語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【新聞】記者の質問能力の低下 ~朝日新聞社長の記者会見~

2014年10月16日 | 批評・思想
 9月11日、木村伊量・朝日新聞社長らが記者会見を開いた【注】。その模様はインターネットで中継された。
 ひたすら頭を下げ、詫びる朝日のトップ。
 産経や読売の記者が執拗に問いただしたが、「新事実」はなにも引き出せなかった。

 記者の質問力が落ちていることを証明した会見だった。
 「慰安婦の金学順さんがキーセン学校に通っていたことを書いていないのは事実のねつ造ではないか」
 「吉田調書の記事はあらかじめ決めた筋書きにそって、つごうのいい箇所を抜き出して作った取材では」
 ・・・・事実を問うというより、自分の見解を披瀝して同意を求める質問が目立った。
 「そのようなことはございません」
 社長の横に坐る杉浦信之・取締役編集担当は謝り役で、低姿勢に徹し、質問をはぐらかす。
 同じ記者が何度も手を挙げ、似たような質問を繰り返したが、2時間の長丁場は単なる「朝日批判の開陳」に終わった。

 だが、木村社長を追い詰めるチャンスはあったのだ。
 池上彰の寄稿を掲載しようとした現場の判断を上層部がひっくり返した・・・・と社長が認めた時だ。
 「私は感想を述べただけ。杉浦編集担当に判断を任せた」
 会見のハイライトはここだった。だが、200人もいた記者のうち、 
 「あなたはどんな感想を述べたのですか」
と社長に問いただす者は1人もいなかった。
 「杉浦編集担当、感想をどう受け取りましたか」
 「木村社長、任せたというなら報告はいつ受けたのですか」
 「報告を受けたとき、それでいいと言ったのですか」
と問い詰めれば、「責任は編集担当」と逃げる社長の言い訳を突き崩せただろう。
 
 朝日新聞社長が責任をとるとしたら、「寄稿不掲載」の1件だ。あの状況で社長が、「知らなかった」とか、「判断に関与してない」とか、あり得ない。
 編集担当とのやり取りをきっちり詰めるのが会見に臨んだ記者の仕事だろう。読売や産経では、上層部の判断で現場の決定が覆ることはニュースにならないのか。

 日ごろの仕事ぶりが、こうした場面に現れる。
 首相会見などにおいて、多くの記者は黙ったまま、パソコンのキーボードの音だけがパシャパシャ鳴る。追求型の質問は、ほぼ皆無だ。
 官庁の記者クラブもそうだ。会見で食い下がるのは朝日の記者であることが多い。

 ジャーナリズムの職務の一つは、権力の監視だ。
 ところが、記者たちは、情報を得る権力者が相手だとおとなしい。かたや、頭を下げる相手には居丈高になる。
 なんとも悲しい光景だ。

 【注】「【原発】朝日叩きに走る各紙が過去に飛ばした「大誤報」

□神保太郎「メディア批評第83回」(「世界」2014年11月号)の「(1)「叩く」ほど、信頼失う活字メディア」
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【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~

2014年10月15日 | ●佐藤優
 9月22日、米軍はシリア領内の「イスラム国」の拠点に対する空爆を開始した。
 攻撃には、イスラム教国であるサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、ヨルダン、バーレーンが有志連合として加わった。宗教戦争、文明間戦争になることを避けるために。

 今回の空爆は、厳密には国際法違反だ。国連安保理決議はないし、シリア政府の要請ないし同意もない。米国による一方的攻撃だからだ。
 しかし、「イスラム国」の掃討には国連加盟国の圧倒的多数が賛成している。国連も国際社会も、米国の行動を追認している。
 英国、仏国、オーストラリア、オランダ、デンマーク、ベルギーも空爆に参加し、トルコも有志連合に加わる意向を表明した。
 米国も、「イスラム国」空爆に関して、シリアとイランに事前通報した。・・・・シリアは、米国による主権侵害に抗議していない。イランも米国を名指しで非難することを避けた。

 米国は、地上戦には参加しない意向を表明している。
  ①イラクでは、正規軍を強化し、
  ②シリアでは、反政府武装勢力を支援することで、
「イスラム国」を掃討しようとしている。
 しかし、この手法では効果は期待できない。
 イラク軍のシーア派兵士は、宗派を同じくするイランに共感を持っている。イランも多数の軍事顧問をイラクに派遣している。
 米国がイラク軍に本格的な梃子入れをするためには、イランとの関係改善が不可欠だ。
 しかし、オバマ政権にそこまで踏み込む腹はない。なぜなら、イランが核開発を断念する可能性がないからだ。

 シリアの反政府勢力は、軍規が乱れ、虐殺、暴行、略奪を繰り返す危険な集団だ。反政府勢力の主敵はアサド政権なので、米国が軍事的な梃子入れをすると、「イスラム国」よりもアサド政権との戦いに執心する可能性がある。
 いまアサド政権が崩壊すると、シリアのみならずレバノンにも権力の空白が生じる。「イスラム国」が策動する余地が広がる。
 米国は再び中東の泥沼に足を踏み入れつつある。

 安倍政権は、7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」で憲法解釈を変更し、集団的自衛権行使の限定的容認に踏み切った。
 しかし、日本は「イスラム国」に対する米国の空爆を支持するが、協力は非軍事的分野に限定している。後方支援で自衛隊を派遣することも考えていない。派遣すると世論調査の支持率が低下することを恐れているので、非軍事分野での協力に限定しているのだろう。
 中東の危機には極力関与したくない、という安倍政権の孤立主義的傾向が浮き彫りになった。

□佐藤優「国際情勢の変化に対応できない安倍政権 ~佐藤優の飛耳長目 第100回~」(「週金曜日」2014年10月10日号)
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 【参考】
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~


【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~

2014年10月14日 | ●佐藤優
 9月に国際情勢が大きく変化した。特に、次の二点(相互に密接に関係する)によって国際政治の与件が変化した。
  (1)ロシアが、ウクライナ問題で事実上勝利した。
  (2)米国が、「イスラム国」(シリアの一部地域を実効支配するイスラム教スンニー派武装組織)の拠点に対して空爆を行った。

