【新聞】ポピュリズムと歴史修正主義 ~過熱する「朝日叩き」~
朝日新聞叩きが収まらない。例の慰安婦報道検証記事が火に油を注ぎ、一部の新聞や雑誌が先導役となり、ネット上などでは個人攻撃を含む凄まじい批判が渦を巻いている。
誤りは誤りと認め、訂正するのはメディアの責務だ。
誤報を批判されるのは、至極当然だ。メディアの相互批判は、むしろ言論空間を活性化させる。
ただ、今回は、もっと別の角度からも考察を加えるべき憂鬱な事象だ。
現在、政界にもメディア界にも歴史修正主義の風潮がかつてなく蔓延り、「反日」的な動きには猛烈なバッシングが浴びせられる。その象徴として朝日は近年、執拗な攻撃を受けてきた。
こうした状況に耐えきれず、今回の検証に追い込まれたのではないか。だとするなら、この件は一メディアが誤報を取り消したといった次元の問題ではなく、日本社会が変質していることを示す「事件」と見ることができる。
そう、日本社会に黒々と根を張る歴史修正主義の動き、そしてドロリと広がる排他と不寛容の空気、それらが背後にベッタリと絡みついている。
ネット上ばかりか、街角にまで繰り出してヘイトな言説を吐き散らすクズどもは論外としても、書店には隣国を悪し様にあげつらう書籍が行く冊も並び、雑誌にも類似の記事が毎号のように掲載される。こうした書籍や記事が、ヘイトで排他的な言説の拡散を確実に下支えしている。
むろん、隣国の側にも非はある。韓国側から日本を眺めれば、これまたあげつらうネタにことかかない。政界周辺からは途切れることなく暴言が飛び出し、長期の景気低迷や少子高齢化から逃れられず、人類史でも最悪の原発事故で放射能を撒き散らした。悪い点ばかり集めれば、1万行だってあげつらうことができきる。
その日本では、確かに歴史修正主義と黙される為政者が執権し、隣国との関係をかつてないほど悪化させている。
この為政者は、戦後民主主義やリベラルな態度を露骨に忌避し、国会では朝日を名指して「政権打倒が社是だ」と言って敵意を剥き出しにしている。
そういう状況下、自国の恥をえぐり出した記事中の誤報を認めた朝日に猛攻撃が押し寄せている。直近の主要週刊誌も足並みを揃え、「売国」「反日」「自虐」「日本人を貶めた」という見出しが大々的に躍る。
誤報そのものは批判されるべきだ。
しかし、自国の恥や問題点を剔抉する行為が「売国」「反日」と罵倒されるなら、ジャーナリズム活動は成立しない。自国や政権の歪みを果敢に指摘することこそ、メディアの仕事だ。「美しい国」に付和雷同するだけなら、独催告のメディアと違わない。
そもそも、今回の朝日検証で慰安婦問題がなくなったわけではない。
日韓関係の悪化の原因が、慰安婦問題にだけあるのでもない。
隣国との関係悪化の真の要因は、日本国内に蔓延る歴史修正主義と、排他の動きにもある。
過去を忘却した政治家らの心ない発言や行動が、澱のように積み重なった結果の方が、はるかに害をもたらしている。そして、その主役たちは、いま朝日叩きに狂奔している政治家、識者、メディアと重なる。
社会の排他と不寛容【注】は、一度発火すると容易に消せない深刻な病だ。
少なくとも、政治家やメディアはそれを煽るべきでない。そうした振る舞いは、危険で劣悪なポピュリズムにほからなない。
隣国をあげつらう前に、己の姿も冷静に省みた方がいい。
【注】「【読書余滴】寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか」
□青木理「過熱する「朝日叩き」の裏に蠢くポピュリズムと歴史修正主義 ~ジャーナリストの目 第219回~」(「週刊現代」2014年9月13日号)
↓クリック、プリーズ。↓
朝日新聞叩きが収まらない。例の慰安婦報道検証記事が火に油を注ぎ、一部の新聞や雑誌が先導役となり、ネット上などでは個人攻撃を含む凄まじい批判が渦を巻いている。
誤りは誤りと認め、訂正するのはメディアの責務だ。
誤報を批判されるのは、至極当然だ。メディアの相互批判は、むしろ言論空間を活性化させる。
ただ、今回は、もっと別の角度からも考察を加えるべき憂鬱な事象だ。
現在、政界にもメディア界にも歴史修正主義の風潮がかつてなく蔓延り、「反日」的な動きには猛烈なバッシングが浴びせられる。その象徴として朝日は近年、執拗な攻撃を受けてきた。
こうした状況に耐えきれず、今回の検証に追い込まれたのではないか。だとするなら、この件は一メディアが誤報を取り消したといった次元の問題ではなく、日本社会が変質していることを示す「事件」と見ることができる。
そう、日本社会に黒々と根を張る歴史修正主義の動き、そしてドロリと広がる排他と不寛容の空気、それらが背後にベッタリと絡みついている。
ネット上ばかりか、街角にまで繰り出してヘイトな言説を吐き散らすクズどもは論外としても、書店には隣国を悪し様にあげつらう書籍が行く冊も並び、雑誌にも類似の記事が毎号のように掲載される。こうした書籍や記事が、ヘイトで排他的な言説の拡散を確実に下支えしている。
むろん、隣国の側にも非はある。韓国側から日本を眺めれば、これまたあげつらうネタにことかかない。政界周辺からは途切れることなく暴言が飛び出し、長期の景気低迷や少子高齢化から逃れられず、人類史でも最悪の原発事故で放射能を撒き散らした。悪い点ばかり集めれば、1万行だってあげつらうことができきる。
その日本では、確かに歴史修正主義と黙される為政者が執権し、隣国との関係をかつてないほど悪化させている。
この為政者は、戦後民主主義やリベラルな態度を露骨に忌避し、国会では朝日を名指して「政権打倒が社是だ」と言って敵意を剥き出しにしている。
そういう状況下、自国の恥をえぐり出した記事中の誤報を認めた朝日に猛攻撃が押し寄せている。直近の主要週刊誌も足並みを揃え、「売国」「反日」「自虐」「日本人を貶めた」という見出しが大々的に躍る。
誤報そのものは批判されるべきだ。
しかし、自国の恥や問題点を剔抉する行為が「売国」「反日」と罵倒されるなら、ジャーナリズム活動は成立しない。自国や政権の歪みを果敢に指摘することこそ、メディアの仕事だ。「美しい国」に付和雷同するだけなら、独催告のメディアと違わない。
そもそも、今回の朝日検証で慰安婦問題がなくなったわけではない。
日韓関係の悪化の原因が、慰安婦問題にだけあるのでもない。
隣国との関係悪化の真の要因は、日本国内に蔓延る歴史修正主義と、排他の動きにもある。
過去を忘却した政治家らの心ない発言や行動が、澱のように積み重なった結果の方が、はるかに害をもたらしている。そして、その主役たちは、いま朝日叩きに狂奔している政治家、識者、メディアと重なる。
社会の排他と不寛容【注】は、一度発火すると容易に消せない深刻な病だ。
少なくとも、政治家やメディアはそれを煽るべきでない。そうした振る舞いは、危険で劣悪なポピュリズムにほからなない。
隣国をあげつらう前に、己の姿も冷静に省みた方がいい。
【注】「【読書余滴】寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか」
□青木理「過熱する「朝日叩き」の裏に蠢くポピュリズムと歴史修正主義 ~ジャーナリストの目 第219回~」(「週刊現代」2014年9月13日号)
↓クリック、プリーズ。↓