語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会哲学】本来性という隠語 ~ハイデガー批判~

2016年12月23日 | 批評・思想
 
 (1)戦後ドイツにおいて、ハイデガーは隠然たる力を持っていた。元来、未完に終わった『存在と時間』(1927年)で哲学界を震撼させたハイデガーのもとには、ナチスが政権を獲得する以前、若いユダヤ系の知識人をふくめて、多くの哲学志望者が集っていた。ハイデガーは1933年にナチスの後ろ盾のもと、フライブルグ大学の総長となり、「ドイツ的大学の自己主張」と題する総長就任講演を行った。ハイデガーからすると、教授会の自治などを至上の価値とするような当時の大学はとうてい「ドイツ的大学」ではなかったのだ。言ってみれば「フランス的大学」であり、「イギリス的大学」だった。
 ドイツの未曾有の危機のなかで、ナチスと同様の指導者原理に徹底して貫かれた大学、それがハイデガーの考える「ドイツ的大学」であって、ハイデガーはナチスの政策にのっとった大学運営を企てるとともに、その秋には国際連盟から脱退を掲げたヒトラーへの断固とした投票を総長として訴えた。

 (2)1年で辞職することになるとはいえ、ハイデガーがナチスの支持者、とりわけヒトラーの支持者だったことは明らかだ。
 ハイデガーとナチスとの関係は、戦後繰り返し問い直されてきたが、タブー視されるところがあったのも事実だ。戦後のドイツの大学で哲学の教授職を占めていたひとびとにはハイデガーを師と仰ぐ研究者が多く、ハイデガーの思想は相変わらず根強い影響力を保持していた。戦中からニーチェ論、ヘルダーリン論を講じていたハイデガーは、戦後、技術論、言語論を中心に、独特の思考スタイルを築きあげる。古代ギリシア哲学以来の西欧哲学へのハイデガーの理解が、他の追随を許さないほど深く、透徹したものであることは否定できない。

 (3)そういうハイデガーに戦後のドイツで冷や水を浴びせるような批判を提示し続けたのがアドルノだった。アドルノはあるとき、挑発的にこう語りさえした。
 「ハイデガーの哲学は、そのもっとも内的な細胞にいたるまでファシスト的だ」
 アドルノは、自らのナチス時代初期の態度を批判的に問われたときに、この言葉を発したのだ。
 じつは、アドルノは1934年に、「ナチス学生同盟」の指導者バルドゥーア・シーラッハの詩集にもとづいてヘルベルト・ミュンツェルの歌曲集に対する好意的な書評を発表していた。そのことを1963年になって、フランクフルト大学の学生新聞紙上で、彼は公開で問い質されたのだ。
 アドルノは、ナチス政権はすぐに崩壊すると考え、一種の「越冬戦術」を試みたのだと弁解した際、ハイデガーに対する先の言葉を述べた。
 こういう文脈だから、自己弁護的な響きがなかったとは言えない。しかし、アドルノがハイデガーの思想におぼえていたその感覚は嘘ではなかった。アドルノからすると、ハイデガーの思想は、理論的な側面であれ、実践的な側面であれ、いわば骨の髄までずぶずぶに「ファシスト的」なのだ。それにしても、ハイデガーであれ、誰の思想であれ、「そのもっとも内的な細胞にいたるまでファシスト的だ」などと評するこおが許されるものか。 

 (4)アドルノは、ハイデガーをナチズムへの関与以前から批判していた。アドルノのフランクフルト大学講師就任講演「哲学のアクチュアリティ」は、すでにしてハイデガー批判をだいじなモティーフとしていた。それ以降アドルノは、哲学の立場から世界のすべてを基礎づけようとする傲慢な姿勢を「根源哲学」と呼び、まさしくハイデガーの哲学こそがどの根源哲学であると批判し続ける。アドルノからすると、すべてを基礎づけると称するような尊大の病から哲学はまず癒えなければならないのであった。
 アドルノの戦後におけるハイデガー批判は、『本来性という隠語』(1964年)に集約される。哲学的主著として構想されていた『否定弁証法』を執筆するなかで、独立して先に刊行されることになった。
 「本来性」はハイデガーが『存在と時間』で用いている言葉だ。ハイデガーはそのなかで、死すべき定めにある自分に目覚めたあり方を「本来的」、そういう自分から目をそらしたあり方を「非本来的」と呼ぶ。ハイデガーは、両者は「等根源的」(根源を等しくしている)として、価値的な差異はない、と断りながらも、明らかに「本来的」なあり方を優位に置いている。都会の暮らしに対して農村の暮らしを、サラリーマンに対して農夫や木こりの生き方を、人間の「本来的」な姿とする発想が、戦前・戦後のハイデガーには根強く一貫している。
 しかも、それはハイデガーひとりが固執している考えではけっしてなく、ドイツ人の心の奥深く、いわば心性をなしているものでもあって、アドルノからすると、そういうアナクロニズムをきちんと告発することが重要だった。
 『本来性という隠語』には、マルクスとエンゲルスの共著『ドイツ・イデオロギー』を踏まえて、「ドイツ的なイデオロギーについて」というサブタイトルが付されている。
 アドルノからすると、ハイデガーは比類のない独創的な思想家と見えて、じつは古くからのドイツ・イデオロギーの典型的な体現者なのだ。その点で、アドルノのハイデガー批判は戦後のドイツにおいて、文字どおり啓蒙的な力を発揮することとなった。