 9月5日、ミンスク(ベラルーシの首都)で、ウクライナ中央政府と、同国東部を実効支配する親露派が停戦協定に合意した(協定内容は非公表)。
 同月16日、ウクライナ最高会議が、東部のドネツク、ルガンスクの一部地域に自治権を付与する決議(3年間の期限付き)を採択した。
 <【モスクワ=遠藤良介】ウクライナ東部の紛争をめぐり、同国最高会議(議会、定数450)は16日、東部ドネツク、ルガンスク両州の特定地域に、3年間に限って大幅な自治権を付与する法案を賛成多数で可決した。独自の「民警」を持つ権限を与えるほか、12月7日に地方首長や議会の選挙を行うことなどを定めている。同国政権と親露派武装勢力の和平合意に盛り込まれていた東部の「特別な地位」を具体化するもので、親露派が受け入れるかが当面の焦点となる。
 法案には他に、(1)地元検察と裁判所の人事への関与(2)ロシア語を使用する権利の尊重(3)ロシアの自治体との関係強化(4)復興に向けた特別措置の導入-といった内容が盛り込まれた。適用範囲となる「特定地域」は2州の州都など親露派の支配領域を指すとみられる。法案には277議員が賛成し、大統領の署名を経て近く発効する見通しだ。
 ポロシェンコ氏は、法案の定めた3年間で懸案の地方分権改革を進め、東部情勢の長期的な正常化につなげたい考えだ。ただ、親露派の幹部はあくまでも東部の「独立」を追求する構えを崩しておらず、現状が固定化される懸念も強い。>【9月17日付けMSN産経ニュース】

 この法案は、停戦協定に基づいて採択された。
 親露派は、ドネツク、ルガンスク両州で自らが実効支配している地域のみではなく、両州全域を「特定地域」とすることを主張している。しかし、この点は親露派が譲歩する形で軟着陸することになるだろう。
 「特定地域」で、12月7日に首長と議会の選挙が行われ、民意を反映した自治政府が組織される。自治政府は、民警(ウクライナ中央政府の指揮命令系統に従わない独自の警察)を組織し、検察および裁判所の人事に関与し、ロシア語を尊重する政策等を実施する。・・・・これは、「特定地域」に準国家が誕生することを意味する。

 8月26日、ミンスクで、プーチン・ロシア大統領とポロシェンコ・ウクライナ大統領が会談した。その時点で、次の秘密合意が得られていたのだろう。
 「ロシアはウクライナの連邦化という要求を取り下げるが、ウクライナは親露派が実効支配する地域については事実上の連邦化を実施する」
  
 客観的に見れば、プーチンの勝利だ。
 法案は自治権の期間を3年に限定しているが、この間に「特定地域」では親露派のエリートが統治能力を強化するから、今後キエフの中央政府が巻き返すのは難しい。ロシア語を常用する住民が多数派を占め、ポロシェンコ政権に対する反発の強い他の東部、南部の動きが強まり、ウクライナ中央政府は譲歩を余儀なくされるだろう。
 米国は、イラクとシリアで拡大する「イスラム国」の動きを封じ込めることで手一杯だ。だから、ウクライナ問題に本格的に関与することはできない。・・・・と分析し、プーチンはポロシェンコに圧力を加えたのだろう。
 ロシアの、ウクライナに対する外交攻勢、インテリジェンス工作を米国は傍観するしかなかった。

 安倍政権は、この機会を最大限に利用し、日露の政治対話を強化するとよい。具体的には、11月に北京で開催されるAPECでの日露首脳会談でプーチン大統領の公式訪日日程に係る合意を図るとよい。米露の不信感が高まっている情況の中、ウクライナ情勢を沈静化させ、「イスラム国」対策について日本が仲介者となることで、米露が不必要な対立を起こさないで済むからだ。
 しかし、現在の安倍政権、外務省には千載一遇の機会を活用する積極外交の徴候はみられない。

□佐藤優「国際情勢の変化に対応できない安倍政権 ~佐藤優の飛耳長目 第100回~」(「週金曜日」2014年10月10日号)
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 【参考】
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【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~



【食】もっと手間と費用をかけるべし ~輸入食品の検査体制~

2014年10月13日 | 生活
 今年7月、モニタリング検査で、中国産の生鮮タマネギから、基準値超のチアメトキサム(農薬)が検出された。
 二度、基準値を超えたので、8月8日に検査命令(全ロット検査)が出された。

 チアメトキサムは、EUが昨年全面的に使用・販売を禁止したネオニコチノイド系農薬3種類のうちの一つだ。世界各地で発生しているミツバチ大量減少の原因ではないか、と推定したからだ。
 日本や米国などでは、因果関係が特定されていない、として規制されていない。

 日本では、野菜には幅広く使われているが、タマネギには登録されていない農薬だ。よって、タマネギの残留基準値は0.01ppmだ。ちなみに、
  ほうれん草・・・・10ppm
  小松菜・・・・5ppm
  レタス・・・・3ppm
 今回検出された量は0.07ppmと0.03ppmなので、直ちに健康に大きな影響があるわけではない。

 問題はしかし、検査命令が実施された8月、中国産生鮮タマネギから、1か月間で17回も違反品が出たことだ。もっともい値は0.06ppmだったので、大幅な基準値超えではなかったが、検査命令になった途端に大量の違反品が見つかった。
 日本ではタマネギに使えないことは、中国側も百も承知だ。
 昨年は、届け出件数10,299件中123件についてチアメトキサムの残留農薬検査を行ったが、違反件数は0だった。
 これは何を意味するか。
 原因が特定できているのは、7、8月の19件のうち1件で、「隣接したサツマイモ畑からのドリフト(飛散)による汚染」だという。
 ドリフト汚染でこんなに大量のタマネギが汚染されるだろうか。仮にドリフト汚染のせいなら、昨年1件も違反がなかったことが不思議だ。

 日本に輸出する食品は、中国側でも検査している。その検査体制にも問題はあるが、日本の検査体制にも根本的な問題があるのではないか。
 モニタリング検査は、届け出のあった総件数の7~8%(検査命令などを含めれば10%)程度を抜き取って検査するにすぎない。
 届け出の件数についての話で、総量に係る話ではない。<例>1件の届け出(届出書類)が1,000箱の10トンだったとしても、そのうち1~2箱から500gか1kgを抜き取って検査するだけだ。
 10トンのうち1kgでは、重量換算すると、1万分の1の検査量にしかならない。しかも、残りの約93%はまったく検査されない。数量からすると、ほとんど検査していないことになる。
 これではすり抜ける違反品が多くても当然だ。

