9月7日、沖縄県名護市議会選挙(定数27)の投開票が行われた。
与党(稲嶺進・市長を支持)・・・・14議席
公明党(与党に加わっていないが、与党と同じく辺野古移設に反対)・・・・2議席
野党(辺野古移設を容認)・・・・11議席
改選前に比べて、与党は1名減、野党は1名増だが、中央政府、自民党、沖縄県幹部が野党に対して徹底的なてこ入れをしたにもかかわらず、与野党逆転ができなかった。このことは、安倍晋三・政権にとって大きな痛手だ。
<同市辺野古沿岸で移設に向けた海底ボーリング調査が8月に始まった直後の選挙だが、市民の意見が割れていることから移設問題への言及を避ける候補が多く、移設をめぐる論戦は低調だった。>【注1】
この見方は、ピントがずれている。名護市民の間で、移設(辺野古を埋め立てて新基地を建設する)問題は、依然、最も関心の高い事項だ。
中央政府による資金提供、分断工作によって、名護市民は痛めつけられてきた。新基地建設問題を争点とすれば、この問題に関心を持つ本土のさまざまな政治勢力が名護に入ってきて、自らの利害関心に基づく政治ゲームを展開する。その結果、名護と沖縄の分断が一層強まる。
日本人の利害関心によって沖縄人が分断されることを望まない故に、<移設問題への言及を避ける候補が多く、移設をめぐる論戦は低調だった。>にすぎない。
このあたりの沖縄人の心理がわからないのは、沖縄に対する構造化された差別の枠組みでしか見てないからだ。
安倍政権は、名護市議選で与野党が逆転していたら、「直近の民意は辺野古移設容認だ」というプロパガンダを展開したであろう。現在の埋め立て工事を加速したに違いない。
今回の結果を見て、首相官邸も自民党本部も、沖縄の民意を尊重していたら、新基地建設はできないから、力で押し切ろうとするであろう。そういう認識を、菅義偉・官房長官はすでに表明している。
安倍政権のボーリング調査強行に対する沖縄県民の反発はきわめて強い。
安倍政権の姿勢に対する支持率はわずか18.6%、不支持は81.5%だ。辺野古移設に賛成する声はわずか10.0%だった。【8月23・24日の琉球新報と沖縄テレビ放送(OTV)合同による世論調査の結果、26日付け「琉球新報」】
沖縄世論の構造的転換が起きている。しかし、目が曇った日本人政治エリート(国会議員、官僚)には、この明々白々な事実が見えないらしい。
<菅義偉官房長官は26日の会見で、琉球新報・沖縄テレビ合同世論調査で、米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古での移設作業を「中止すべきだ」とする回答が80・2%、工事を強行した安倍政権への不支持が81・5%に達したことに、「政府の方針として(工事を)粛々と進める」と述べ、県民の反対が強い中でも「(影響は)全くない」と答えた。
県民の強い反対が11月の県知事選に与える影響については「政府は法治国家であり、仲井真(弘多)知事の承認をいただいた。沖縄のみなさんの、普天間の危険除去への強い訴えや抑止力などの中で18年前に決着した」と述べ、着工は決定事項であり、知事選への影響はないとした。>【注2】
菅長官の認識は、「安全保障と外交は中央政府の専管事項だ。中央政府が決めたことについて、沖縄はつべこべ言わず、従え」という認識に基づいている。
日本の陸地面積の0.6%を占めるにすぎない沖縄県に在日米軍基地の74%が所在する。この状況も「これでいいのだ」と中央政府が決めた以上、沖縄人と沖縄県は「つべこべ言わず、従え」と言うことだ。
こういう日本人の常識に付き合っているかぎり、沖縄は構造的に差別された状況から永遠に抜け出すことができない。
日本人政治家の良識に期待しても無駄だ。その「良識」は身内の日本人内部にしか適用されず、沖縄人(外部)には適用されないからだ。
「沖縄の人」「沖縄県民」 対 「本土の人」
ではない。
「沖縄人」 対 「本土の人」
という関係だ。
