語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【米国】トランポノミクス ~ドナルド・トランプの経済政策~

2016年05月27日 | 社会
 (1)大統領選の共和党候補になることが確実になった不動産王ドナルド・トランプ。
 5月5日、トランプの経済政策「トランポノミクス(Trumponomics)」が「正気の沙汰じゃない(insane)」などと集中砲火を浴びた。
 この日、トランプは米経済テレビ局CNBCの電話インタビューで、次のように語った。
 <自分の不動産事業で借金を重ねてこられたのは、借金を棒引きしてもらえると分かっていたから。このやり方はとてもうまくいった。もちろん債権者に対しては強気に出ないと駄目だけれども>

 (2)トランプは、ホテルやカジノ事業で財をなした。多額の債務を抱えて経営破綻しても、債務免除(debt haircut)で復活してきたから「借金王」だ。米国も史上最大の19兆ドル(2,000兆円)まで借金(国債発行残高)を膨らませた現状に言及し、同じ手法で借金を減らせばいい、と主張している。
 <国家は企業と違うとはいえ、借金できる点では同じ。経済が危機にあれば債権者と交渉して借金を棒引きさせればいい。経済が好調ならばそれで良し。どちらに転んでも問題はない>
 最悪の場合には米国はデフォルト(債務不履行)すればいい、と言っているのだ。
 この発言は、市場関係者の間でとりわけ大きな波紋を呼んだ。米国債は、歴史的に世界で最も安全な資産と見なされ、国際金融システムの要として機能してきた。
 デフォルトとなったら?
 米国は、ギリシャやアルゼンチンと同類と見なされ、国際の投げ売りに見舞われて、金利高騰を招くのは必至だ。

 (3)米証券会社CRTキャピタル・グループの国際戦略責任者デビッド・エイダーは、米通信社ブルームバーグの取材に応じ、デフォルトについて「滑稽で話にならない」と一刀両断しながらも、トランポノミクスから目が離せなくなった、と指摘している。
 <トランプが語っているのはばかげていて実現不可能に見える政策ばかり。でも、彼が実際に大統領になり、いわば「核のボタン」を握る可能性も出てきた。こうなるともはや無視するわけにはいかない>

 (4)トランプは、5月9日、米テレビ局CNNに出演し、
   <デフォルトする必要なんてない。紙幣を増刷すれば済む>
と発言を修正した。
 米連邦準備制度理事会(FRB)が紙幣を増刷して債務者から国債を買い戻せばいい、と言うのだ。話題の「ヘリコプターマネー」の利用の提案ともいえるが、これは中央銀行による国債の直接引き受けと実質的に同じで、ハイパーインフレを引き起こす危険を伴う。

□牧野洋(ジャーナリスト兼翻訳家)「Trumponomics ~Key Wordで世界を読む No.94~」(「週刊ダイヤモンド」2016年5月28日号)
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 【参考】
【IT】米IBMはもはや「コンピューターの巨人」ではない ~Medium Blue~

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