学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

祖父

2008-08-24 08:47:51 | その他
電車から降りると、空にはぼんやり満月が燈っていた。祖父は満月の夜に亡くなった。89歳の誕生日の夜だった。

祖父はとにかく穏やかで優しい人であった。仕事に対しても真面目だった。

「古い写真が見つかったから」といとこは私をテーブルに呼んだ。小さな箱にセピア色の写真が乱雑に詰め込まれていた。祖父の若い頃をほとんど知らない私は、写真に祖父の歩みを見ようとして、一枚一枚熱心にめくっていった。

最も古い写真は軍服をまとった祖父の姿だった。軍服の威厳のわりに、幼い表情がどこかおかしかった。

祖父は若い時分、東京で秘書をしていたという。秘書時代の頃を知る人は、もう誰も居ない。祖父もあまり話をしたがらなかった。父が、私の曽祖父に当たる人が早く亡くなったために、実家に急遽呼び戻された。祖父は本意ではなかったらしい。けれども、長男である祖父に他の選択肢はなかった。祖父は農家を継ぐと、米だけでなく、りんごやさくらんぼの栽培を始めた。また、秘書時代の習慣からか、毎日日記をつけていた。農業は本意ではなかったが、それでやけになる人ではなかったようだ。

祖父が亡くなった、今はその悲しみを通り越して、感謝の心持で一杯である。私の父方も母方の祖父母も長寿で、これまでずっと健在であった。けれど、初めてそのうちの祖父を亡くした今、私のなかで、いわゆるひとつの時代が終わった気がする。これからは祖父との想いを胸にしっかりと生きていきたいと思うし、生きるべきだと思った…。