語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【メディア】現場主義が薄情な安倍政治をストップ ~「日本死ね!!!」(2)~

2016年05月05日 | 批評・思想
 (承前)

 (6)「日本」を指弾したブロガー。みんな驚いてその言葉に反応した。その状態を新聞、テレビが報じて量的拡大が加速した。
 次に、関心は最初に指さした書き手に向かった。それを受けて、国会の場で、ブログの言葉が現政権に投げかけられた。
 逃げる首相とヤジる議員たちに国民の目が注がれた。
  (a)東京新聞「こちら特報部」・・・・(2)-(c)フジテレビ(2月22日)、(e)テレ朝(2月26日)に続いて、3月2日、本人に取材した。
  (b)朝日新聞デジタル・・・・3月4日、「「保育園落ちた日本死ね!!!」匿名ブロガーに記者接触」という記事がアップされた。
 次々に同様のプロフィールが上書きされ、匿名女性の実在についてのダブルチェック、トリプルチェックが積み重ねられた。後追いは決して恥ずかしいことではなく、メディア間の自然な「共闘」が政権を追い詰める力となった。

 (7)かつてはスクープにはスクープで抜き返す、それがジャーナリストの勲章だった。
 しかし、ネット時代にはその感覚が変質した。皮肉なことに、政権によるメディア分断はあまり意味をなさなくなった。「電子民主主義」が誕生しつつあるのかもしれない。国家が悪政をなせば、主権者たる路上の市民がネットワークでつながり、ノーを突きつける。立憲・民主主義が意外なところから根づきはじめている。
 ちなみに、議場でヤジったアナクロ・マッチョ議員たちの多くは、国連の女性差別撤廃委員会からの勧告にも同様の反応を続けている。いまだに「慰安婦の強制連行を証明する資料はない」とズレた反論を繰り返し、人権感覚のなさをさらしている。
 目の前の「日本死ね!!!」のママたちの合唱に、彼らはカラ威張りしながら怯えているのだ。

 (8)3月4日のテレ朝「羽島慎一モーニングショー」が、国会でのヤジに対するママたちの批判の声を伝えた。
 いつのまにか投稿ネームは「保育園落ちたの私だ」に統一されていた。
 <やっと見つけた一時保育は時給より高い保育料。何の罰ゲーム?>
 <安倍さんの「匿名だから信憑性が低い」って聞いてがっかり>
 それを受けて、玉川徹コメンテーターが、
 <匿名だってヤジった議員は、まさか自分は匿名で済まないよね>
とカメラ目腺で挑発を行った。テレビ的な場面だ。

 (9)そして、3月5日、ついに国会のまわりに「保育園落ちたの私だ」と書いたプラカードを持ったママたちが姿を現した。なかには、「保育園落ちたのオレだ」と書いた紙を首から下げるバギーの乳幼児もいた。
 この1年、政治の貧困ゆえに国会正門が無名の人びとの言語空間になっていたのだ。ここに行けば、だれかしら語り合える相手がいる。

 (10)ここに至って、ようやくNHKが重い腰を上げた。なんと「つぶやきビッグデータ」から20日が経過していた。
 満を持しての報道か・・・・否、
 <自民、公明両党の幹部は、待機児童の解消に向けて引き続き対策を進めていく考えを強調した>
という与党広報をやってのけた。このそっけなさは、意図的ネグレクトと疑われても仕方ない。NHKには、待機児童をかかえる子育て世代はいないらしい。

 (11)3月10日、国会中継のカメラの向こうでヤジっていた平沢勝栄・議員(自民党)が、「羽島慎一モーニングショー」に生出演した。
 平沢議員は、山尾議員(民主党)が匿名ブログの資料の配付やテレビ向けパネルの提示を求めたが、委員会の事前理事会で不許可にした事情を述べた。「日本死ね!!!」の表現は「いじめ」を助長するから反対した・・・・とピンボケの抗弁をした。結果、内容が問題だったという本音を隠すことができなかった。
 キャスターやゲストが、「保育園が足りない」との主張に反発したのではないかなどと指摘すると、平沢議員は「これ本当に女性の方が書いた文章ですかね」と口を滑らした。
 すると、高木美保・コメンテーターが即座に「それ関係ないでしょ。女性とか男性関係ないですよ」と噛みついた。自民党議員のマッチョ精神が馬脚を現した瞬間だった。