 アイスランド産ベトナム加工の子持ちシシャモに汚物や殺鼠剤が混入していた事件は、箱さえ開ければ簡単に見つかっていた。
 いかに検査されていないかの証明だ。

 検査命令になれば全ロットの検査になるが、1ロットが10トンであれば、その1kg程度しか検査されない。
 それでも格段に検査数量は増える。

 根本的な解決は、政府が食の安全にどれだけの予算を投入するかだ。
 中国製毒ギョーザ事件の時には検査体制にもっと金をかけろ、という声もあったが、今は公共工事優先で、本当に食の安全に関心があるのか、疑問だ。
 国民の命・財産を守るのが国の責任だ。
 せめて今の2倍程度の予算を食の安全に投入すべきだ。  

□垣田達哉(消費者問題研究所代表)「もっと手間とお金をかけるべき 輸入食品の検査体制」(「週刊金曜日」2014年9月19日号)
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【食】やはり添加物が多い市販品 ~栗甘露煮~

2014年10月12日 | 生活
 栗甘露煮は、「栗含ませ」とも呼ばれる栗の甘煮だ。
 鬼皮と渋皮を剥き(これが大変)、やわらかく茹でた後、薄みつから徐々に濃いみつで煮含めて作る。
 お節料理に欠かせない栗きんとんの、不可欠の食材だ。この時期、スーパーの「栗甘露煮」は心もち威風堂々としている。

 手間を惜しまなければ、「新鮮な栗と砂糖」のみで作ることができる。
 他方、各メーカー(例:加藤産業「カンピー 栗甘露煮」、リリーコーポレーション<三菱食品>「リリー 栗甘露煮」、国分「K&K 栗甘露煮」)の原材料を見ると、
 (1)酸化防止剤
 (2)漂白剤
 (3)クチナシ色素
などの添加物使用が一般的となる。

 (1)酸化防止剤
 酸化現象による食品の変質を予防し、品質の安定性を向上させるために使用される添加物だ。
 ビタミンCは、自身が酸化されることによって食品への酸化防止に働く。ビタミンといっても、酸化防止で添加されるビタミンCには栄養的な価値はない。過剰摂取による嘔吐や下痢などが報告されている。
 同様に酸化防止の目的で添加されるEDTA-Ca・Naは、使用が認められるのは缶詰と瓶詰の加工食品だけだ。催奇形性、胃腸障害、カルシウム不足などを引き起こし、他の化学物質の吸収を促進する働きを持つことから、複合的な毒性が懸念されている成分だ。

 (2)漂白剤
 着色物質を無色にするために使用される添加物だ。
 最終段階で、食品に残存しない場合は加工助剤とされ、表示義務はない。しかし、残存する場合は用途名と物質名を併記しなければならない(義務)。
 亜硫酸塩は、抗菌や漂白に強い効果を持ち、酸化や変色防止にも働く化学物質だ。次亜硫酸Naやピロ亜硫酸Kなど5種類あり、種類によっては遺伝毒性や発癌性が指摘されている。しかし、表記は亜硫酸塩で可とされているため、その表記からはどの種類の成分が使用されているか(その危険性はどうなのか)を知ることはできない。

 (3)クチナシ色素
 漂白剤で色を抜いた栗は、今度はクチナシ色素で鮮やかにして均一の黄色に着色される。
 漂白剤で色を抜いて白くすることで、その後の着色がきれいに仕上がるため、漂白と着色とがセットで行われるのが一般的だ。

 さらに、市販の栗甘露煮は、皮を剥いた剥き栗が使用される。あくを抜き、煮崩れを防ぐため、製造されるまでミョウバン水に浸けて保管されるのが一般的だ。
 ミョウバンは、硫酸アルミニウムと硫酸カリウムの結合物だ。古くからナスの漬け物の色付けなどに利用されてきた添加物だ。しかし、近年、含有されるアルミニウムの強い急性毒性が指摘されている物質だ。

 手作りが無理なら、せめて原材料が「栗と砂糖」だけのシンプルなものを選んで購入しよう。
 栗=黄色という消費者の思い込みが、漂白剤や着色剤などの添加物容認につながっている。
 食品の生活な知識を持つことなくして、食の安全は成り立たない。

□沢木みずほ(薬食フードライフ研究家)「季節到来!の「栗甘露煮」。市販品はやっぱり添加物が多い」(「週刊金曜日」2014年10月3日号)
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【労働】事業場にストレスチェックを義務づけ ~労働安全衛生法の改正~

2014年10月11日 | 社会
 2014年6月19日、改正労働安全衛生法が国会で可決された(成立した)。2000年以降、職場のストレス問題が深刻化し、自殺者数の増加が社会問題になったことを受け、2001年から議論されていたものだ。

 改正のポイントは二つ。
 (1)年1回の労働者のストレスチェックを事業場に対して義務付ける。ただし、従業員50人未満の事業場については、当面は努力義務。
 (2)ストレスチェックの結果を労働者に通知し、従業員が希望した場合、医師による面接指導を実施し、結果を保存する。あるいは就業上の措置を講じる。<例>残業の制限、深夜勤務の削減、配置転換などにようr負担軽減、etc.。精神障害に罹患する前の「予防」的な意味合いが強い。
 しかし、人事部に結果を知られて不利益を被ることを恐れる従業員側が、受診に二の足を踏むケースも少なくない。
 また、大企業でなければ体制を構築するのは容易ではない。
 そこで、アドバンテッジ・リスク・マネジメント(企業向けメンタルヘルス事業で国内トップ)は、人事部を通さずに従業員が相談できる窓口の提供から、従業員へのアフターケアまで、円滑に実施できるサービスを提供している。
 
 ストレスチェック義務化まで踏み込んだ背景には、精神障害による労災の急増がある。
 労災申請は右肩上がりで増え、年間1,400件に迫る勢いだ。
 そして、このうち実に3~4割が業務上の労災と認めれている。
 精神障害は、外見的に判断がつきにくいため、申し出さえあれば診断書を書く医師はいくらでもいる。また、精神障害を専門にしている産業医が少なく、従業員に言われるがままの状態であることが背景にある。【精神障害に詳しい専門家/医師】
 労災の認定も手がける労働基準監督署も、医学的な識見があるわけではなく、医師の診断書があれば基本的に労災を認める方向であるため、労災は年々増えている。【専門家】