□細見和之『フランクフルト学派 ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ』(中公新書、2014)の「第5章 「アウシュビッツのあとで詩を書くことは野蛮である」」 
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【社会哲学】「同一化」から「非同一的なもの」へ ~ミメーシスについて~
【社会哲学】言語社会学の諸問題--ひとつの集約的報告 ~ベンヤミン~
【社会】格差社会における「承認の欠如」 ~第三世代のフランクフルト学派~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【加賀野有理】地図を見る ~方向オンチを治す法~

2016年12月23日 | 心理
 年始年末は外出の機会が多い。私は道に迷うことが多く、しかもスマホのナビゲーションアプリに慣れないため、外出そのものがおっくうになってしまう。
 訓練することで道に迷わなくなるとの話を聞いた。
 頭頂付近には空間把握能力をつかさどる機能がある。この能力を鍛えることで方向感覚や距離感などの把握がしやすくなりそうだが、以前、このことについて書かれた「話を聞かない男、地図が読めない女」(主婦の友社)という本が話題になった。
 空間把握能力を高める方法はいくつかある。例えば初めての目的地を訪ねるとき、地図を読むのが苦手という人は「○○駅下車、二つ目の信号を左折」などと言葉で教えてもらうといいだろう。帰りは地図を見ないで、案内された言葉を思い出しながら駅まで戻る。その後、地図を広げて歩いた道のりを点検する。さらに、白い紙に鉛筆でその道順を描きながら、町並みなどを思い出していくと空間把握力がついて地図も読めるし、道順の記憶も定かになるそうだ。早速試してみようと思う。

□加賀野有理(サイエンスライター)「地図を見る ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2016年12月17日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【加賀野有理】アパートの屋上で暮らすファッションモデル ~ミニマリスト~
【加賀野有理】脳の栄養 ~EPAとDHA~
【加賀野有理】今年の冬の天気、ラニーニャ現象
インフルエンザワクチン
【加賀野有理】大掃除の道具
【加賀野有理】サザンカとツバキ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】歴史と地理・米国・ロシア・EU・中国 ~米露中「大国の掟」(まとめ)~

2016年12月22日 | ●佐藤優
【佐藤優】歴史と地理 ~米露中「大国の掟」(1)~
【佐藤優】米国 ~米露中「大国の掟」(2)~
【佐藤優】ロシア ~米露中「大国の掟」(3)~
【佐藤優】EU ~米露中「大国の掟」(4)~
【佐藤優】中国 ~米露中「大国の掟」(5)~

□佐藤優「米露中「大国の掟」を見極めよ」(「文藝春秋」2017年1月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【加賀野有理】アパートの屋上で暮らすファッションモデル ~ミニマリスト~

2016年12月22日 | 医療・保健・福祉・介護
 年の瀬恒例の大掃除をしていて「なぜこんなに不要な物が多いのか」とつくづく思った。結局は無駄遣いしている自分が原因なのだが、改めて不要な物を減らすことの重要性を痛感した。
 十数年前、子供が成長したのを機に家具類を一新した。新しく購入する家具の選別に約1年掛かり、その間はテーブルと食器棚だけで暮らした。
 今でも思い出すのは、その時のすがすがしい気分だ。掃除のしやすさも抜群だった。その後、新調した家具に合わせた細々としたインテリアが増え、今に至っている。
 来年1月公開の映画「ホームレス ニューヨークと寝た男」では究極のミニマリスト(ミニマリズム=最小限主義=を実践する人)を描く。主人公のマーク・レイはファッションモデル兼写真家。高級スーツを着こなすハンサムな男性だが、実は6年近くもマンハッタンのアパートメントの屋上に秘密で寝泊まりしているという。
 いったい、家を持たないライフスタイルとはどういうものなのか。今後の暮らしの参考になるかもしれない。興味津々だ。

□加賀野有理(サイエンスライター)「ミニマリスト ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2016年12月18日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【加賀野有理】脳の栄養 ~EPAとDHA~
【加賀野有理】今年の冬の天気、ラニーニャ現象
インフルエンザワクチン
【加賀野有理】大掃除の道具
【加賀野有理】サザンカとツバキ