 (12)「羽島慎一モーニングショー」は、3月18日に、「子どもの貧困」をテーマに、「所得の再分配」がいかに重要かを伝えた。学費、給食費、修学旅行費、医療費の無償化を日本はすべて先送りしてきたと批判した。待機児童問題が子どもの貧困の出発点にあることを指摘した。
 まさに同じ日、安倍首相は「国際金融経済分析会合」にジョセフ・スティグリッツ・コロンビア教授(ノーベル経済賞受賞)を招き、消費増税に否定的な意見を聴取した。もともとスティグリッツ教授は消費増税には反対で、相続税、贈与税などを増やして所得の再分配を行い、格差是正を主張する立場だ。はたからは選挙目当ての「いいとこどり」にしか見えなかった。
 安倍首相としては、賃上げをして、消費税を払ってもらい、それを財源に社会保障にまわすつもりなのだろうが、賃上げもままならず、消費増税も先が見えない状況で、結局は財源はないということだ。
 したがって、待機児童の抜本的対策はたてられない。
 対策費を3,000億円と仮定すると、
   去年ならオスプレイ購入費
   今年なら普天間・辺野古関連費用(思いやり予算も含む)
で賄えるのだが、そうは口が裂けても言わない。問題は、こういう愚直な取材をするメディアが見当たらないことだ。

 (13)同じ3月18日、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターが23年続いた番組の締めくくりを行った。「未来への風から“痛み”を越える若者たち」と題して、彼らの社会への関心の広がりに期待を寄せた。そして、学生団体SEALDsが「戦争するな! みんなの暮らしに税金使え!」と声をあげる映像を流した。「防衛費を社会保障費に」というメッセージか。さらに、国谷キャスターは、
   この社会が「同調圧力」に弱い
ということに二度ふれた。これは、彼女がNHKで嫌というほど味わってきた四文字なのだろう。
 安倍政治の属性は、
   「薄情」
としか言いようがない。
 それは「愚直」の対極にある。メディア的には、愚直な現場主義だけが薄情な政治にストップをかけられる。これまではネットのなかの情報に対する不信が語られることが多かったが、これほど現実が崩壊の兆しを見せているときにジャーナリストに求められる役割は、ネットのかすかな声を聞き分ける能力を磨くことであろう。

□神保太郎「メディア批評第101回」(「世界」2016年5月号)の「(1)「日本死ね!!!」という立憲・民主主義もある」
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 【参考】
【メディア】「日本死ね!!!」という立憲・民主主義 ~ネットの力~

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【メディア】「日本死ね!!!」という立憲・民主主義 ~ネットの力~

2016年05月04日 | 批評・思想
 (1)2016年2月15日は記憶すべき日となった。「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログに共感した働くママたちの怒りが、「燎原の火のごとく」拡散しはじめた日として。
 安倍首相は、それが「匿名の書き込み」であることを理由に軽く受け流そうとしたが、かえって火に油をそそいだ。
 議員たちの「誰が書いたんだよ!」のヤジがさらに火勢をあおった。
 これまで何度も保育園の不足、保育士給与の低さが指摘されてきたが、そのつど政治は先送りにしてきた。だが、今回は収まらない。なぜか?
 乳幼児をかかえていつ「下流」に転落するかもしれない子育て世代は、「一億総中流」の次は「一億総活躍」と言われても悪い冗談にしか聞こえなかったのだ。
 この1年、国会前のわずかな舗道にさまざまな市民が集まって「民主主義はこれだ!」と叫びながら、それぞれの「これ」を確認してきた。その一つが「待機児童隠し」という現代残酷物語だ。急増する希望格差社会のキーワード、「ワーキングプア」「ブラック企業」「シングルマザー」「下流老人」「子どもの貧困」などが折り重なり、「子捨て」にたどり着いた。
 去年安倍政権が放った「平和安全法制」という名の毒矢が、乳幼児たちにも向けられていると気づいたママたちが立ち上がった。「日本死ね!!!」は、「最高責任者は私だ!」と立憲主義を否定する首相の国家観に対するノーだった。