 労働基準監督署も、法律が改正された以上、ストレスチェックを実施した「結果」を残したいはずだ。認める労災が増えるかもしれない。・・・・とみている関係者もいる。

 もしも、労災が急増すれば、企業側の業務に支障をきたしかねない。
 そうした事態を避けるためには、精神障害専門の産業医を確保し、会社の方針と擦り合わせた上で従業員への指導にあたるしかない。【専門家】

□Column「労働基準監督署は見ている! メンタルヘルス労災の衝撃」(「週刊ダイヤモンド」2014年10月11日号)
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【禅】只管打座

2014年10月10日 | 心理
 【入宋当初】若き道元は、夏六月のひるさがり、炎天の下で笠もつけず、全身の汗を拭おうともしないで、ひたすら仏殿のまえで苔を晒している老僧ににたずねる。

 道元、「お幾つになられる」
 典座、「六十八歳」
 道元、「どうして助手をお使いにならぬ」
 典座、「かれは俺でない」
 道元、「あなたは生真面目すぎる。日ざしもこんなにきびしい。何でそんなに働きなさる」
 典座、「いったい、何時を待てばよいのです」

 道元は、返す言葉に窮する。禅は我が身に行ずるのである。他の人に代わることはできない。今を措いて、先におくることもできない。若いときに一度手に入れておけば、終生遊んで暮らせる株券ではない。
 さらに道元はもう一人の老典座と出会う。この人もまた大衆に食を供するために、おのが身を粉にしていた。

 道元、「そのお年で、どうして座禅弁道せず、古人の話頭を研究せず、わざわざ典座となって、労働ばかりなさるのです。どんなよいことがあるのです」
 典座は大笑した。「お人好しの外国の学生さん、君はまだ弁道を知らん、まだ学問を心得ぬわい」

 道元は、ふたたび絶句する。そして、真の弁道と真の文字を学ぶ。弁道とは、おのが身に仏道を行ずることであり、自己を忘れることである。忘れたおのが身に、おのずから古人の話頭も文字も生きかえる。只管打座とは、もっとも偉大な文字であり、知識であった。

□柳田聖山「禅の歴史と語録」(『禅語録』(中央公論社、1974)冒頭解説)から引用。ただし、冒頭の【 】内は引用者が補足。
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【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~

2014年10月10日 | ●佐藤優
 9月27日、国連総会(於ニューヨーク)の一般討論で、ラブロフ・ロシア外相が、米国の外交政策を激しく非難する演説を行った。
 <ラブロフ氏は「ワシントンは自らの権益のためなら一方的な武力行使の権利を公然と主張し、軍事介入も当たり前になっているが、結果は散々だ」とこき下ろした。
 現在のウクライナを「(欧米の)傲慢な政策の被害者」と指摘。シリアの合意を得ずに実施した空爆も「シリア政府と協力して進めるべきだ」と強調した。>【2014年9月28日付け「共同通信」】

 イスラム教スンニー派原理主義過激組織「イスラム国(IS)」(シリアとイラクの一部地域を占拠している)の脅威をロシアも強く認識している。9月22日から米軍がシリア領内のIS拠点を空爆したことは、ロシアの国益にも合致している。だから、空爆自体ではなく、米国がシリアと協力しなかった点を、ラブロフは非難している。
 これは、難癖だ。
 米国は、今回の空爆をシリアに事前通告している。敵対国であるシリアに対して、米国は最大限の配慮をしている・・・・ことをラブロフは敢えて無視している。
 その理由は、ウクライナに対する米国の政策に、ロシアが本気で腹を立てているからだ。
 9月29日、「ロシアの声」(ロシア国営ラジオ)は、ラブロフの見解について次のように伝えた。
 < 「米国は、少なくともウクライナ問題において、公式の声明を作成するにあたって、未検証の事実か、あるいは公然たる捏造か、必ずどちらかに立脚している。そうした事実は数多くある。それを意識してやる人もあれば、単に昇進のためにインターネットで見つけた情報を美しいスピーチをこしらえ上げる人もいる。嘆かわしい」
 今度のウクライナ問題で、西側諸国はウクライナ政治の不安定性を自らの打算的利害のために利用しようとしている。NATOはウクライナ危機を利用して空前絶後のスピード対応でロシアに対して全く許容不可能な、根拠のない非難を繰り出し、ロシアとの厳しい対立状況を作り出した。ラヴロフ外相は言う。このような状況は、米国のジョン・ケリー国務大臣や、ドイツやフランスの外務大臣も、あまり良く思っていないであろう。「しかし彼らはもう、全てにおいて悪いのはロシアである、という既定の路線から撤退できないのだ」。
 ロシアは傷つけあうことを望まない。制裁合戦を望まない。ラヴロフ外相は言う。国際問題は集団的な努力によってしか解決され得ず、集団的な努力こそが最も効率的かつ最も急速な経済発展の道である、ということが、客観的な傾向としてある。>【注】

 ラブロフのこうした発言は、ウクライナ紛争でロシアが勝利したという認識があるからだ。
 9月5日、ベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナ政府と親露派(同国東部を実行支配する)が停戦協定に署名した。
 停戦協定の内容は公表されていない。
 9月16日、ウクライナ最高会議は、停戦協定を踏まえて、次の事項を賛成多数で採択した。
  (1)東部のルガンスク、ドネツクの2州に独自の警察を持つこと。
  (2)12月7日に首長と議会の選挙を実施すること。
  (3)「特定地域」(親露派が実行支配する地域)における地元の検察と裁判所の人事への関与。
  (4)ロシア語を使用する権利の尊重。
 これで親露派地域は準国家の地域持ち、プーチン大統領が主張していたウクライナの連邦化が実現することになる。
 ラブロフは、「そろそろ現実を認めて手打ちをしよう」と米国に呼びかけているのだ。

 【注】記事「ラヴロフ外相:モスクワは善意で満ちている
(「ロシアの声」 9月 29日)

□佐藤優「ロシアはウクライナで「勝った」のか ~佐藤優の人間観察 第84回~」(「週刊現代」2014年10月18日号)
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 【参考】
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
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【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~

【原発】電力会社と自民党のカネまみれ ~21億円超~

2014年10月09日 | 震災・原発事故
 「一般財団法人国民政治協会」(会長:塩川正十郎)は、自民党の政治資金団体だ。
 年間収入19億8,200万円(2012年)。その大半は企業からの献金だ。自民党最大の集金マシンだ。

