高砂の 尾の上の桜 咲きにけり
外山の霞 立たずもあらなむ
権中納言匡房
高い山の上に桜が咲いた。あの美しい桜を隠したりしないように、里に近い山の霞よ、どうか立たないでおくれ
桜の季節を間近に控え、数ある百人一首の桜を詠った句を思い出す。高校生になる長女も、中学時代上下の句に分けて覚えたメモが残っていた。権中納言匡房は博学多才で菅原道真公と比較される文化人。
神社の鳥居の前に植えた桜も二年がたち、すでに幹も20センチほどになっている。十年桜とはよくいったもので、桜の成長を間近に見続けることができるのは幸せなこと。
遠くの山の桜、近くの里山の霞。春の代表的な風情を対照させた幻想的で美しい歌だという。高校時代にさんざん覚えたものの、そういった風情は全く頭に残らなかった。和歌とは詠み手と読み手の感覚が合ってはじめて美しさが伝わるのではないかと思う。こうした歌の素晴らしさに心が打たれるまでにずいぶんと時間がかかったと思う。
この歌は宴会で『遠くの山の桜を眺める』という題材で歌を読み合わせた時の作品で、非常に題の特徴を表した秀作といわれている。当時はこのように歌の題材について細かく定め、風情な心と歌の技を競いあったと言われている。武家社会の幕が開く以前の話のこと。