 (2)「日本死ね!!!」は、安倍政権のみならず「メディアの現在」も直撃している。そのプロセスはこうだ。
  (a)NHK「NEWS WEB」・・・・ブログのつぶやきを翌2月16日深夜に取り上げた。「つぶやきビッグデータ」コーナーで、ほかのキーワードとともに「保育園」の文字がテレビ画面に7秒間映し出された。翌日も「保育園」「保育士」「日本死」と表示されたが、いずれもノーコメント。NHKはもっとも重要(クリティカル)な時期に沈黙を続けた。
  (b)TBS「NEWS23」・・・・2月17日夜、「日本死ね!!!」をまとまった形で取り上げた。番組には駒崎弘樹・NPO法人フローレンス代表が登場し、「一億総活躍社会と言うのであれば、待機児童ゼロにしなくてはいけない。保育園不足の理由の一つが保育士不足、それは保育士の処遇が引くから」と、この段階で論点のほとんどを整理した。
  (c)フジテレビ「とくダネ!小倉が斬るニュース」・・・・2月22日、ブログを書いた人に取材した。都内在住30代前半の女性で、3月に1歳になる子どもがいて、育児休暇が切れるのに保育園がない。その怒りで独り言のつもりで書いた、というコメントを紹介。その実在を裏づけ、もはや匿名は形式にすぎないことを示唆した。
  (d)日テレ「スッキリ!!」・・・・2月23日、保育園は全国で4,000か所増えているが、東京都は165か所にすぎないというデータを提示。しかも、保育園に入れなくて仕事をあきらめると、行政はその分「待機児童が減った」とカウントするというせちがらい現実を紹介した。
  (e)テレ朝「羽島慎一モーニングショー」・・・・2月26日、コメンテーターの一人が「日本死ね!!!」の書き込みは、「現在の日本社会の矛盾点を見事についている」と述べた。たしかに。ブログの主は日本国憲法の「勤労・納税の義務」を知った上で、「社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに・・・・」とつぶやいている。

 (3)「少子化対策」、「イクメン議員の不倫騒動」、「重要閣僚の金銭授受疑惑」、「オリンピック・スタジアム設計やエンブレム選考のやり直し」、「ウチワ配布議員」など、連日国会やメディアを騒がせた問題ばかりだ。かくて、ネットとマスメディアが「共振」する条件は出そろった。

 (4)2月29日、衆議院予算委員会で山尾志桜里・議員(民主党)が「日本死ね!!!」を安倍首相にぶつけた。安倍首相は(1)のとおり対応に失敗した。
 「日本死ね!!!」は「愛国者」の逆鱗に触れたのだおる。議場は怒号に包まれた。保育行政の不備を衝かれたからではあるまい。「日本死ね!!!」は彼らの日本主義にもろに突き刺さったのだ。自民党憲法改正草案が参考になる。
 <日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。/我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる>【前文の第2・第3段落】
 聖徳太子から江戸の御触書、さらには国家総動員思想まで盛り込まれている。こんな鎖国憲法案を引っ提げて国連の常任理事国入りを希望するとは大した度胸だ。

 (5)メディア的に見れば(4)のあたりで第二ラウンドに入ったのだが、安倍政権はそれに気づかず、「バカの壁」を高く、かつ、分厚く築き続けた。それを政府、与党関係者の失言、暴言の土塁が支えた。恥の上塗りという言葉があるが、最近は「恥を重ねる」から「恥を忘れる」という意味に転化した。
 不祥事のたびに安倍首相は潔く「任命責任」を認める。自分を選んだ国民にも「信任責任」があるとパスすれば足りるからだ。

□神保太郎「メディア批評第101回」(「世界」2016年5月号)の「(1)「日本死ね!!!」という立憲・民主主義もある」
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【食】野菜不足解消によい「浅漬け」は添加物まみれ

2016年05月03日 | 医療・保健・福祉・介護
   ①永谷園「ササッと浅漬け」
   ②エバラ食品工業「粉末 浅漬けの素」
   ③マルコ食品「手もみ漬けの素(しそ風味)」

 (1)和食の基本は、「一汁三菜」。一汁は汁物で、三菜は副食3皿。ご飯や漬物は、毎食摂ることを前提としているのが和食なので、わざわざ挙げない。

 (2)野菜の保存が誕生の目的だった漬物は、保存製法の大部分が塩蔵だったので、塩分含有率が高いのが特徴だ。
 かつての食生活の中で米の最高の友だった漬物だが、20~30年ほど前から高塩分が生活習慣病の要因だと敬遠され、昨今はサラダ感覚の「浅漬け」が主流となっている。

 (3)「浅漬け」は、短期間で風味よく漬け込んだ漬物の総称で、保存を目的としないため2~3%程度の薄塩だ。家庭で作れば好みの野菜と塩+昆布など台所の常備材料で作ることができる。しかし、ここで簡便な市販の浅漬けの素に頼ると、不必要な添加物を摂取することになる。
 ①、②、③の原材料は、(a)「調味料(アミノ酸等)」、(b)「デキストリン」、(c)「微粒二酸化ケイ素」、(d)「酸味料」など、家庭の台所とは馴染みのない添加物だ。
  (a)「調味料(アミノ酸等)」・・・・現代人が旨みとして好む添加物のスター的存在で、グルタミン酸ナトリウム(化学調味料)を主体にイノシン酸などを混ぜて使用される合成食品添加物だ。一括名表示の添加物であるため、どのような成分が添加されているか、不明な上、「3gが食塩1gに相当する」という指摘を考慮すると、これら浅漬けの素は摂取量によっては決して塩分含有が低いとはいえない。   

