学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

芥川龍之介『海のほとり』

2008-08-16 08:32:20 | 読書感想
夏もお盆を過ぎるといささか秋の気配を感じる。うだるような暑さは相変わらず続くものの、蝉の鳴き声がしだいに静まり、木々の葉も次第に茶を帯びてくる。季節の変わり目に哀愁を感じるのは、私だけではあるまい。

『海のほとり』は過ぎ行く夏への哀愁を滲ませる。弘法麦、海水浴、幽霊話、そうして夏の別れ。哀愁の感じ方は人それぞれ異なるものだが、芥川のそれはあくまで淡々としている。が、いわゆる自然の美をことさら強調したものでもない。人の存在を絡めてくる。独りではなく、「僕」を何人かと絡ませ、最後に人との別れを描写することで一層哀愁感を引き出している。我々は人との別れほど哀愁を感じるものはないのだから。

今日は夏の終わりに、栃木県の鬼怒川へでも湯治に出かけようかと思う。無論、私独りではない。友人とともにである。彼との別れが、私にとって夏の哀愁となるだろう。