●今日の一枚 277●
Kenny Barron
Minor Blues
ケニー・バロン・トリオの2009年録音作品、『マイナー・ブルース』である。venus 盤である。パーソネルはベン・ライリー(ds)、ジョージ・ムラーツ(b)だ。このメンバーをみただけで期待が込み上げてくる。
一聴、妙に音がいい。鮮明である。venus お得意の「オンマイク」の録音だということを考慮しても、ずいぶん鮮明な音に思える。よく見ると、HQCDというやつだ。HQCD ? 知らなかった。調べてみると、HQCD(ハイ・クオリティーCD)は、先行するSHM-CD(スーパー・ハイ・マテリアルCD)に対抗して開発されたもので、規格はこれまでのCDと同じながら、液晶パネル用途のポリカーボネートが基盤材料に使用され、従来のアルミニウムに換えて反射膜素材として特殊合金が使用されているのが特徴で、限りなくマスターに近いサウンドが再現できるとの触れ込みのようだ。SHM-CDと異なる点は、後者の特殊合金の使用である。音がいいのは、録音の良さのためなのか、この新素材の採用のためなのか、一枚聴いただけでは判断がつかないが、とにかく格段に音が鮮明であると感じたことは間違いない。鮮明すぎて音が強すぎ、陰影感がそこなわれるのではと感じた程だ。
好きだなあ、このアルバム。心からそう思える作品である。1曲目のケニー・バロンのオリジナル、① Minor Blues からちょっとドキッとした。不協和音を効果的に使ったサウンドである。2曲目以降はスタンダート曲である。気持ちよくスウィングするノリのよい演奏あり、ジーンとくるようなリリカルな演奏あり、とにかく心が踊る。太く、力強いムラーツのベースのせいか、ダイナミックなサウンドに仕上がっている。《芸術性》の極北をめざすようなものではないが、十分に質の高い演奏であり、私の日常の中に溶け込み、元気を与えてくれる一枚である。