  (b)「デキストリン」・・・・ジャガイモやトウモロコシのでん粉を酵素や酸で加水分解した時に得られる中間生成物の総称だ。本来でん粉は水に溶けないのだが、細かく分解してデキストリンにすると水に溶けやすくなり、糊剤や乳化剤などに用いられる。でん粉を加工した食品なので消化されてエネルギーに変わるため問題ないとされているが、危惧される点は、原材料に使用されるジャガイモやトウモロコシ。90%以上を米国からの輸入に頼るが、これらは遺伝子組み換えの危険性が濃厚だ。

  (c)「微粒二酸化ケイ素」・・・・二酸化ケイ素の微粒で、「シリカ」と呼ばれる必須ミネラルだ。鉱物に含まれる不溶性と、動植物に含まれる水溶性があり、食品の固形化防止作用があるためサプリメントなどには水溶性が使用されている。加齢により不足するミネラルだが、粉末を吸収すると肺癌の危険性ありと指摘されている。浅漬けに必要な添加物とは決して言えない。

  (d)「酸味料」・・・・食品に酸味を与えたり酸味を調整したりするために使用される添加物だ。(a)と同様、一括名表示が認められている。成分によっては危険度の高いものだがあるが、どの成分がどれくらい使用されているか、消費者は知ることができない。

 (4)漬け込む時間が短い浅漬けは野菜に含まれる成分を失いにくいという利点があり、サラダ感覚の野菜摂取は健康面からもプラスだ。
 しかし、これはあくまでも不必要な添加物が加わっていない場合の話だ。

□沢木みずほ「「浅漬け」は野菜不足解消にいいけれど添加物まみれはやめて」(「週刊金曜日」2016年4月29日号)
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【政治】新自由主義に鼓舞される復古主義 ~自民党改憲案の「第22条問題」~

2016年05月02日 | 社会
 


 (1)『憲法改正の真実』(集英社新書、2016)において、憲法学者の樋口陽一および小林節が自民党の憲法改正草案の「隠された意図」を読み解いている。
 日本国憲法と比べてみると、国家権力と国民の関係が逆転している。それが二人の対談で明らかにされれるのだが、ここでは
   「復古主義と新自由主義の奇妙な同居」
という指摘に注目する。

 (2)憲法第22条は、経済的領域における基本権を定めている。
   <何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する>
 封建時代のように人を土地に縛りつけることを否定して移動の自由を認め、職業選択の自由を謳っている。経済活動の自由を保障する一方で、「公共の福祉に反しない限り」と制限を加えるのは、弱者を保護するために経済的な自由が規制を受けることがあるからだ。
 この第22条を自民党の改憲案は、
   <何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する>
と改めている。「公共の福祉に反しない限り」を削除したのだ。その意図は、自民党改憲案の憲法前文を参照すれば明確になる。「活力ある経済活動を通じて国を成長させる」という、成長戦略政策と見まがうような文言が憲法前文にわざわざ書き込まれているのだ。
 <競争至上主義を徹底して、世界で一番、企業が活動しやすい国にするという、安倍政権の目標と似通ったものが、前文にも、22条の変更にも、ストレートに反映している>【樋口氏】
 <まさに財界向けの草案>【小林氏】」
 <自民党改憲案では新自由主義が国是>【樋口氏&小林氏】

 (3)自民党の改憲案の特徴は、「新自由主義」が「復古主義」とセットで登場することだ。
 むしろ基調は、「国と郷土」「家族」「美しい国土」「良き伝統」などを押し立てる復古主義だ。
 <改憲マニアの世襲議員たちは、戦前の明治憲法の時代に戻りたくて仕方ない>【小林氏】
 復古色が強いだけに、経済的自由だけが制限なしとされている点が際立つのだ。