辺野古の警備にあたるガードマン、漁船員、沖縄県警の警察官、沖縄防衛局の地元採用職員・・・・これらのほとんどは沖縄人だ。日本人は奥に引っ込んでいて、新基地に反対する沖縄人と対峙する場に姿を見せない。沖縄人によって沖縄人を鎮圧する・・・・この手法は植民地主義者の典型的な分断統治だ。
沖縄戦で、沖縄人は、日本軍の強制により、あるいは日本に過剰同化したために「同胞殺し」に手を染めてしまった。
このような悲劇を沖縄人は二度と繰り返さないと心に誓い、それを実践している。
沖縄人が、諦念から辺野古の新基地建設を容認することなどあり得ない。沖縄には沖縄流の闘いがある。
それをわからずに、辺野古移設を強行しようとする日本人も、日本流の闘争を沖縄に押しつける日本人活動家も、沖縄の味方ではない。
沖縄人は、こういう日本人が味方ではないことを十分認識しつつも、生活を維持するため、また、政治闘争を沖縄側に有利に展開するため、戦術的対応をとっているにすぎない。
【注1】記事「辺野古移設反対の市長派が過半数維持 名護市議選」(朝日新聞デジタル 2014年9月8日)
【注2】記事「辺野古中止80%「影響ない」 菅官房長官会見 本紙世論調査」(琉球新報 2014年8月26日)
□佐藤優「名護市議選で辺野古反対が勝利、対決姿勢強める沖縄 ~佐藤優の飛耳長目99~」(「週刊金曜日」2014年9月12日号)
↓クリック、プリーズ。↓

【参考】
「【佐藤優】沖縄に対する侮辱 ~マグルビー在沖米総領事発言~」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【竹富町教科書問題】法改定で単独採択可能に ~予断を許さず~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【片山善博】文部科学省の愚と憲法違反 ~竹富町教科書問題~」
「【佐藤優】「民族問題」と化した辺野古移設強行 ~構造的沖縄差別~」
「【佐藤優】沖縄をネズミと見なす中央政府への激しい異議 ~自民党の強権発動~」
「【政治】自民党パワー・エリートが中、韓、沖縄と問題を起こす ~麻生ナチス発言~」
与党(稲嶺進・市長を支持)・・・・14議席
公明党(与党に加わっていないが、与党と同じく辺野古移設に反対)・・・・2議席
野党(辺野古移設を容認)・・・・11議席
改選前に比べて、与党は1名減、野党は1名増だが、中央政府、自民党、沖縄県幹部が野党に対して徹底的なてこ入れをしたにもかかわらず、与野党逆転ができなかった。このことは、安倍晋三・政権にとって大きな痛手だ。
<同市辺野古沿岸で移設に向けた海底ボーリング調査が8月に始まった直後の選挙だが、市民の意見が割れていることから移設問題への言及を避ける候補が多く、移設をめぐる論戦は低調だった。>【注1】
この見方は、ピントがずれている。名護市民の間で、移設(辺野古を埋め立てて新基地を建設する)問題は、依然、最も関心の高い事項だ。
中央政府による資金提供、分断工作によって、名護市民は痛めつけられてきた。新基地建設問題を争点とすれば、この問題に関心を持つ本土のさまざまな政治勢力が名護に入ってきて、自らの利害関心に基づく政治ゲームを展開する。その結果、名護と沖縄の分断が一層強まる。
日本人の利害関心によって沖縄人が分断されることを望まない故に、<移設問題への言及を避ける候補が多く、移設をめぐる論戦は低調だった。>にすぎない。
このあたりの沖縄人の心理がわからないのは、沖縄に対する構造化された差別の枠組みでしか見てないからだ。
安倍政権は、名護市議選で与野党が逆転していたら、「直近の民意は辺野古移設容認だ」というプロパガンダを展開したであろう。現在の埋め立て工事を加速したに違いない。
今回の結果を見て、首相官邸も自民党本部も、沖縄の民意を尊重していたら、新基地建設はできないから、力で押し切ろうとするであろう。そういう認識を、菅義偉・官房長官はすでに表明している。
安倍政権のボーリング調査強行に対する沖縄県民の反発はきわめて強い。
