これまで国は除染の長期目標として追加被爆線量を1mmSv/年=0.23μSv/時と示し、これより線量の高い地域の除染費用を負担してきた。
しかし、環境省は、8月1日、これまでの空間線量から個人線量を重視する新たな方針を発表。福島県内の4市で行った調査結果をもとに、空間線量が0.3~0.6μSv/時の場所の住民で1mmSv/年程度の被爆になるとし、0.23は除染目標ではない、と主張し始めた。
被災地からは、まやかしの方針転換だ、不満が噴出している。
「国がやろうとしているのは、除染がうまくいかなかったから基準を引き上げるということだ。なし崩し的除染を放棄するつもりではないか」【郡山市民】
個人線量は家族全員が違う。
<例>①近所の学校に歩いて通う子ども。②三春町から10km離れた郡山市の会社で通勤する母親。
第一、個人線量を測るガラスバッジは子どもだけに配布され、大人は持ってない(三春町)。
子どもにしても、首からぶら下げるのは嫌だと、常時身につけている子のほうが少ない。
そんな状況で、年間1ミリシーベルトを下回る人が多いから除染はしない、と言われてもまったく説得力がない。
X市の除染担当者は打ち明ける。
空間線量で0.23μSv/時を基準にする除染方針は、いままで環境省がさんざん言ってきたこと。何を今さら。だいたいガラスバッジで住民の本当の被爆線量を出すなんて無理。**市では従来どおり0.23μSv/時を基準にやる。
今回の方針転換のベースになった調査に参加した郡山市ですら、同様だ。
郡山市では「ふるさと再生除染実施計画」の中で0.23μSv/時を基準にしている。この計画を変えるつもりはない。それに、0.23μSv/時という数字を出したのは環境省ではなかったか。
ガラスバッジや積算線量計を全住民に配布している自治体はごくわずかだ。多くは子どものみに配っている。
<例>郡山市。昨年度末で未就学児のガラスバッジ装着率は56.6%だった。小中学生は25.2%(4度目の実施時)。妊婦には電子式積算線量計を配布するが、装着率は年間7.5%にすぎない。要するに、子どもの半分以上は持ってないし、持っていても常時は身につけていない。
ガラスバッジが信用されていないのだ。背中側の線量は測れないし、家の中の一番線量が高いところに置いておいても不検出と出たりする。子どもが登校すると教師がバッジを回収し、下校時に返すところもある。
環境省の新方針を受け、今年度内に全住民を対象とした個人線量測定を開始するのは、福島県内59市町村のうち13にとどまる見込みだ。
そもそも一般人の個人線量管理には無理がある。自分も四六時中身につけるなんてことはしない。被爆管理を普通の人に強制すること自体間違っている。子どもたちにそんなことができるはずがない。個人線量計では、被爆後にその量がわかるだけ。本当にやらなければならないのは、できるかぎり被爆しないことだ。【小出裕章・京都大学原子炉実験所助教】
今回の方針転換で、国のいい加減さがはっきりした。今まで国や自治体は0.23μSv/時まで空間線量を下げるから避難する必要はない、と住民に言ってきた。しかし、それが難しいとなると、目標数値を2倍以上に上げる、という。ずさんな除染計画が露呈した。【井戸謙一・ふくしま集団疎開裁判の会/弁護士】
被災地を切り捨てるような方針転換は、なぜ行われたか。カネの問題か。
2011年度以降、国が行う除染には毎年数千億円、計1兆4,081億円もの税金が投じられてきた。
これは、本来東京電力が払うべき費用を国が一時的に肩代わりしているという形で、これまで国から東電に660億円請求され、414億円が支払われている。
安倍政権は、昨年12月、本来は国庫に戻すべき東電株の売却益を除染に充てる方針を決定。
最終的に、除染費用は国=税金で支払うことになった。
ただ、株売却益は2020年後半以降の予定で、それまでは国から東電に「請求書」が回され続ける。
シナリオを描いているのは経産省&電力業界だ。東電をつぶさないという大方針のため、国からの請求額を少しでも軽くしようとしている。元来、除染に消極的な環境省は、官邸を牛耳る経産省の方針を追認するだけ。交替確実と言われる石原伸晃・環境相にしても、電力業界を敵に回してまで本気で除染に取り組む気はなく、確信犯的に表部隊を避けている。【古賀茂明・元経産官僚】
除染で出るゴミの中間貯蔵施設の建設をめぐり、「最後は金目でしょ」とうそぶく舌禍事件を起こした石原環境相は在任中からレームダック化した。除染の方針転換の発表を行ったときも、井上信治・環境副大臣に丸投げして不在だった。
大臣のやる気なさに加えて、環境省自体のフトコロ事情も影響している。
環境省のある幹部によれば、除染にこれほどの予算をかけるのはあと2年ほどだ。立て替えた巨額の費用を東電から回収できるか疑わしくなっているし、廃炉費用なども考えると、将来、東電株を売却しても足りなくなる可能性がある。除染の規模を縮小したい、と考えたのであろう。【飯田哲也・環境エネルギー研究所長】
7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定直後に支持率が下がったことで、安部政権もかなり慎重になっている。目立つことはせず、今回のように基準の数値を曖昧にしつつ、なし崩し的に除染から“撤退”しようとしているのだろう。【古賀茂明】
□桐島瞬(ジャーナリスト)+小泉耕平(本誌)「放棄される除染 政官財の非情 甲状腺B判定の青年ら怒りの告発 経産省主導で東電延命策か」(「週刊朝日」2014年9月5日号)
