昔の四国の道にはお遍路さんがけっこう大勢いて
その頃のお遍路さんは現代のセレブ遍路と違って歩き遍路が主で
野宿をしながら托鉢で糧を得ながら四国を周った。
修行と称しながら世を捨てた人
また何れから逃れて来た人
体が不自由で働いて収入を得られない人
いろんな事情を抱えた遍路さんが四国を巡っていた、
中には親子で遍路をしていたり
途中で四国の土と朽ち果て野辺に葬られる人もいた
ドンドン♪ピーヒャラ♪ピーヒャラ♪
僕の小さい頃の村祭りは現代と違って
まだ大勢の子供達がいて賑やかだった
あれはもう何十年ぐらい前だったか
僕が小学校の低学年の頃
宵宮の晩に
親に幾らばかりかの小遣いを貰って
アセチレンガスの薄暗い白熱灯に照らされた玩具や置物めがけて
輪投げをしていた
手前は安っぽい置物で一番向うにお宝があった
たまに輪がはまって貰えるのは手前の置物だった
そんな時、無我夢中に輪投げに興じている僕を見つめる幼い目に気付いた
この辺であまり見かけない小さな女の子
その子は白っぽい着物を着ていた。
僕が小さなうさぎの置物の景品を手に入れると
近くに来て食い入るかのように景品をのぞき込んだ
「輪投げやらんのか」
と聞くと
「私、お金持って無いもん」
とこの辺の方言と違う言葉をその子は使った
「やらあ」
とその子にうさぎの景品をあげると
まるで宝石でも貰ったかのように
「ありがとう」と
目を輝かせていた
末っ子だった僕はその子が俄かの妹のような気がした
あくる日の本祭りの晩
僕が型抜きの夜店で遊んでいるとまたその女の子が来た
「お兄ちゃん、うちに遊びにおいで」
と言うんで
その子が都会からこっちの親類の家に来ているんだなと思った
付いて行くと
その子に連れられて行った家は浜辺の丘の上にあって
みすぼらしい小屋だった
中に入ると優しそうな女の人がいて
「いらっしゃい」
と僕を招き入れた
祭りのあくる日
近くの親戚のおばさんが
「ひろ造ちゃん、昨日の晩はどうしたんで一人で浜辺におるんを見かけたが」
不思議に思った僕が昨日の晩女の子に連れられて行った小屋の辺りに行ってみると
草薮の中に大きなお地蔵さんと小さなお地蔵さんが並んで立っていて
小さなお地蔵さんの傍らにはうさぎの置物が置かれていた。