 (4)「新自由主義」が「復古主義」。
 一見すると矛盾するふたつの主義が、自民党改憲案では仲良く共存しているのはなぜか。
 論理的には矛盾しているけれど、じつは表裏一体なのではないか。そう指摘するのは樋口氏だ。<「美しい国土」など復古調の美辞麗句は、競争によって破綻していく日本社会への癒やしとして必要とされた、偽装の「復古」ではないかと思うのです>
 新自由主義的な政策があちこちで社会の靱帯を切断してまわり、個人が孤立化を深めれば深めるほど、人々の共同性を希求する思いは強まる。「国と郷土」「家族」「美しい国土」「良き伝統」・・・・失われた共同性を想像の領域で回復するための格好のキーワードだ。

 (5)奇妙な結合ではあるが、新自由主義と復古主義は必ずしも相性が悪いわけではない。両者が手を携えて進めば、喪失感の深まりとともに「情念」が生まれる。現実には決して手に入れることができないものを想像的に取り戻そうとする、人びとの衝迫にも似た「情念」。
 あるいは、それこそ自民党改憲案が欲するものかもしれない。

□佐々木実「新自由主義に鼓舞される復古主義 自民党改憲案の「第22条問題」 ~経済私考~」(「週刊金曜日」2016年4月29日号)
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【保健】勧告すべきはライオンのほかにも ~トクホ商品誇大広告~

2016年05月01日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)2016年3月1日、消費者庁は、ライオンの特定保健用食品(トクホ)「トマト酢生活トマト飲料」の広告が健康増進法に違反するとし、
   「健康増進法違反であることを一般消費者に周知徹底すること」
   「再発防止策を講ずること」
などを勧告した。
 同庁は、「その食品の摂取が健康の維持増進に役立つ、又は適する旨を表示することだけが許可されていて、トマト酢生活の場合『本品は食酢の主成分である酢酸を含んでおり、血圧が高めの方に適した食品です』が許可表示である>としている。
 ところが、実際には、
   「血圧を下げる効果がある」
   「薬物治療によることなく、本件商品を摂取するだけで高血圧を改善する効果がある」
と表示していたので違反だ、とした。

 (2)トクホ商品について勧告があったのは初めてだ。
 健康食品の誇大表示は、消費者委員会や食品安全委員会でも問題になっている。そうした中で、国の審査に合格したトクホに勧告を出したことは評価できる。
 しかし、今回のライオンのような表示はいくらでもある。

  (a)ライオン「トマト酢生活トマト飲料」
    ヒト試験結果のグラフとともに、
    <臨床試験で実証済み!これだけ違う、驚きの「血圧低下作用」>

  (b)サントリー「ゴマペプ茶」
    ヒト試験結果のグラフとともに、
    <血圧が高めの方が、ゴマペプ茶を飲み続けると4週間で血圧に変化が現れはじめました。そして、12週間で血圧の低下が確認されました!>

 (a)も(b)も、血圧を下げる効果があることを謳っている。(b)は、<ゴマペプチドは、血管を収縮させる血管収縮物質の生成を抑え、流れをスムーズにし、高めの血圧をおだやかに低下させるはたらきがあります>と、ゴマペプチドが血圧を下げる薬であるかのような表現もしている。
 (a)が違反で、(b)が違反にならない理由は定かではない。

  (a)’ライオン「トマト酢生活トマト飲料」
    <毎日、おいしく血圧対策>
    <“薬に頼らずに、食生活で血圧の対策をしたい”そんな方々をサポートしようとライオンが開発した「トマト酢生活」>

  (b)’サントリー「ゴマペプ茶」
    <血圧対策をしながら毎日飲めるおいしいお茶に仕上がったと思います>
    <トクホのおいしいお茶で、毎日、手軽に、血圧対策!>

 (a)’も(b)’も、 「血圧対策」と謳っているが、(a)’には「薬に頼らずに」という言葉が入っている。「薬に頼らない」という言葉を使わなければ違反にならないのか。「手軽に、血圧対策」という表現も、「薬に頼るような面倒なことをしなくても血圧を下げることができる」という意味にならないか。
 消費者庁は、ライオンのトマト酢生活は、「誤認を生じさせる恐れがあり、高血圧の改善に関し誤った情報発信をする可能性がある」と言うが、サントリーのゴマペプ茶とどういう違いがあるのか。「薬に頼らずに」という言葉さえなければ、違反にはならないと言うのか。

 (3)消費者庁は、ライオンを摘発することで、健康食品業界に自粛を求めているのかもしれないが、逆に、
   「薬に頼らずに」という表現させしなければ違反にならない
と受け止められて、さらに表示がエスカレートする危険もある。
 他の食品ももっと摘発すべきだ。

□垣屋達哉「ライオンのトクホ商品誇大広告に勧告。問題なのはライオンだけ?」(「週刊金曜日」2016年4月15日号)
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