語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】安部政権の危機管理能力の低さ ~土砂災害・火山噴火~

2014年10月06日 | 社会
 土井たか子(1928年11月30日-2014年9月20日)、享年85は、気取りがなくさっぱりした性格。「明治の女性」をほうふつさせる気丈さを併せ持つ、あっぱれな人生だった。
 安倍晋三・首相が推進する「女性の活躍」を四半世紀以上も前に実現した先駆者だった。中でもハイライトは1989年の参院選で自民党を完膚なきまでたたきのめしたことだ。このときから日本政治の「衆参ねじれ国会」が始まった。
 「山が動いた」「やるっきゃない」の土井語録の数々が、土井の歯切れのよい政治スタイルを象徴する。さらに、もう一つ後生に残すべき土井語録がある。
 「売上税のうの字もない」
 1986年、衆参同日選挙で圧勝した中曽根康弘が、翌1987年の通常国会の施政方針演説に臨んだ。この演説では全く言及しなかった「売上税」を創設する法案を中曽根が、突如、国会に提出した。そこに土井がかみついたのだ。
 土井の迫力は凄まじく、参院の岩手補選では自民党公認候補は敗北。さらに衆院での牛歩戦術を駆使した社会党の抵抗で、法案は葬り去られた。この圧倒的な発信力が、1989年参院選のマドンナ・ブームを引き起こすことになる。 
 むろん、土井の影響力を支えたのは、卓抜な表現力、力強く巧みな演説力にあったのは言うまでもないが、何よりも土井の言葉には魂がこもっていた。国民が素朴に抱いた気持ちをストレートにぶつけたのだ。

 土井の訃報が報道された翌29日、安部が内閣改造して初の国会だけに、安部が何を語り、野党がどう攻めるかに注目が集まった。しかし、論戦の低調ぶりは目を覆わしむるところがあった。
 理由は、安部の所信表明演説が、国民の歓心の高い問題をほとんど素通りしていたからだ。臨時国会の焦点は、消費税率来年10月からさらに2%引き上げて10%にするのかどうかの一点にあった。しかし、安部は所信表明で触れず、野党も及び腰の追求に終始した。

 消費増税はアベノミクスの成否に直結する。これを避けた論戦は意味がない。
 しかも、外国為替市場では急速な円安が進み、日本経済に深刻な影響を及ぼしている。とりわけ地方経済は生活を直撃されている。
 地方都市に住む人たちは、下駄代わりに使う自動車のガソリン代値上げ、円安に伴う原材料費高騰で赤字体質がますます加速する。安部の唱える「地方創生」は即効性がない。

 第二次安倍内閣は円高の是正から始まった。それが一気に円安に振れた。
 円安に絶対値はない。全てバランスの中で考える必要があるが、急激な円安に政府は友好な手を打たないままだ。【野田毅・自民党税制調査会長】
 かつて円安は輸出産業を中心に「神風」に近いものがあったが、長く続いた円高時代に労働力をはじめ、コストの低い国外への生産拠点の移転に伴い、いわゆる「Jカーブ効果」も有名無実となった。
 言うまでもなく、地方の疲弊は日本全体の疲弊につながる。

 さらに問題なのは、最近の日本全国で頻発する自然災害に対する政治の対応だ。
 8月、広島市で起きた大規模土砂災害・・・・政府の対応は、ちっとも臨機応変でなかった。被害が大きくなるにつれて投入する人数を増やしていく、という最悪の対応を行った。
 御嶽山の噴火も、似たような対応をしている。
 御嶽山の噴火については、気象庁が9月10日に食微動を捉えている。太田昭宏・国土交通相は、「あのときに工夫できなかったのか」と悔やむ。

 日本が直面する危機管理事項は3つ。
 (1)安全保障・・・・北朝鮮の核実験、ほか。米国家安全保障会議(NSC)が対応する。
 (2)国民の安全と健康・・・・鳥インフルエンザやテング熱。厚生労働省が中心となって対応する。
 (3)自然災害への備え・・・・自衛隊の投入を含む危機管理の司令塔が今もってハッキリしていない。
 御嶽で噴火が起きた直後、政府はこれほどの被害になるとは誰も想定していない。事実、最初の噴火が起きた9月27日の当日は、ヘリコプターの出動はなかった。国土交通省が最初に行ったのは、下山者が道に迷わないための投光器を設営することだった。
 ところが、翌日になって投入された救助隊が、山頂で見たのはおびただしい数の犠牲者だった。
 なぜ、噴火当日にヘリコプターを大量投入できなかったのか。
 地震、津波、台風、集中豪雨、火山噴火。
 日本国民は自然災害と背中合わせで生活せざるを得ない。自然災害に台頭するため常設の日本版「FEMA」(米連邦緊急事態管理庁)の設置が急務だ。
 「やるっきゃない」

□後藤謙次「低調を極める臨時国会の論戦 安部の演説は国民の関心素通り ~永田町ライブ 212~」(「週刊ダイヤモンド」2014年10月11日号)
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