 原発を持つ主要電力9社による国民政治協会への献金は、過去35年間(1977年から2012年まで)で24億1,186万8,000円にも上る(③)。<例>最少でも北海道電力の1億5,499万5,000円、最多で東京電力の3億5,914万円。
 献金は、電力会社名義ではなくても、子会社・関連会社・孫会社の名義や、役員・元役員の名義で行われている。
 子会社などの献金は、計17億7,354万2,000円。・・・・①
 役員献金は、計6億3,832万6,000円(延べ5,362人、実数1,472人。ただし、1995年以降の集計)に上る。・・・・②
   ①+②=24億1,186万8,000円・・・・③
 15年間(1995年から2010年まで)だけでも、21億6,157万9,000円。
 実際にはもっと多いかもしれない。官報は5万円以下の献金を省略しているからだ。

 電力会社は、1974年に「政治献金自粛」という方針を打ち出した。
 ところが、子会社名義・役員の献金という「ステルス式」で自民党に多額の献金を行っていたわけだ。献金の原資が電気料金や工事費であることは言うまでもない。
 年ごとの献金額は、
  1977年から1994年まで・・・・毎年数百万円から一千万円ほど。
  1995年・・・・8,000万円に激増。
  1996年から2010年まで・・・・毎年1億数千万円。
 役員献金の総額は、毎年3,000万円から4,000万円と一定している(興味深い)。多い社員で年間30万円、少ない社員で3万円程度。会社の関与があった疑いは濃厚だ。経済産業省から天下った官僚も18人が計1,706万8,000円を献金している。
 一人の役員が5年以上にわたって連続献金する例は珍しくない。会長経験クラスは軒並み11年から17年間にわたり300万円超を献金している。<例>荒木浩・元東京電力会長/三井住友銀行監査役373万円(16年間)、勝俣恒久・元東京電力会長/防衛大綱有識者会議座長364万円(14年間)、南直哉・元東京電力社長/フジテレビ監査役342万円(17年間)、鎌田迪貞・元九州電力会長424万円(16年間)。

 関連会社・役員を使った「ステルス献金」は、安倍晋三・首相が代表を務める政党支部や政治団体に対しても行われている。
 <例1>「自由民主党山口県支部第四選挙区支部」(下関市、安倍晋三・支部長)・・・・2000年から2012年にかけて、関西電力最大の子会社「きんでん」から12回、計144万円の献金が行われている。「きんでん」は、過去に談合や税の申告漏れが指摘された問題企業だ。「きんでん」はまた、安部の資金管理団体「晋和会」にも1995年から1999年にかけて計48万円を献金している。
 <例2>「第四選挙区支部」に対する役員献金は、2010年と11年に中国電力の、苅田知英・社長と山下隆・取締役からそれぞれ計6万円、福田督・取締役と岩崎恭久・取締役からそれぞれ3万円、合計18万円の献金が確認できる。山口県報には5万円以下の献金が収録されていないので、2009年以前の献金は確認できないが、役員献金が行われた可能性は否定できない。
 中国電力は、上関原発と島根原発3号機の建設・稼働に躍起になっている会社だ。苅田社長らは、国民政治協会への常連献金者だ。山下取締役の296万5,000円を筆頭に、合わせて800万円を「納金」している。
 <例3>「第四選挙区支部」に対して、原発で利益を上げる企業からの献金もある。「株式会社三興」は、島根原発や浜岡原発内に子会社の事務所を構える原発企業で、2000年以降13年間、年50万円の献金を続けている。
 安部関連団体への電力系献金は、計210万円。原発企業「三興」の分を含めると860万円だ。

 これらの献金のほかに、パーティ券購入やヤミ献金の疑いもある。
 業界からカネをもらって強引に原発ビジネスを進める安部政権は、まさに「賄賂」まみれの金満中毒政権だ。  

□三宅勝久(ジャーナリスト)「電力会社と自民党のカネまみれ 過去15年間で21億円超 役員・子会社経由で多額の政治献金」(「週刊金曜日」2014年10月3日号)
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【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~

2014年10月08日 | 社会
 (1)御嶽山の水蒸気噴火で多数の死者が出た。
 気象庁は、今回は明確な前兆が観測されていなくて予知は困難だった、と言う。しかし、その言葉を鵜呑みにしてはならない。

 (2)注目すべき事実がある。
  (a)山頂に一番近い長野県の地震計が壊れたまま1年以上放置されていた。 
  (b)9月中旬に山頂付近で火山性の地震がかなりの数、観測されていたことが報道されているが、実はそのような現象は非常に珍しく、少なくともその時点で登山者などには周知徹底しておくべきだった。この情報は火山学者の間で共有されていたが、一般の登山者には知らされていなかった。【長尾年恭・東海大学地震予知研究センター長】
  (c)気象庁によれば噴火の10分ほど前から火山性微動が続いていたのだが、これも山小屋などには伝えられなかった。【同】

 (3)疑問。
 9月中旬に異常【(2)-(b)】が見られたときに、何故周知徹底しなかったのか。
  (a)御嶽山の観光サイトに関係機関のデータをリアルタイムでリンクして、一般の登山者に提供することなど簡単なことだ。
  (b)さらに言えば、火山性微動が増加した時点で、緊急地震速報のように「緊急噴火情報」を山頂付近の登山客に届ける仕組みなども全国で整備しようと思えば技術的には十分に可能だ。
 周知徹底、①や②を阻んだ理由として、噴火情報を流すと登山客が減少して地元経済に悪影響がある、という経済優先の考え方が挙げられる。

 (4)しかし、そこにはいっそう歪んだ原因がある。
  (a)噴火や地震の予知対策がハード偏重になっている。全国に110の活火山があり、特に観測監視体制を強化しているものだけでも47もある。御嶽山はその一つにすぎないが、その山頂付近だけで12の地震計が設置されている。
  (b)気象庁には気象の専門家はいても、火山の専門家は非常に少ない。今回のような異常データが入っても十分な分析をしている余裕も能力もない。
  (c)もし十分な数の火山の専門家がいれば、少なくとも、異常な地震があった事実は周知徹底していたはずだ。観測機器ばかり増やして、データ解析などの人員と維持管理経費は十分に増やさなかったことが命取りになった・・・・事実、10月7日までに、御嶽山は54人の命を奪ったことが判明した【注】。

