大学生の時分、司書資格の先生が「活版印刷の表面の肌触りが好きでたまらない」とおっしゃっていたことを思い出します。活版印刷とは、1文字ずつの活字を組んで版ををつくり、それを印刷したものです。手間がかかるため、今ではほとんど書籍に使用することは有りません。私は美術の世界に入り、フライヤーやポスターなどの印刷に関わるようになってから、印刷技術に興味を持っています。私の手元には活版印刷の本が2冊あります。『戦国武将100話』と『戦国武将の旗指物』で、昭和40年代から50年代に印刷されたものです。活版印刷の本をめくっていくと、ひとつひとつ活字を抜いて行った出版社の人たちの汗が伝わり、凹凸のある紙の表面、今なお残るインクの香りに魅了されます。司書の先生の言葉は大学生当時まったく響きませんでしたが、今は先生の気持ちがとても良くわかります。一冊の造本にストーリー性があるのです。近頃、文具店に行くと、活版印刷のしゃれたメモ帳やポストカードが売られているのを目にします。造本の需要が落ちても、こうした新しい展開がなされることに期待したいですし、買うことで応援したいと思っています。