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【幕内秀夫】「カタカナ主食」が食生活に与える影響 ~パン・菓子パン・ピザ~

2016年12月21日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)総菜パン、菓子パン、ハンバーガー、ピザなどを常食にするということは、「お菓子」を食事にしているのと同じだ。稀な楽しみで間食として食べるならいいが、これらを食事にする人が登場してきた(「カタカナ主食」)ことが大きな健康問題に繋がっている。

 (2)「カタカナ主食」の問題は、「砂糖」が入っていることだけではない。
 最近、ホテルの朝食はビュッフェになっているところが多い。パンを食べている人を見ると、パンと一緒にジュースを飲んでいる人が多いのだ。高級ホテルなら果実を搾ったフレッシュジュースがあるかもしれないが、普通のホテルでは砂糖(異性化糖)の入ったジュースになる。大人ならコーヒーの場合もあるが、子どもは100パーセント、ジュースを飲んでいる。
 一方、ご飯を食べている人でジュースを飲んでいる人はめったにいない。

 (3)さらに最近のパンはどんどん柔らかくなっている。手で握ってみると、小さな塊になってしまう。だからだろうか、パンだけで空腹を満たすことが難しいのか、パン食の人は大概デザートを食べる。果物ならまだいいほうで、朝からプチケーキやアイスクリームを食べている人さえいる。ここでも砂糖の摂りすぎになりやすい。
 また、パンやハンバーガー、ピザなどは水分が30%程度しか含まれていない。私たちの体に含まれている水分量はおおよそ60%くらいだ。パンを口に入れると唾液が吸われてしまい、パサパサと感じて美味しくない。それを防ぐには口腔内の粘膜を油脂類でコーテイングする必要がある。パンにマーガリンやバターを塗ると美味しく感じるのはそのためだ。

 (4)パンと一緒にほうれん草のお浸しやしめ鯖を食べる人はほとんどいない。どうしてもほうれん草が食べたかったら、バター炒め。鯖も、マリネやムニエルになる。サンドイッチやハンバーガーにはさまれているものも、フライやサラダ、炒め物などすべて油脂類を使ったものになる。クロワッサンやデニッシュ、ドーナツなどにマーガリンやバターをつけないのはもともと油だらけだからだ。

 (5)最近の食生活には季節感がなくなった、という指摘も少なくない。
 〈例〉野菜だったら、春はせりの胡麻和え、夏は茄子のしぎ焼き、秋には菊としいたけの和え物、冬はふろふき大根などだ。
 どれもがご飯の副食だ。パンに合うのは季節に関係なく、サラダや野菜炒めになるだろう。ここでも油脂類をとることになる。「旬」の魚介類もパンには合わない。パンに秋刀魚の塩焼きや鯖の味噌煮を食べる人はいないだろう。ファストフードの店にあるのは、1年中変わらない白身魚のフライくらいだ。

 (6)パンや菓子パン、ハンバーガーやピザなどを常食にするということは、大量の「砂糖」と「油脂類」をとることになる。このことが健康に与える影響はとてつもなく大きい。  

□幕内秀夫(フーズ&ヘルス研究所代表/学校給食と子どもの健康を考える会代表)「「カタカナ主食」が食生活に与える影響 ~口は災いのもと 10」(「週刊金曜日」2016年12月9日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】

【幕内秀夫】太りすぎた子どもたち ~「お菓子」が主食~
【食】味噌汁をめぐる妻vs.夫 ~「塩味」が伝える大切なメッセージ~
【保健】世紀のデタラメ健康法 ~「糖質制限」ダイエット~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】中国 ~米露中「大国の掟」(5)~

2016年12月20日 | ●佐藤優
 (1)共産党がコントロールする中国を「戦略国家」と見る向きもあるようだが、果たして然るか。
 中国は国内に問題が山積みしているし、戦略的な外交はほとんどできていない。

 (2)中国の海外戦略といえば、2013年に「一帯一路」構想を打ち出し、大きなニュースになった。「一帯」は21世紀のシルクロードという言葉が示すとおり、古くから交易の道として栄えた新疆ウイグル自治区から中央アジアを経由してヨーロッパに至る陸路を指す。「一路」とは東南アジアを経由してインド、アラビア半島、アフリカを通り、ヨーロッパに至る海の道だ。
 これら二つのルートを活用して周辺に広大な経済圏を作ろうとするのが一帯一路構想だ。
 南シナ海における強硬な海洋政策などは、基本的にこの考え方を踏まえれば説明がつく。