安倍政権の姿勢に対する支持率はわずか18.6%、不支持は81.5%だ。辺野古移設に賛成する声はわずか10.0%だった。【8月23・24日の琉球新報と沖縄テレビ放送(OTV)合同による世論調査の結果、26日付け「琉球新報」】
沖縄世論の構造的転換が起きている。しかし、目が曇った日本人政治エリート(国会議員、官僚)には、この明々白々な事実が見えないらしい。
<菅義偉官房長官は26日の会見で、琉球新報・沖縄テレビ合同世論調査で、米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古での移設作業を「中止すべきだ」とする回答が80・2%、工事を強行した安倍政権への不支持が81・5%に達したことに、「政府の方針として(工事を)粛々と進める」と述べ、県民の反対が強い中でも「(影響は)全くない」と答えた。
県民の強い反対が11月の県知事選に与える影響については「政府は法治国家であり、仲井真(弘多)知事の承認をいただいた。沖縄のみなさんの、普天間の危険除去への強い訴えや抑止力などの中で18年前に決着した」と述べ、着工は決定事項であり、知事選への影響はないとした。>【注2】
菅長官の認識は、「安全保障と外交は中央政府の専管事項だ。中央政府が決めたことについて、沖縄はつべこべ言わず、従え」という認識に基づいている。
日本の陸地面積の0.6%を占めるにすぎない沖縄県に在日米軍基地の74%が所在する。この状況も「これでいいのだ」と中央政府が決めた以上、沖縄人と沖縄県は「つべこべ言わず、従え」と言うことだ。
こういう日本人の常識に付き合っているかぎり、沖縄は構造的に差別された状況から永遠に抜け出すことができない。
日本人政治家の良識に期待しても無駄だ。その「良識」は身内の日本人内部にしか適用されず、沖縄人(外部)には適用されないからだ。
「沖縄の人」「沖縄県民」 対 「本土の人」
ではない。
「沖縄人」 対 「本土の人」
という関係だ。
辺野古の警備にあたるガードマン、漁船員、沖縄県警の警察官、沖縄防衛局の地元採用職員・・・・これらのほとんどは沖縄人だ。日本人は奥に引っ込んでいて、新基地に反対する沖縄人と対峙する場に姿を見せない。沖縄人によって沖縄人を鎮圧する・・・・この手法は植民地主義者の典型的な分断統治だ。
沖縄戦で、沖縄人は、日本軍の強制により、あるいは日本に過剰同化したために「同胞殺し」に手を染めてしまった。
このような悲劇を沖縄人は二度と繰り返さないと心に誓い、それを実践している。
沖縄人が、諦念から辺野古の新基地建設を容認することなどあり得ない。沖縄には沖縄流の闘いがある。
それをわからずに、辺野古移設を強行しようとする日本人も、日本流の闘争を沖縄に押しつける日本人活動家も、沖縄の味方ではない。
沖縄人は、こういう日本人が味方ではないことを十分認識しつつも、生活を維持するため、また、政治闘争を沖縄側に有利に展開するため、戦術的対応をとっているにすぎない。
【注1】記事「辺野古移設反対の市長派が過半数維持 名護市議選」(朝日新聞デジタル 2014年9月8日)
【注2】記事「辺野古中止80%「影響ない」 菅官房長官会見 本紙世論調査」(琉球新報 2014年8月26日)
□佐藤優「名護市議選で辺野古反対が勝利、対決姿勢強める沖縄 ~佐藤優の飛耳長目99~」(「週刊金曜日」2014年9月12日号)
↓クリック、プリーズ。↓



【参考】
「【佐藤優】沖縄に対する侮辱 ~マグルビー在沖米総領事発言~」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【竹富町教科書問題】法改定で単独採択可能に ~予断を許さず~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【片山善博】文部科学省の愚と憲法違反 ~竹富町教科書問題~」
「【佐藤優】「民族問題」と化した辺野古移設強行 ~構造的沖縄差別~」
「【佐藤優】沖縄をネズミと見なす中央政府への激しい異議 ~自民党の強権発動~」
「【政治】自民党パワー・エリートが中、韓、沖縄と問題を起こす ~麻生ナチス発言~」