学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

アルブレヒト・デューラーⅡ

2010-12-11 21:43:19 | 展覧会感想
国立西洋美術館の展覧会では、デューラーの版画と素描を「宗教」、「肖像」、「自然」の3つのセクションに分けて紹介しています。この3つのセクションは、デューラーが絵画芸術において重要視していたとされる要素です。

「宗教」。デューラーは、キリスト教における受胎告知からキリスト昇天までを、様々なヴァリエーションで描いています。ただ、欧米とは異なり、キリスト教は日本において密接な環境にはありませんから、宗教画の背景は解説パネルがないとなかなかわかりにくいものがあります。もちろん、会場には親切に解説パネルがついていました。さらに、展示されているデューラーの作品のなかには《小受難伝》のように、キリスト教の初学者向けに制作された作品があり、それらは絵を見ながら聖書を読むような感覚で楽しむことが出来ます。

「肖像」。つまり人物画ですね。デューラーは生前から人気作家でしたので、皇帝や友人たちの肖像を多数手がけました。特に面白いと思ったのは、皇帝から肖像画を依頼される理由。当時の皇帝たちは自分の権力の裏づけとして、つまり皇帝は自分はこんな表情をしているんですよ、ということを国民にPRするために版画の複数性を利用して、肖像を依頼したのだそうです。これは他の場合にも言えることで、学者の場合にも、著書だけを刊行しただけではまだ足りない。自分をもっと知ってもらおう、という意味を込めて、やはり肖像を依頼したとか。デューラーの描いた肖像は、本人に似ていた場合も、そうでない場合もあったようですが、それぞれの人間の個性が作品からは浮かび上がってくるようです。

そして最後の「自然」。いわゆる花鳥風月だけではありません。このセクションでは、デューラーの代表作が展示されています。昨日のブログで紹介した《犀》、画面全体に哲学、科学、宗教などのあらゆる寓意を配した《メレンコリアⅠ》、遊び心がつまった《魔女》、このほかに愛と死をテーマにした作品が一同に並びます。これらの作品を見てゆくと、デューラーはただ単に絵画芸術のみに関心があったわけではなく、相当に広い範囲の知識を有していたことがよくわかります。このセクションはメモを取りながら、じっくり見たいところです。

以上、展覧会では、デューラーの見応えのある版画と素描が展示されています。作品自体も小さいですし、ほとんどがモノクロですから、一見しただけでは地味な印象を与えてしまいますが、私はとてもいい展覧会だと思います。この3セクションに沿った見方でも面白いですし、日本の浮世絵や肖像画などを頭のなかで比較しながら見ていくのも一興かもしれません。ぜひ、ご覧下さい。