四条河原町の駅で降りて高島屋の階段を上ると
コンチキチン、コンコンチキチン、と賑やかな祭囃子が聴こえた
四条通は人の雑踏で身動きがとれず、まだビルの谷間に頭半分を残した太陽は降り注ぐ余熱で街と人を焼いた。その人波
を避けるかのように友達と3人で加茂川を目指した。
前後から来る人の流れを縫って
柳がたれ下がった高瀬川を渡り古い料理屋が並ぶ木屋町を過ぎ四条大橋の手前を加茂川の土手に降りた
土手にも大勢の人がいたが加茂川から吹き寄せる風は涼を呼んだ
その風を受けようと納涼床から浴衣姿の涼み客が身を乗り出した
コンチキチン、コンチキチン
四条大橋を見上げると浴衣姿の女性や腕を組むアベック、子供連れの親子が楽しげに行き交っていた
街にほのかな蝋燭明かりが灯り、山鉾の提燈がだいだい色の鮮やかな光を放つ
鉦と笛太鼓の音は徐々に高まり四条通りは人の波で埋め尽くされた
コンチキチン、コンコンチキチン、
祭りはクライマックスを迎えようとしていた
一つ上の小林君が僕に言った
「ひろ造、学校辞めるんか、辞めてどないすんねん」
「俺、もう一回大学受験しよ思てるんやけど」
「たぶん、辞めても受験勉強なんかせぇへんて」
小林君が言った事はやがて本当になった
18歳の初夏
祇園祭りの晩を最後に大阪で最初に付き合った友人達と別れた。
それから勉強に集中するはずだったが
集中したのはパチンコだった
あの日から三十数年が経ち祇園祭りにはあれから一度も行った事が無い
祇園祭りのお囃子がテレビから流れて来ると18歳のあの日の記憶が蘇って来る