 (5)(4)の歪んだ原因には、政治家の都合、官僚と学者の利権がある。
  (a)計測機器を増やすことは、災害対策のアリバイ作りとしてわかりやすい(政治家に都合が良い)。
  (b)「地震・火山ムラ」の官僚や学者は、計測機器メーカーと癒着している。官僚は天下り確保のため、学者は研究費の寄付や学生の就職などのために、メーカーからの機器購入を優先する。

 (6)(4)に加えてもう一つ、原因がある。縦割り行政だ。12の地震計【(4)-(a)】は、気象庁、長野・岐阜両県、名古屋大学、防災科学技術研究所などが設置したものだ。
 これらを一つの機関に集約し、専門家も集めることができれば、国土交通省、文部科学省、総務省などの予算が一本化され、効率化されるし、責任体制も明確になるはずだ。
 しかし、予算と権限の縮小に反対する官僚の抵抗で、そんなことはできない。その結果、「機器の故障は放置、データ利用はバラバラ、市民に重要な情報が伝わらない」という現状を生み出した。
  (a)「地震・火山ムラ」のハード予算獲得運動を峻拒し、
  (b)ソフト面の予算を充実させ、
  (c)地震・噴火の予知と情報提供に一元的に責任を持つ機関を作る抜本策を目指すべきだ。

 【注】「御嶽山3人死亡確認 死者54人に」(NHK NEWSWeb 10月7日 16時35分)

□古賀茂明「御嶽山と「地震・火山ムラ」 ~官々愕々第126回~」(「週刊現代」2014年10月18日号)
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 【参考】
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~

【沖縄】知事選、混乱のきわみ ~最大の争点は辺野古~

2014年10月07日 | 社会
 沖縄県知事選挙(11月16日)では、「米軍普天間飛行場」の移設に伴う「辺野古地区への新基地建設」の可否が最大の争点・・・・とされている。

 現時点で立候補を表明したのは、4人。
 (1)仲井真弘多(なかいま ひろかず、現職)
 (2)翁長雄志(おなが たけし、那覇市長)
 (3)下地幹郎(しもじ みきお、元郵政民営化担当大臣)
 (4)喜納昌吉(きな しょうきち、民主党沖縄県連代表)

 (1)は、「辺野古推進を公約に明記して選挙戦を行う」と、選対関係者が明らかにしている。
 (2)は、「(昨年12月の)現知事の承認は公約違反」であり、「辺野古に新基地はつくらせない」として出馬表明した。
 (3)は、「県知事選後、半年以内に県民投票を行い、知事としてその結果を尊重する」と語る。
 (4)は、「現知事の承認撤回を実行する」と言う。

 9月26日付け「沖縄タイムス」社説は、「なんでそうなったのか」と題し、混沌たる現状を批判して、次のように記事を結んだ。<知事の政策、方針転換などが、日米の取り組みに影響を与え状況を変えていった。(中略)選挙で選ばれた知事の力は決して小さくない。>

 最新の世論調査やマスコミ各社の取材を総合すると、それぞれの得票数の予想は次のとおり。
 (1)は、30万票余り。
 (2)は、17万票。
 (3)は、中小の建設業界を手堅くまとめ、6万票。
 (4)は、1万票以下の泡沫。
 新基地建設に対する県民の反発は強い。政府・自民党にとって厳しい選挙戦になることが見込まれる。

 さらに、自民党に追い打ちをかけるのが那覇市長選挙だ。
 この選挙は、翁長・現市長が県知事選に出馬するため、知事選と同じ日に実施される。
 自民党沖縄県連は、本部と慎重に選定してきたが、有力候補だった翁長政俊氏が「自民系市議からの支援が得られない」と出馬を固辞した。
 翁長・現市長側の後継としては、城間幹子・現副市長が出馬を表明している。

□本誌取材班「混乱きわめる沖縄知事選 最大の争点は辺野古」(「週刊金曜日」2014年10月3日号)
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 【参考】
【佐藤優】名護市議選で辺野古反対が勝利 ~対決姿勢強める沖縄~
【佐藤優】沖縄に対する侮辱 ~マグルビー在沖米総領事発言~
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【竹富町教科書問題】法改定で単独採択可能に ~予断を許さず~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【片山善博】文部科学省の愚と憲法違反 ~竹富町教科書問題~
【佐藤優】「民族問題」と化した辺野古移設強行 ~構造的沖縄差別~
【佐藤優】沖縄をネズミと見なす中央政府への激しい異議 ~自民党の強権発動~
【政治】自民党パワー・エリートが中、韓、沖縄と問題を起こす ~麻生ナチス発言~

【政治】安部政権の危機管理能力の低さ ~土砂災害・火山噴火~

2014年10月06日 | 社会
 土井たか子(1928年11月30日-2014年9月20日)、享年85は、気取りがなくさっぱりした性格。「明治の女性」をほうふつさせる気丈さを併せ持つ、あっぱれな人生だった。
 安倍晋三・首相が推進する「女性の活躍」を四半世紀以上も前に実現した先駆者だった。中でもハイライトは1989年の参院選で自民党を完膚なきまでたたきのめしたことだ。このときから日本政治の「衆参ねじれ国会」が始まった。
 「山が動いた」「やるっきゃない」の土井語録の数々が、土井の歯切れのよい政治スタイルを象徴する。さらに、もう一つ後生に残すべき土井語録がある。
 「売上税のうの字もない」
 1986年、衆参同日選挙で圧勝した中曽根康弘が、翌1987年の通常国会の施政方針演説に臨んだ。この演説では全く言及しなかった「売上税」を創設する法案を中曽根が、突如、国会に提出した。そこに土井がかみついたのだ。
 土井の迫力は凄まじく、参院の岩手補選では自民党公認候補は敗北。さらに衆院での牛歩戦術を駆使した社会党の抵抗で、法案は葬り去られた。この圧倒的な発信力が、1989年参院選のマドンナ・ブームを引き起こすことになる。 
 むろん、土井の影響力を支えたのは、卓抜な表現力、力強く巧みな演説力にあったのは言うまでもないが、何よりも土井の言葉には魂がこもっていた。国民が素朴に抱いた気持ちをストレートにぶつけたのだ。

