学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

津島佑子『鳥の涙』

2018-10-22 10:43:27 | 読書感想
昔ばなしは、読むよりも聞いたほうが印象に残る。私自身、子どものころ、ふとんのなかで祖母や母が話してくれる昔ばなしに心が踊らされたものでした。桃太郎、金太郎、浦島太郎…、こうした話は、本で読んだ、というよりも、祖母や母が話してくれたもので、家族との思い出のひとつとして記憶に残っています。

津島佑子さんの『鳥の涙』は、アイヌの民話(伝承)を元に展開していく短編小説です。強制労働に駆り立てられた父が、首のない鳥として舞い戻ってくる、その民話を祖母、母、私の三世代にわたって語り継がれていくというもの。語り継ぐ、といっても、世代ごとに民話に寄せる想いは異なり、首のない鳥のイメージとして、祖母は事故死した夫、母は疾走した夫、そして「私」は幼くして死んだ弟を想起させる仕立てになっています。ひとつの民話から、これだけ重厚な小説が書けるのだと、その手法に驚かされます。また、首のない鳥を弟と見立て、その翼からあふれる涙が「私」の体を濡らしていく場面は視覚として現代美術を見ているような感覚を覚えます。

日本文学全集で選者を務めた池澤夏樹さんは「このまま長編小説になりそう」と述べていますが、私も同感です。たしか村上春樹さんが、自分の小説の位置づけとして、短編小説は長編小説となるための実験的な場である、というようなことを書いていた気がしますが、『鳥の涙』はまさにそんな雰囲気を持った小説です。短編小説、奥が深い!


・津島佑子『鳥の涙』日本文学全集28 近現代作家集Ⅲ 河出書房新社 2017年 収録(『鳥の涙』の原本は1999年刊)
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