●今日の一枚 298●
大貫妙子 & 坂本龍一
UTAU
快作だ。大貫妙子 & 坂本龍一の2010年作品『UTAU』。「大貫妙子が唄う坂本龍一」というふれこみの作品である。坂本龍一と大貫妙子は、「1970年代前半の出会い以来多くの共作・共演を経てそれぞれ独自の音楽世界を確立してきた」が、今回は「坂本龍一の楽曲に大貫妙子が言葉を紡ぎ唄うと」いう企画である。大貫と坂本の共演のみからなる一枚バージョンと、それに坂本のピアノインストロメンタル一枚がついた2枚組みバージョンがあるようだが、私は経済的事情から、一枚のみのものを購入した。
素晴らしい出来だ。録音もいい。珠玉の一枚といっていいだろう。大貫妙子はフランスものの時代からずっと好きだったが、最近のものは大貫の声が年齢のためか(?)のびやかさがなく、ちょっと心配していたのだ。この作品はそんな心配はまったくない。声に余裕がある。張りもある。若い頃のような、溌剌とした艶はないかもしれないが、音の余白と余韻を考えた表現が素晴らしい情感を生み出している。何より、気高い。坂本龍一の硬質で抑制的なピアノも切ない感じでいい。
いつも思うのだが、大貫妙子の作品、とくにピュアアコーステックものについては、余計な感想や批評を記すとかえって作品を汚してしまうような気がする。ただ、じっと聴いて感じたい。以前から大好きな曲、「風の道」で終わるところがいい。終わったあとの余韻がたまらなくいい。
「今では他人と呼ばれる二人に 決して譲れぬ生き方があった」
ただ、涙するのみである。