スコットランド独立の是非を問う住民投票(9月18日)では、投票率84.6%で、
・反対 2,001,926票(55.25%)
・賛成 1,617,989票(44.65%)
この結果、スコットランドは英国に残留することになった。
<今回の住民投票では9月上旬の世論調査で独立賛成派が、反対派を初めて逆転した。その後、英キャメロン政権が、徴税や予算づくりなど国の根幹にかかわる分野でも、スコットランドへの権限移譲を検討する考えを示したことで流れが変わった。独立に傾いていた人の間でも「英国にとどまって自治権を拡大したほうが、経済的なリスクも少ない」との見方が強まった。
スコットランド自治政府の首席大臣で、スコットランド民族党(SNP)党首でもあるサモンド氏は19日、敗北を認めて辞意を表明する一方で、「約束された権限移譲が迅速に進むことを期待している」とクギを刺した。キャメロン首相は同日、「人々の意見は聞き入れられた」と述べ、自治権拡大を進めるとともに、英国を構成する残りのイングランド、ウェールズ、北アイルランドの3地域へも権限移譲を進めることを提案した。>【注】
【重要】独立に反対した人は2つのカテゴリーに分かれる。
(1)「スコットランド人は英国人に完全にどうかした」と考えている人々。
(2)「スコットランド人は独立を含む自己決定権を持つが、現状では英国に属したほうがいい」と考えている人々。
要するに、「我々は自己決定権を持つ」と考えるスコットランド人が過半数に達した。
英国政府は、より広汎な自治権を与える、とスコットランドに約束した。
今後、次の問題などに係る協議が行われるが、妥協点はそう簡単には見出されないだろう。
(a)北海油田から得られる税収。
(b)スコットランドのみにある原子力潜水艦基地の移設。
さらに、今回の住民投票において、英国政府のみならず、国政レベルの与野党すべてが独立に反対し、スコットランドに圧力をかけたことに対して、独立派だけでなく多くのスコットランド人が「我々は差別されている」という認識を抱いた。
自治権拡大に係る協議で合意が達成されないと、スコットランドでは再び「独立の是非を問う住民投票を行うべきだ」という声が高まる。
その時、英国政府は、スコットランドの要求を拒否するだろう。「同じ問題について再度住民投票を行う必要はない」と。
拒否すると、英国とスコットランドの間に再び緊張が走る。
スコットランドの独立運動は、地域主義であって、民族主義と一線を画している・・・・という見方は甘い。
地域主義はいつでも民族主義に転化し得る。
①1707年まで独立国家を持っていたスコットランド人の歴史認識。
②自民族に対するプライド。
③②と表裏の関係にある思い・・・・「イングランド人に差別されてきた」。
これら①~③を英国の圧倒的多数派(イングランド人)は理解できないのだ。
キャメロン首相にとって、スコットランド問題は今後も頭痛の種だ。
【注】記事「「スコットランド自治拡大」 英首相、他地域へも権限移譲表明 独立否決」(朝日新聞デジタル 2014年9月20日)
□佐藤優「スコットランド「独立運動」は終わっていない ~佐藤優の人間観察 第83回~」(「週刊現代」2014年10月11日号)
↓クリック、プリーズ。↓
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【参考】
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~」
「【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~」
「【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~」
「【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~」
「【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~」
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」
・反対 2,001,926票(55.25%)
・賛成 1,617,989票(44.65%)
この結果、スコットランドは英国に残留することになった。
<今回の住民投票では9月上旬の世論調査で独立賛成派が、反対派を初めて逆転した。その後、英キャメロン政権が、徴税や予算づくりなど国の根幹にかかわる分野でも、スコットランドへの権限移譲を検討する考えを示したことで流れが変わった。独立に傾いていた人の間でも「英国にとどまって自治権を拡大したほうが、経済的なリスクも少ない」との見方が強まった。
スコットランド自治政府の首席大臣で、スコットランド民族党(SNP)党首でもあるサモンド氏は19日、敗北を認めて辞意を表明する一方で、「約束された権限移譲が迅速に進むことを期待している」とクギを刺した。キャメロン首相は同日、「人々の意見は聞き入れられた」と述べ、自治権拡大を進めるとともに、英国を構成する残りのイングランド、ウェールズ、北アイルランドの3地域へも権限移譲を進めることを提案した。>【注】
【重要】独立に反対した人は2つのカテゴリーに分かれる。
(1)「スコットランド人は英国人に完全にどうかした」と考えている人々。
(2)「スコットランド人は独立を含む自己決定権を持つが、現状では英国に属したほうがいい」と考えている人々。
要するに、「我々は自己決定権を持つ」と考えるスコットランド人が過半数に達した。
英国政府は、より広汎な自治権を与える、とスコットランドに約束した。
今後、次の問題などに係る協議が行われるが、妥協点はそう簡単には見出されないだろう。
(a)北海油田から得られる税収。
(b)スコットランドのみにある原子力潜水艦基地の移設。
さらに、今回の住民投票において、英国政府のみならず、国政レベルの与野党すべてが独立に反対し、スコットランドに圧力をかけたことに対して、独立派だけでなく多くのスコットランド人が「我々は差別されている」という認識を抱いた。
自治権拡大に係る協議で合意が達成されないと、スコットランドでは再び「独立の是非を問う住民投票を行うべきだ」という声が高まる。
その時、英国政府は、スコットランドの要求を拒否するだろう。「同じ問題について再度住民投票を行う必要はない」と。
拒否すると、英国とスコットランドの間に再び緊張が走る。
スコットランドの独立運動は、地域主義であって、民族主義と一線を画している・・・・という見方は甘い。
地域主義はいつでも民族主義に転化し得る。
①1707年まで独立国家を持っていたスコットランド人の歴史認識。
②自民族に対するプライド。
③②と表裏の関係にある思い・・・・「イングランド人に差別されてきた」。
これら①~③を英国の圧倒的多数派(イングランド人)は理解できないのだ。
キャメロン首相にとって、スコットランド問題は今後も頭痛の種だ。
【注】記事「「スコットランド自治拡大」 英首相、他地域へも権限移譲表明 独立否決」(朝日新聞デジタル 2014年9月20日)
□佐藤優「スコットランド「独立運動」は終わっていない ~佐藤優の人間観察 第83回~」(「週刊現代」2014年10月11日号)
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【参考】
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
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「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
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「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
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「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
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「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」