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しかし、環境省は、8月1日、これまでの空間線量から個人線量を重視する新たな方針を発表。福島県内の4市で行った調査結果をもとに、空間線量が0.3~0.6μSv/時の場所の住民で1mmSv/年程度の被爆になるとし、0.23は除染目標ではない、と主張し始めた。
被災地からは、まやかしの方針転換だ、不満が噴出している。
「国がやろうとしているのは、除染がうまくいかなかったから基準を引き上げるということだ。なし崩し的除染を放棄するつもりではないか」【郡山市民】
個人線量は家族全員が違う。
<例>①近所の学校に歩いて通う子ども。②三春町から10km離れた郡山市の会社で通勤する母親。
第一、個人線量を測るガラスバッジは子どもだけに配布され、大人は持ってない(三春町)。
子どもにしても、首からぶら下げるのは嫌だと、常時身につけている子のほうが少ない。
そんな状況で、年間1ミリシーベルトを下回る人が多いから除染はしない、と言われてもまったく説得力がない。
X市の除染担当者は打ち明ける。
空間線量で0.23μSv/時を基準にする除染方針は、いままで環境省がさんざん言ってきたこと。何を今さら。だいたいガラスバッジで住民の本当の被爆線量を出すなんて無理。**市では従来どおり0.23μSv/時を基準にやる。
今回の方針転換のベースになった調査に参加した郡山市ですら、同様だ。
郡山市では「ふるさと再生除染実施計画」の中で0.23μSv/時を基準にしている。この計画を変えるつもりはない。それに、0.23μSv/時という数字を出したのは環境省ではなかったか。
ガラスバッジや積算線量計を全住民に配布している自治体はごくわずかだ。多くは子どものみに配っている。
<例>郡山市。昨年度末で未就学児のガラスバッジ装着率は56.6%だった。小中学生は25.2%(4度目の実施時)。妊婦には電子式積算線量計を配布するが、装着率は年間7.5%にすぎない。要するに、子どもの半分以上は持ってないし、持っていても常時は身につけていない。
ガラスバッジが信用されていないのだ。背中側の線量は測れないし、家の中の一番線量が高いところに置いておいても不検出と出たりする。子どもが登校すると教師がバッジを回収し、下校時に返すところもある。
環境省の新方針を受け、今年度内に全住民を対象とした個人線量測定を開始するのは、福島県内59市町村のうち13にとどまる見込みだ。
そもそも一般人の個人線量管理には無理がある。自分も四六時中身につけるなんてことはしない。被爆管理を普通の人に強制すること自体間違っている。子どもたちにそんなことができるはずがない。個人線量計では、被爆後にその量がわかるだけ。本当にやらなければならないのは、できるかぎり被爆しないことだ。【小出裕章・京都大学原子炉実験所助教】
今回の方針転換で、国のいい加減さがはっきりした。今まで国や自治体は0.23μSv/時まで空間線量を下げるから避難する必要はない、と住民に言ってきた。しかし、それが難しいとなると、目標数値を2倍以上に上げる、という。ずさんな除染計画が露呈した。【井戸謙一・ふくしま集団疎開裁判の会/弁護士】
被災地を切り捨てるような方針転換は、なぜ行われたか。カネの問題か。
2011年度以降、国が行う除染には毎年数千億円、計1兆4,081億円もの税金が投じられてきた。
これは、本来東京電力が払うべき費用を国が一時的に肩代わりしているという形で、これまで国から東電に660億円請求され、414億円が支払われている。
安倍政権は、昨年12月、本来は国庫に戻すべき東電株の売却益を除染に充てる方針を決定。
最終的に、除染費用は国=税金で支払うことになった。
ただ、株売却益は2020年後半以降の予定で、それまでは国から東電に「請求書」が回され続ける。
シナリオを描いているのは経産省&電力業界だ。東電をつぶさないという大方針のため、国からの請求額を少しでも軽くしようとしている。元来、除染に消極的な環境省は、官邸を牛耳る経産省の方針を追認するだけ。交替確実と言われる石原伸晃・環境相にしても、電力業界を敵に回してまで本気で除染に取り組む気はなく、確信犯的に表部隊を避けている。【古賀茂明・元経産官僚】
除染で出るゴミの中間貯蔵施設の建設をめぐり、「最後は金目でしょ」とうそぶく舌禍事件を起こした石原環境相は在任中からレームダック化した。除染の方針転換の発表を行ったときも、井上信治・環境副大臣に丸投げして不在だった。
大臣のやる気なさに加えて、環境省自体のフトコロ事情も影響している。
環境省のある幹部によれば、除染にこれほどの予算をかけるのはあと2年ほどだ。立て替えた巨額の費用を東電から回収できるか疑わしくなっているし、廃炉費用なども考えると、将来、東電株を売却しても足りなくなる可能性がある。除染の規模を縮小したい、と考えたのであろう。【飯田哲也・環境エネルギー研究所長】
7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定直後に支持率が下がったことで、安部政権もかなり慎重になっている。目立つことはせず、今回のように基準の数値を曖昧にしつつ、なし崩し的に除染から“撤退”しようとしているのだろう。【古賀茂明】
□桐島瞬(ジャーナリスト)+小泉耕平(本誌)「放棄される除染 政官財の非情 甲状腺B判定の青年ら怒りの告発 経産省主導で東電延命策か」(「週刊朝日」2014年9月5日号)
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