学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

車内

2007-09-15 19:09:45 | Weblog
山形の赤湯温泉へ行ったのち、岩手県の盛岡を目指して出発しました。新幹線に乗車して、仙台、古川を過ぎると、次第にビル街も見当たらなくなり、しだいに奥羽山脈が姿を現します。奥羽山脈に限らず、山は間近で見ると木々の緑であふれているのに、遠くから望むと青白くみえるのです。空気が色をぼかすのでしょうか。薄い青は何やら神秘的な印象を持たせます。

列車は、新花巻駅を通過します。花巻は、宮澤賢治の故郷。車内から見る花巻は、田があり、赤いトタン屋根の家があり、寺があるばかりです。都会にあふれる余計な文物が、この街には一切入り込んでいないように思えます。明治時代、岩手県に鉄道の開通が決まったとき、農家の人々は「美田をつぶすな」と反対したそうです。ここにあるのは、ただの田んぼではないのです。美しい田なのです。秋風にそよぐ黄金色の稲は、大変に美しいもの。農家にとって、田んぼは貴重な収入源であり、家族の歴史が幾重にも積み重なっていると見ることもできるでしょう。また、同時に、田んぼは旅人を優しく迎え入れてくれる風景にもなりうるのです。

花巻を過ぎたころ、私は車内がやけに静かなことに気が付きました。この車両には、私一人しか乗車していないようです。そう言いますのは「お飲み物はいかがですか」と車内販売員の女性が、私の横を通り過ぎると、あとは全くの無言で先の車両まで進んでいってしまうからなのです。静かなのはありがたいことではありますが、静か過ぎるのもまた心細い気がします。殊に一人旅によっては。


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