(1)御嶽山の水蒸気噴火で多数の死者が出た。
気象庁は、今回は明確な前兆が観測されていなくて予知は困難だった、と言う。しかし、その言葉を鵜呑みにしてはならない。
(2)注目すべき事実がある。
(a)山頂に一番近い長野県の地震計が壊れたまま1年以上放置されていた。
(b)9月中旬に山頂付近で火山性の地震がかなりの数、観測されていたことが報道されているが、実はそのような現象は非常に珍しく、少なくともその時点で登山者などには周知徹底しておくべきだった。この情報は火山学者の間で共有されていたが、一般の登山者には知らされていなかった。【長尾年恭・東海大学地震予知研究センター長】
(c)気象庁によれば噴火の10分ほど前から火山性微動が続いていたのだが、これも山小屋などには伝えられなかった。【同】
(3)疑問。
9月中旬に異常【(2)-(b)】が見られたときに、何故周知徹底しなかったのか。
(a)御嶽山の観光サイトに関係機関のデータをリアルタイムでリンクして、一般の登山者に提供することなど簡単なことだ。
(b)さらに言えば、火山性微動が増加した時点で、緊急地震速報のように「緊急噴火情報」を山頂付近の登山客に届ける仕組みなども全国で整備しようと思えば技術的には十分に可能だ。
周知徹底、①や②を阻んだ理由として、噴火情報を流すと登山客が減少して地元経済に悪影響がある、という経済優先の考え方が挙げられる。
(4)しかし、そこにはいっそう歪んだ原因がある。
(a)噴火や地震の予知対策がハード偏重になっている。全国に110の活火山があり、特に観測監視体制を強化しているものだけでも47もある。御嶽山はその一つにすぎないが、その山頂付近だけで12の地震計が設置されている。
(b)気象庁には気象の専門家はいても、火山の専門家は非常に少ない。今回のような異常データが入っても十分な分析をしている余裕も能力もない。
(c)もし十分な数の火山の専門家がいれば、少なくとも、異常な地震があった事実は周知徹底していたはずだ。観測機器ばかり増やして、データ解析などの人員と維持管理経費は十分に増やさなかったことが命取りになった・・・・事実、10月7日までに、御嶽山は54人の命を奪ったことが判明した【注】。
(5)(4)の歪んだ原因には、政治家の都合、官僚と学者の利権がある。
(a)計測機器を増やすことは、災害対策のアリバイ作りとしてわかりやすい(政治家に都合が良い)。
(b)「地震・火山ムラ」の官僚や学者は、計測機器メーカーと癒着している。官僚は天下り確保のため、学者は研究費の寄付や学生の就職などのために、メーカーからの機器購入を優先する。
(6)(4)に加えてもう一つ、原因がある。縦割り行政だ。12の地震計【(4)-(a)】は、気象庁、長野・岐阜両県、名古屋大学、防災科学技術研究所などが設置したものだ。
これらを一つの機関に集約し、専門家も集めることができれば、国土交通省、文部科学省、総務省などの予算が一本化され、効率化されるし、責任体制も明確になるはずだ。
しかし、予算と権限の縮小に反対する官僚の抵抗で、そんなことはできない。その結果、「機器の故障は放置、データ利用はバラバラ、市民に重要な情報が伝わらない」という現状を生み出した。
(a)「地震・火山ムラ」のハード予算獲得運動を峻拒し、
(b)ソフト面の予算を充実させ、
(c)地震・噴火の予知と情報提供に一元的に責任を持つ機関を作る抜本策を目指すべきだ。
【注】「御嶽山3人死亡確認 死者54人に」(NHK NEWSWeb 10月7日 16時35分)
□古賀茂明「御嶽山と「地震・火山ムラ」 ~官々愕々第126回~」(「週刊現代」2014年10月18日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~」
「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器」
「【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ」
「【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~」
「【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~」
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
「【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~」
「【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~」
「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
「【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」
「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」
気象庁は、今回は明確な前兆が観測されていなくて予知は困難だった、と言う。しかし、その言葉を鵜呑みにしてはならない。
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(a)山頂に一番近い長野県の地震計が壊れたまま1年以上放置されていた。
(b)9月中旬に山頂付近で火山性の地震がかなりの数、観測されていたことが報道されているが、実はそのような現象は非常に珍しく、少なくともその時点で登山者などには周知徹底しておくべきだった。この情報は火山学者の間で共有されていたが、一般の登山者には知らされていなかった。【長尾年恭・東海大学地震予知研究センター長】
(c)気象庁によれば噴火の10分ほど前から火山性微動が続いていたのだが、これも山小屋などには伝えられなかった。【同】
(3)疑問。
9月中旬に異常【(2)-(b)】が見られたときに、何故周知徹底しなかったのか。
(a)御嶽山の観光サイトに関係機関のデータをリアルタイムでリンクして、一般の登山者に提供することなど簡単なことだ。
(b)さらに言えば、火山性微動が増加した時点で、緊急地震速報のように「緊急噴火情報」を山頂付近の登山客に届ける仕組みなども全国で整備しようと思えば技術的には十分に可能だ。
周知徹底、①や②を阻んだ理由として、噴火情報を流すと登山客が減少して地元経済に悪影響がある、という経済優先の考え方が挙げられる。
(4)しかし、そこにはいっそう歪んだ原因がある。
(a)噴火や地震の予知対策がハード偏重になっている。全国に110の活火山があり、特に観測監視体制を強化しているものだけでも47もある。御嶽山はその一つにすぎないが、その山頂付近だけで12の地震計が設置されている。
(b)気象庁には気象の専門家はいても、火山の専門家は非常に少ない。今回のような異常データが入っても十分な分析をしている余裕も能力もない。
(c)もし十分な数の火山の専門家がいれば、少なくとも、異常な地震があった事実は周知徹底していたはずだ。観測機器ばかり増やして、データ解析などの人員と維持管理経費は十分に増やさなかったことが命取りになった・・・・事実、10月7日までに、御嶽山は54人の命を奪ったことが判明した【注】。
(5)(4)の歪んだ原因には、政治家の都合、官僚と学者の利権がある。
(a)計測機器を増やすことは、災害対策のアリバイ作りとしてわかりやすい(政治家に都合が良い)。
(b)「地震・火山ムラ」の官僚や学者は、計測機器メーカーと癒着している。官僚は天下り確保のため、学者は研究費の寄付や学生の就職などのために、メーカーからの機器購入を優先する。
(6)(4)に加えてもう一つ、原因がある。縦割り行政だ。12の地震計【(4)-(a)】は、気象庁、長野・岐阜両県、名古屋大学、防災科学技術研究所などが設置したものだ。
これらを一つの機関に集約し、専門家も集めることができれば、国土交通省、文部科学省、総務省などの予算が一本化され、効率化されるし、責任体制も明確になるはずだ。
しかし、予算と権限の縮小に反対する官僚の抵抗で、そんなことはできない。その結果、「機器の故障は放置、データ利用はバラバラ、市民に重要な情報が伝わらない」という現状を生み出した。
(a)「地震・火山ムラ」のハード予算獲得運動を峻拒し、
(b)ソフト面の予算を充実させ、
(c)地震・噴火の予知と情報提供に一元的に責任を持つ機関を作る抜本策を目指すべきだ。
【注】「御嶽山3人死亡確認 死者54人に」(NHK NEWSWeb 10月7日 16時35分)
□古賀茂明「御嶽山と「地震・火山ムラ」 ~官々愕々第126回~」(「週刊現代」2014年10月18日号)
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「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」