 土井の訃報が報道された翌29日、安部が内閣改造して初の国会だけに、安部が何を語り、野党がどう攻めるかに注目が集まった。しかし、論戦の低調ぶりは目を覆わしむるところがあった。
 理由は、安部の所信表明演説が、国民の歓心の高い問題をほとんど素通りしていたからだ。臨時国会の焦点は、消費税率来年10月からさらに2%引き上げて10%にするのかどうかの一点にあった。しかし、安部は所信表明で触れず、野党も及び腰の追求に終始した。

 消費増税はアベノミクスの成否に直結する。これを避けた論戦は意味がない。
 しかも、外国為替市場では急速な円安が進み、日本経済に深刻な影響を及ぼしている。とりわけ地方経済は生活を直撃されている。
 地方都市に住む人たちは、下駄代わりに使う自動車のガソリン代値上げ、円安に伴う原材料費高騰で赤字体質がますます加速する。安部の唱える「地方創生」は即効性がない。

 第二次安倍内閣は円高の是正から始まった。それが一気に円安に振れた。
 円安に絶対値はない。全てバランスの中で考える必要があるが、急激な円安に政府は友好な手を打たないままだ。【野田毅・自民党税制調査会長】
 かつて円安は輸出産業を中心に「神風」に近いものがあったが、長く続いた円高時代に労働力をはじめ、コストの低い国外への生産拠点の移転に伴い、いわゆる「Jカーブ効果」も有名無実となった。
 言うまでもなく、地方の疲弊は日本全体の疲弊につながる。

 さらに問題なのは、最近の日本全国で頻発する自然災害に対する政治の対応だ。
 8月、広島市で起きた大規模土砂災害・・・・政府の対応は、ちっとも臨機応変でなかった。被害が大きくなるにつれて投入する人数を増やしていく、という最悪の対応を行った。
 御嶽山の噴火も、似たような対応をしている。
 御嶽山の噴火については、気象庁が9月10日に食微動を捉えている。太田昭宏・国土交通相は、「あのときに工夫できなかったのか」と悔やむ。

 日本が直面する危機管理事項は3つ。
 (1)安全保障・・・・北朝鮮の核実験、ほか。米国家安全保障会議(NSC)が対応する。
 (2)国民の安全と健康・・・・鳥インフルエンザやテング熱。厚生労働省が中心となって対応する。
 (3)自然災害への備え・・・・自衛隊の投入を含む危機管理の司令塔が今もってハッキリしていない。
 御嶽で噴火が起きた直後、政府はこれほどの被害になるとは誰も想定していない。事実、最初の噴火が起きた9月27日の当日は、ヘリコプターの出動はなかった。国土交通省が最初に行ったのは、下山者が道に迷わないための投光器を設営することだった。
 ところが、翌日になって投入された救助隊が、山頂で見たのはおびただしい数の犠牲者だった。
 なぜ、噴火当日にヘリコプターを大量投入できなかったのか。
 地震、津波、台風、集中豪雨、火山噴火。
 日本国民は自然災害と背中合わせで生活せざるを得ない。自然災害に台頭するため常設の日本版「FEMA」(米連邦緊急事態管理庁)の設置が急務だ。
 「やるっきゃない」

□後藤謙次「低調を極める臨時国会の論戦 安部の演説は国民の関心素通り ~永田町ライブ 212~」(「週刊ダイヤモンド」2014年10月11日号)
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 【参考】
【政治】「地方創生」が実現する条件 ~石破-河村ラインの役割分担~
【政治】露骨な安倍政権へのすり寄り ~経団連が献金再開~
【政治】石原発言から透ける政権の慢心 ~制止役不在の危うさ~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【政治】「新党」結成目前の小沢一郎の前にたちはだかる難問
【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~
【政治】国会議員はヤジの質も落ちた






書評:『チェ・ゲバラ伝』

2014年10月05日 | ノンフィクション
 エルネスト・ゲバラは1928年アルゼンチンに生まれ、1967年ボリビアで政府軍と交戦中に負傷して俘虜となり、翌日射殺された。享年39歳。「チェ」は愛称である。
 没後33年、世界的に新しいゲバラ・ブームだそうで、本書の復刊もその余波だろう(底本は1974年刊の文春文庫である)。
 ゲバラが銃をとって闘った土地はキューバ、コンゴ、ボリビアである。いずれもゲバラにとっては外国だ。そして、志はキューバでは成就したが、他の二か国では挫折している。
 キューバにはカストロがいた。卓越した政治感覚の持ち主で、ゲリラ戦では政治的効果を計算して攻撃目標を選択し、国民に与える効果をねらって米国のジャーナリズムさえ利用した。これらにゲバラは当初異論を唱え、成果を見て後、自説を撤回している。古来戦さと政治は一体なのだが、政治的リアリスムはゲバラと縁が薄かったらしい。そして、バチスタ独裁政権下で人権無視と餓えに苦しむ農民は、カストロたちの反乱を支持した。
 他方、ゲバラが主役となったコンゴ、ボリビアでは、本書を読むかぎり、ゲリラを広く支持する農民(あるいは他の人民)の姿が見えてこない。本書のコンゴ時代を描いた補章に、ゲバラは失敗した理由を考えた、と書かれているが、考えた内容は書かれていない。言わずもがなということか。
 とはいえ、人間的な魅力にみちた人だったらしい。質素、勤勉、献身的で、率先して困難を引き受けた。キューバで権力を得て後も、公用車を私用に使わず、贈り物は自宅に持ち帰らず、要するに自己に厳しくて、ちっともラテン的でなかった。非常な読書家で、パブル・ネルーダを愛し、文才があった。三好徹は、その「澄んだ目」を繰り返し語るが、ゲバラとは政治的意見の異なる者にも三好の思い入れは十分に伝わってくる。

□三好徹『チェ・ゲバラ伝』(原書房、2001)
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【官僚】消費増税の裏で財務省が動く「利権温存」

2014年10月04日 | 社会
 安倍政権が、政府系金融機関・政策投資銀行の完全民営化を先送りにする・・・・という報道が出始めている。
 これは何を意味するか。
 鏡の奥に入りこむには、後退りすればよい。
 これまでの経緯をおさらいすれば、財務省の思惑が見えてくる。

