語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【堤未果】米国社会の変質 ~ミズーリ州の武装警察~

2014年09月16日 | 社会
 8月9日、米国ミズーリ州セントルイス郡ファガーソンで、黒人少年マイケル・ブラウン(18歳)が警官に射殺された。
 同地区は、人口わずか21,000人のうち6割を黒人が占める。他方、地元警察官の9割を白人が占める。・・・・①
 米国の予算不足に苦しむ自治体は、収入を交通違反の罰金に頼るケースが少なくない。・・・・②
 歪んだ経済的動機②を根深い人種差別①が後押しし、黒人住民への職務質問が圧倒的に多い(現実)。・・・・③
 そうした警察のやり方③に、住民は日ごろから不満を溜めていた。加害者の白人警官が無罪となったことをきっかけに、住民の怒りが爆発した。激化する抗議デモは、略奪にまで発展した。ニクソン州知事は非常事態宣言を発動した。

 「ロドニー・キング事件」(ロサンゼルス、1992年)では、複数の白人警官が1人の黒人(建設作業員)を暴行した動画が拡散したことをきっかけに、抗議デモが略奪に発展した。
 8月9日の事件とよく似た事件だが、一つだけ大きく違う。事件の直後に繰り広げられたデモ鎮圧の光景だ。ファガーソンの警官は、戦闘服を着用し、アサルトライフル銃で武装し、デモ隊に次々にゴム弾、催涙ガスを使用。最後は装甲車で住民を排除した。

 ワシントンポスト紙とハフィントンポスト紙の記者2人は、マクドナルドからの退去命令に即座に従わなかった、という理由で警察の特殊部隊に逮捕された。この経緯を自身のブログやツイッターで拡散。その証言によれば、武装警察は、拡声器で、これ以上の集会を禁止し、従わなければ逮捕する、と威嚇した。
 記者たちが動かないでいると、やがて耳をつんざくような音が響き渡った。通常は戦場で敵に向けて使用される音響兵器「LRAD」であった。

 9・11以降、米国政府は「テロとの戦い」を理由に、全米各地の警察に武器購入の助成金を提供し、警察の軍事化を促進してきた。
 その結果、過剰な軍備の矛先はテロの脅威に対してではなく、地域の住民に対して向けられている。
 今回の事態を目撃したある下院議員は、政府による地方警察への武器供給を規制する法改正を提案した。しかし、いまやテロ対策予算は莫大な利権と化した。歯止めは果たして可能か。

 ファガーソン武装警察による住民や記者への暴挙は、瞬く間にネットで拡散された。全米各地で警察の暴力に対する抗議デモが再燃し始めた。
 警察の暴力の被害者(住民)の一人はいう。
 「これは全米で起きている非常に深刻な事態の、氷山の一角だ。今はまだこうして市民が現場から動画などで真実を伝えられるが、やがてその手段も取り上げられるかもしれない」
 この危惧は誇張ではない。
 カルフォニア州議会は今月、スマートフォンに遠隔停止機能搭載を義務づける「キルスイッチ」法を通過させた。
 今年、公民権運動50周年を迎える米国で、キング牧師が憂慮した人種問題は、今、別の目的に向かって歪められ、権力を暴走させている。
 
 翻って、国連人権委員会からヘイトスピーチ規制勧告を受けた日本政府内では、何故か、3・11直後から続いている官邸前デモを取り締まる法改正を目論む声があがっている。
 規制対象の定義、警察権限の拡大が、一歩踏み外すといかなる結果をもたらすか、まだ検証されていない。
 11月に施行する「特定秘密保護法」が大きな法的権限を付与している公安の位置づけも定かではない。
 ミズーリ州において露呈した米国社会の変質は、もはや日本にとって無縁ではない。

□堤未果「米・黒人少年射殺に見る--「テロ対策」を名目にした警察権力拡大が止まらない」(「週刊現代」2014年9月20・27日号)
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