語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】朝日叩きに走る各紙が過去に飛ばした「大誤報」

2014年09月23日 | 震災・原発事故
 自らの過ちを棚にあげるのがマスメディアの常・・・・とはいえ、このところの朝日新聞報道は異様だ。

 木村伊量・朝日新聞社長が、9月11日、ついに謝罪、引責会見に追い込まれた。元凶は
  (1)従軍慰安婦の強制連行をでっちあげた虚偽証言 → 訂正
  (2)吉田昌郎・元東電福島第一原発所長の調書曲解 → 訂正
だが、これらに池上彰・ジャーナリストの連載拒否というオマケまで付いた。

 ここぞとばかりに「誤報だ」「謝罪がない」「社長が逃げている」とライバル紙、テレビ、週刊誌から集中砲火を浴びせかけられ、白旗をあげざるをえなかった。
 朝日の対処はまずかったが、朝日バッシングに血道をあげるマスメディアは異様だ。

 折しも、木村社長の記者会見があった翌12日、福島第一原発事故後に死亡した双葉病院の患者遺族と東電とが争っていた損害賠償請求訴訟で和解が成立した。
 原発から4.5kmという至近距離にあった双葉病院グループでは、患者や施設の入居者の多くが取り残されたあげく、50人が死亡するという惨事が発生した。原発事故による死者はいない、と東電は言い張ってきたが、50人は事故がなければ死なずはに済んだ。いわば原発事故の犠牲者だ。
 この日の和解は、訴えていた遺族二人に対し、東電が1,360万円の賠償金を支払うというものだ。
 千葉地裁は、「被害の悲惨さを考えれば、東電の責任はより重く考えるべきだ」と断罪した。

 くだんの双葉病院問題には、もう一つ、別の側面がある。
 事故当時、「病院が患者を置き去りにして逃げた」かのように福島県が発表し、それを鵜呑みにした新聞・テレビがこぞって病院関係者を「患者を見殺しにした逃亡犯」扱いをした一件だ。
 2011年3月18日(震災から1週間後)付けの新聞各紙には、次のような見出しが並んだ。
 「高齢者病院放置か 避難所で14人死亡」(産経)
 「福島・双葉病院 患者だけ残される」(読売)

 産経は、<医師や看護師らの病院関係者は一人も院内にいなかった。県保健福祉総務課では「14人は取り残されたような状態だった」としている>とまで報道した。
 また、読売は<寝たきりの患者ら98人がベッドに取り残され、職員はいなかったという>と書いた。
 テレビの全国ニュースでも大々的に報じ、双葉病院はとんでもない悪徳病院だ、というレッテルを貼られた。関係者はもがき苦しんだ。

 しかし、これこそ誤報なのであった。
 双葉病院グループでは、震災の2011年3月12日以降、入院患者と施設利用者との436人中、重症患者の129人が取り残された。そこから第一原発の水素爆発が立て続けに起こり、関係者たちはオフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)から撤収してしまった。
 救援隊が来ないまま、双葉病院は完全に孤立してしまった。
 その結果、16日までに50人が命を落とすのだが、その要因は自衛隊や福島県の救出の遅れだ。さらにいえば、東電の事故による現場の混乱だ。
 最終的に双葉病院の院長たちが救出隊を迎えにいった場所を自衛隊が間違え、すれ違いが起こった。
 が、この間、院長を始めとするスタッフは、逃げ出すどころか、懸命の看護を続けたのだ。

 ところが、県の発表を鵜呑みにした新聞やテレビは、「患者置き去り事件」として大々的に報じたのだ。
 そして、今もってきちんとした訂正や謝罪を行っていない。
 ライバル紙の過ちを追求するのは間違いではない。
 半面、それは天に唾している行為でもある。

□森功「朝日叩きに走る各紙が飛ばした「大誤報」を忘れてはいけない ~ジャーナリストの目 第221回~」(「週刊現代」2014年10月4日号)
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コメント (1)
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