灼熱の陽がまだ余熱を発している夏の夕暮れ
あえぎあえぎ携帯片手にを長い坂道を上ると
「ここだよ」
見上げるとデッキの上から手を振る懐かしい笑顔の女性が
大きなビルが立ち並ぶオフィス街の古ぼけたマンション
30年以上も時は流れ
彼女の笑顔に変わりは無かった
「疲れた?」
「いいや」
「もうお店を閉めるから」
「待ってる間、ビールでも飲んでて」
整理整頓された彼女の城
一人で生きて来たんだね・・
後楽園から九段坂まで
プラタナスの葉が幾らか日差しを防いでくれるけれど
熱を帯びたアスファルトは、まだ暑かった
「無意識に指を動かす癖は昔のままね」
「うん高校生の時から、根っから情緒不安定なんだ」
遠い昔の記憶の中に二人同じように並んで歩いていた
秋の気配が吹く夏の終わり
20歳の僕と19歳の彼女
だれも見向きもしない地べたのタンポポのような二人
蹴られても、踏みにじられても
健気に咲く花