 かつて政策金融改革が行われた。小泉純一郎政権下で。
 公的金融システムにおける
  (1)資金調達
  (2)資金運用
というコインの裏表を改革する、という内容だった。具体的な方針が示された。
  (1)’資金調達部門の郵政(郵貯と簡保)を完全に民営化する。
  (2)’資金運用部門の政府系金融もスリム化する。
   (a)日本政策投資銀行(政投銀)と商工中金は完全民営化する。
   (b)その他の各省ごとに存在していた政府系金融機関は、国際協力銀行(JBIC)を含めて日本政策金融公庫一つに統合する。 
 同時に、それぞれのトップは各省次官の天下り先になっていたものを民間人にすることとなった。

 しかし、民主党に政権交代すると、
  (1)’’ゆうちょ銀行とかんぽ生命の完全民営化が後退。事実上、再国有化。
  (2)’’政府系金融も完全民営化を見送り。2011年(東日本大震災)、再度延期。
   (a)日本政策投資銀行と商工中金・・・・当初は2015年10月までに政府保有株をすべて売却する予定だったが、見送り。

 要するに、民営化先送りは、今回で三度目だ。
 二度あることは三度あった。
 しかも、自民党への政権交代後、次の者が就任し、天下りも復活している。
   ①商工中金社長に杉山秀二・元経済産業次官。
   ②日本政策金融公庫相殺に細川興一・元財務次官。
   ③JBIC総裁に渡辺博史・元財務官

 官僚、とりわけ財務省がどうしても政投銀を手放したくない理由は、単純明快、天下り先の確保だ。
 財務省は、諸先輩の覚えがめでたくないと出世できない。事務次官も事務次官OBが推してくれるから就任できるわけだ。で、それら事務次官OBの関心事といえば、「どこに天下るか」。特に、政投銀とJBICは事務次官OBにとって気がかりな天下り先だった。

 政投銀とJBICは特別な天下り先だ。両者に「銀行」という名前がついていることからも分かる。
 他の政策金融機関は「公庫」などの名称だが、公的機関で「銀行」とは日本銀行と並んで格が高い。
 事実、政投銀とJBICには事務次官OBの中でも切れ者といわれる人が天下ってきた。
 小泉政権下、政投銀の完全民営化とJBICの統合が決定されると、「戦艦大和と武蔵を同時に失った」とささやかれたほどだ。

 そこで財務省は、
 まずは民主党政権下で、一つになっていた日本政策金融公庫からJBICを分離させるのに成功した。
 そして今、政投銀の完全民営化を撤回させれば、小泉政権下の悪夢から復権できる、という思いがあるのだ。

 むろん、こんな天下り機関がなくても、政策融資は、今の天下り先に投入している公的支援を民間金融に与えればできる。そのほうが、民業圧迫にならない。
 ただし、官僚は、自分たちの天下り先確保のためには、政府方針も簡単に葬り去る。
 そして、国民の生活を守るための「消費増税見送り」は頑としてやらない。
 身勝手が明治時代の着物を着て歩いているのが財務省である。

□ドクターZ「消費増税の裏で財務省が動く「利権温存」 ~ドクターZは知っている~」(「週刊現代」2014年10月11日号)
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【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず

2014年10月03日 | ●佐藤優
 スコットランド独立の是非を問う住民投票(9月18日)では、投票率84.6%で、
  ・反対 2,001,926票(55.25%)
  ・賛成 1,617,989票(44.65%)
 この結果、スコットランドは英国に残留することになった。

 <今回の住民投票では9月上旬の世論調査で独立賛成派が、反対派を初めて逆転した。その後、英キャメロン政権が、徴税や予算づくりなど国の根幹にかかわる分野でも、スコットランドへの権限移譲を検討する考えを示したことで流れが変わった。独立に傾いていた人の間でも「英国にとどまって自治権を拡大したほうが、経済的なリスクも少ない」との見方が強まった。
 スコットランド自治政府の首席大臣で、スコットランド民族党(SNP)党首でもあるサモンド氏は19日、敗北を認めて辞意を表明する一方で、「約束された権限移譲が迅速に進むことを期待している」とクギを刺した。キャメロン首相は同日、「人々の意見は聞き入れられた」と述べ、自治権拡大を進めるとともに、英国を構成する残りのイングランド、ウェールズ、北アイルランドの3地域へも権限移譲を進めることを提案した。>【注】

 【重要】独立に反対した人は2つのカテゴリーに分かれる。
 (1)「スコットランド人は英国人に完全にどうかした」と考えている人々。
 (2)「スコットランド人は独立を含む自己決定権を持つが、現状では英国に属したほうがいい」と考えている人々。
 要するに、「我々は自己決定権を持つ」と考えるスコットランド人が過半数に達した。

 英国政府は、より広汎な自治権を与える、とスコットランドに約束した。
 今後、次の問題などに係る協議が行われるが、妥協点はそう簡単には見出されないだろう。
 (a)北海油田から得られる税収。
 (b)スコットランドのみにある原子力潜水艦基地の移設。
 さらに、今回の住民投票において、英国政府のみならず、国政レベルの与野党すべてが独立に反対し、スコットランドに圧力をかけたことに対して、独立派だけでなく多くのスコットランド人が「我々は差別されている」という認識を抱いた。

 自治権拡大に係る協議で合意が達成されないと、スコットランドでは再び「独立の是非を問う住民投票を行うべきだ」という声が高まる。
 その時、英国政府は、スコットランドの要求を拒否するだろう。「同じ問題について再度住民投票を行う必要はない」と。
 拒否すると、英国とスコットランドの間に再び緊張が走る。

 スコットランドの独立運動は、地域主義であって、民族主義と一線を画している・・・・という見方は甘い。
 地域主義はいつでも民族主義に転化し得る。
  ①1707年まで独立国家を持っていたスコットランド人の歴史認識。
  ②自民族に対するプライド。
  ③②と表裏の関係にある思い・・・・「イングランド人に差別されてきた」。
 これら①~③を英国の圧倒的多数派(イングランド人)は理解できないのだ。
 キャメロン首相にとって、スコットランド問題は今後も頭痛の種だ。

 【注】記事「「スコットランド自治拡大」 英首相、他地域へも権限移譲表明 独立否決」(朝日新聞デジタル 2014年9月20日)

□佐藤優「スコットランド「独立運動」は終わっていない ~佐藤優の人間観察 第83回~」(「週刊現代」2014年10月11日号)
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 【参考】
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~