全体を震わせ、心を振るわせる。音が空気を伝わって私に届くことがはっきりと感じられ、鳥肌がたつ。胸がしめつけられ、切なさが身体全体にしみわたる。すごい演奏だ。生きていて良かった。人生って素晴らしい。そう思ってしまう。

  あなたを想うと私の心は歌いだす  

  春の翼に乗った四月のそよ風のように

  あなたは華やかな輝きに満ちてあらわれる

  あなたこそ私のただひとりの恋人…… 


透明な静寂

2007年01月06日 | 今日の一枚(C-D)

●今日の一枚 111●

Gary Burton & Chick Corea

Crystal Silence

Watercolors_5  こういう作品は、レコードよりCDの方があっているんじゃないかと思って、しばらくぶりに聴いてみたのだが、どうしてアナログ・レコードはそんなにやわじゃない。チックがアコースティック・ピアノのせいかも知れないが、こういう透明感のある音楽でもレコードはちゃんと美しく再生してくれるのですね。

 いわずと知れたゲイリー・バートンとチック・コリアのデュオ作品『クリスタル・サイレンス』、1972年の録音だ。時期は違うが、二人はともにスタン・ゲッツのグループに在籍した経験をもつ。ヴィブラホーンというそれ自体透明な響きをもつ楽器を演奏するゲイリー・バートンとリタン・トゥ・フォーエヴァーでやはり透明感のある音楽を模索したチックと、そして1969年に マンフレット・アイヒャーによって設立されて間もないドイツのレーベルECMとの出会いによって生まれた傑作がこのアルバムだ。

 美しく、幻想的で、ロマンティックで透明感に満ちた音楽だが、私が好きなのは、冷たく硬いクリスタルガラスではなく、そこに温かい潤いのようなものを感じとることができるからだ。単なるこぎれいな音楽ではなく、曖昧な言い方だが、人間的な温かみを感じるのだ。音量を上げても下げても静かな感動がある。

 こういう聴き易い作品は往々にして聴き飽きするものだが、アドリブ演奏が多いためだろうか、意外に聴き飽きしないのも嬉しい。