2013年10月1日、米国では適正価格医療保険制度【注1】のネット登録が始まった。
オバマケアは、民間医療保険の購入を全国民と企業に義務づける。
反対する共和党が同法の修正を予算案の合意条件としたため、政府機関の一部が閉鎖された。
すでに国民皆保険制度を持つ日本では皆保険に反対する共和党に対する批判が多い。その批判は正しいか?
オバマ政権とマスコミは、正確な中身を国民に説明しないまま法案を通過させた。
マスコミがふりまく甘美なイメージだけが独り歩きし、5,000万人いる無保険者たちは、弱者を救う改革という謳い文句にうっとりと期待を寄せた。世界一医療費の高い国である米国で、ついに全国民が「良質で低価格の医療保険」を手にできるようになる、と。
だが、フタを開けてみれば、現実はスローガンと逆行。オバマケア通過後、医療保険を失ったり、就業時間を削減されたり、職を失う国民が急増している。
米国では、40時間/週以上勤務の正社員50人超の企業に団体健康保険提供を義務づけているが、オバマケアはこれを30時間/週に短縮した。
その結果、企業はリストラ、勤務時間短縮を前倒しで実施。失業者を増大させた。
2010年にオバマケアが通過してから、わずか18か月で450万人の米国民が保険を失った。【ギャロップ社調査】
企業群からのクレーム殺到で、オバマ政権はこの団体健康保険加入義務の導入について1年間の延期を決定。だが、個人の加入義務は施行されるため、失業して団体健康保険を失った者は、割高の個人保険料を支払うことになった。
「重篤な持病や病歴がある患者に対する加入拒否を禁止する」という項目は、健康な人々の保険料を大幅に値上がりさせている。
若者世代(18歳から35歳まで)の保険料は、全米で2倍以上、最も上昇率の高いバーモント州では以前の6倍になった。
マンハッタンに住む30代の会社員は、家族3人の月額保険料が500ドル→1,500ドルと3倍に上昇した。自己負担額【注2】も5,000ドルに上がった。
ウィスコンシン州に住む40代男性(年収45,000ドル)は、オバマケア開始の半年前に正社員からパート契約に変えられた。減俸され、会社の保険も失った彼は、高額な個人保険への加入を断念。無保険者への罰金(個人は95ドル/年)を支払う道を選んだ。
職はあるが、会社の保険を持たず、個人保険にも入れないワーキングプア層は、爆発的に増えていくだろう。
そして、国税庁が個人情報とともに、無保険者から強制徴収する税金(無保険者から強制徴収する罰金)は、320ドル(2015年)、695ドル(2016年)と、年々上がっていく。
「無保険者救済」掲げるオバマケアは、「メディケイド」【注3】受給枠を1,700万人分拡充する。
メディケイドは、財政赤字を理由に、予算を削減され続けている。その患者の増加は、不足分を補填する病院と医師たちの負担をますます重くする。メディケイド患者と無保険者が溢れる救急病棟(ER)が生む3億ドル/年の未払い金は、2014年度以降、さらに上昇するだろう。
オバマケアによる課税負担は、主に年収12万ドル以下の中流世帯にのしかかる。最高裁合憲判決の言葉どおり、この法律の実態は、労働者階級への大増税政策なのだ。【「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙】
上位企業と国会議員は、この増税法から「免責」されている。
オバマケアの中身を知れば、社会主義だとの批判は的外れであることがわかる。
米国では、昔も今も、コーポラティズム【注4】が命の値段を決める。
【注1】通称:オバマケア、2014年1月本格的始動。
【注2】保険適用前に加入者が支払う。
【注3】公的低所得者用医療保障。
【注4】政府と企業の癒着による利権主義。
□堤未果「オバマケアで揺れるアメリカ 国民皆保険という美名の裏で大増税がはじまる ~ジャーナリストの目 第180回~」(「週刊現代」2013年11月2日号)
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オバマケアは、民間医療保険の購入を全国民と企業に義務づける。
反対する共和党が同法の修正を予算案の合意条件としたため、政府機関の一部が閉鎖された。
すでに国民皆保険制度を持つ日本では皆保険に反対する共和党に対する批判が多い。その批判は正しいか?
オバマ政権とマスコミは、正確な中身を国民に説明しないまま法案を通過させた。
マスコミがふりまく甘美なイメージだけが独り歩きし、5,000万人いる無保険者たちは、弱者を救う改革という謳い文句にうっとりと期待を寄せた。世界一医療費の高い国である米国で、ついに全国民が「良質で低価格の医療保険」を手にできるようになる、と。
だが、フタを開けてみれば、現実はスローガンと逆行。オバマケア通過後、医療保険を失ったり、就業時間を削減されたり、職を失う国民が急増している。
米国では、40時間/週以上勤務の正社員50人超の企業に団体健康保険提供を義務づけているが、オバマケアはこれを30時間/週に短縮した。
その結果、企業はリストラ、勤務時間短縮を前倒しで実施。失業者を増大させた。
2010年にオバマケアが通過してから、わずか18か月で450万人の米国民が保険を失った。【ギャロップ社調査】
企業群からのクレーム殺到で、オバマ政権はこの団体健康保険加入義務の導入について1年間の延期を決定。だが、個人の加入義務は施行されるため、失業して団体健康保険を失った者は、割高の個人保険料を支払うことになった。
「重篤な持病や病歴がある患者に対する加入拒否を禁止する」という項目は、健康な人々の保険料を大幅に値上がりさせている。
若者世代(18歳から35歳まで)の保険料は、全米で2倍以上、最も上昇率の高いバーモント州では以前の6倍になった。
マンハッタンに住む30代の会社員は、家族3人の月額保険料が500ドル→1,500ドルと3倍に上昇した。自己負担額【注2】も5,000ドルに上がった。
ウィスコンシン州に住む40代男性(年収45,000ドル)は、オバマケア開始の半年前に正社員からパート契約に変えられた。減俸され、会社の保険も失った彼は、高額な個人保険への加入を断念。無保険者への罰金(個人は95ドル/年)を支払う道を選んだ。
職はあるが、会社の保険を持たず、個人保険にも入れないワーキングプア層は、爆発的に増えていくだろう。
そして、国税庁が個人情報とともに、無保険者から強制徴収する税金(無保険者から強制徴収する罰金)は、320ドル(2015年)、695ドル(2016年)と、年々上がっていく。
「無保険者救済」掲げるオバマケアは、「メディケイド」【注3】受給枠を1,700万人分拡充する。
メディケイドは、財政赤字を理由に、予算を削減され続けている。その患者の増加は、不足分を補填する病院と医師たちの負担をますます重くする。メディケイド患者と無保険者が溢れる救急病棟(ER)が生む3億ドル/年の未払い金は、2014年度以降、さらに上昇するだろう。
オバマケアによる課税負担は、主に年収12万ドル以下の中流世帯にのしかかる。最高裁合憲判決の言葉どおり、この法律の実態は、労働者階級への大増税政策なのだ。【「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙】
上位企業と国会議員は、この増税法から「免責」されている。
オバマケアの中身を知れば、社会主義だとの批判は的外れであることがわかる。
米国では、昔も今も、コーポラティズム【注4】が命の値段を決める。
【注1】通称:オバマケア、2014年1月本格的始動。
【注2】保険適用前に加入者が支払う。
【注3】公的低所得者用医療保障。
【注4】政府と企業の癒着による利権主義。
□堤未果「オバマケアで揺れるアメリカ 国民皆保険という美名の裏で大増税がはじまる ~ジャーナリストの目 第180回~」(「週刊現代」2013年11月2日号)
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