 (3)しかし、「一帯」の入口にあたる新疆ウイグル自治区には大きなリスクを抱えている。その地に住むウイグル族にイスラム主義が浸透しつつあるからだ。
 ウイグル族はトルコ系のスンナ派イスラム教徒で、中国の一部に取り込まれたのは18世紀半ばのことだ。もとは西側に隣接するキルギス、ウズベキスタン、タジキスタンなどと合わせてトルキスタン(トルコ人の国)と呼ばれてきた。ソ連解体と共に西トルキスタンの国々は独立したのに、東トルキスタンと呼ばれていたウイグルだけが独立できないまま現在に至っている。
 近年、このトルキスタンの地にイスラム主義が浸透し、シリアやイラクの「イスラム国」に少なくとも数百人が参加しているとみられている。彼らが帰国したら、いずれ「第二イスラム国」の誕生もあり得る。中国政府はウイグル独立運動には常に敏感だったが、イスラム原理主義の理解は十分とはいえない。西トルキスタンと一体化すると力で押さえつけるのは難しくなる。

 (4)かつて毛沢東は「十大関係論」の中で、他民族統合の心得を説いた。・・・・漢民族は人口は多いが、資源の少ないところに住んでいる。逆に少数民族は人口は少ないが、資源の多いところに住んでいる。民族主義は本来国民統合にはマイナスだが、少数民族を大切にすることでバランスがよくなる、云々。
 習近平体制は、ウイグルに対してひたすら力でねじ伏せようとしているだけで、毛沢東の知恵を尊重しているとは言えない。

 (5)中国を理解する上でもう一つ忘れてはならないのは、「易姓革命」の概念だ。中国では「王朝には天命があり、百年ほどで王朝(姓)が代わる」と考えられてきた。
 では、中国で天命はいつ変わるのか。飢饉による農民の蜂起はひとつの典型だが、もうひとつは異民族の侵入に対処できなくなった時だ。宋朝を滅ぼしたモンゴル族や明朝を滅ぼした女真族は新たな王朝を打ち立てた。
 現代中国の脅威としては、ウイグル族が筆頭だろう。本来はロシアなど他の国と組んで共同歩調をとればいいのだが、そういう戦略が中国にはない。天命はしばらく共産党にあるとはいえ、対処は充分であるとは言えない。

 (6)北朝鮮との関係も冷え切っている。
 現在、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルの開発の国力を集中させている。金日成、金正日時代の核開発は米国との交渉材料の域を出なかった。しかし、金正恩は核保有自体が自己目的化していて非常に危険だ。
 トランプは、金正恩との直接会談を提案していたが、仮に北朝鮮が核を搭載した弾道ミサイルの開発に成功したら確実に空爆する。ただ、空爆は確実性が低いので、金正恩の暗殺を選択するかもしれない。近年の米韓合同軍事演習は明らかにそれを想定している。暗殺に成功した場合、金正恩に準ずる高官や軍人はいないから、北朝鮮は韓国に併合される。その時、北朝鮮の核は韓国の手中に入るから、日本にとって厳しい状況になる。核保有国となった韓国と竹島問題や歴史認識問題で向き合うのは非常に難しいことになる。

 (7)これから本格化する新・帝国主義時代に、日本はどのように臨めばよいのか。
 2017年以降は、TPPのような多国間の協定や条約を結ぶことが難しくなり、国と国とが一対一で直接話をつける二国間交渉が主流になるだろう。
 また「世界の警察」がいなくなるため、それぞれの国は自分に合った自警団(軍備)を揃える必要に迫られる。日本も例外ではない。防衛予算の増額や、近年はあまり聞かれなくなった自主防衛論や核武装論などの議論が再燃することもありえる。
 戦後長らくなりを潜めていた「国家」や「ナショナリズム」が世界的に復活しつつある。理念が後退し、弱肉強食の度合いが高まる世界だからこそ、日本人は歴史と地理を学び治し、国家の本質を見極める訓練が今まで以上に必要となる。

□佐藤優「米露中「大国の掟」を見極めよ」(「文藝春秋」2017年1月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】EU ~米露中「大国の掟」(4)~
【佐藤優】ロシア ~米露中「大国の掟」(3)~
【佐藤優】米国 ~米露中「大国の掟」(2)~
【佐藤優】歴史と地理 ~米露中「大国の掟」(1)~

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】EU ~米露中「大国の掟」(4)~

2016年12月20日 | ●佐藤優
 (1)同じユーラシア大陸でも、中東からの難民流入やイギリスの離脱など、EUはロシアとはまったく異なる問題を抱えている。一部には「EU解体論」を唱える論者もいるようだが、それはないと思う。むしろ、栄はますます盟主ドイツの影響力が高まって「拡大ドイツ」になって発展するだろう。

 (2)近代ヨーロッパ史は、拡大するドイツとの戦いの歴史だった。19世紀に成立したドイツは、オーストリアやフランスと戦争を起こし、第一次世界大戦も第二次世界大戦も発端はドイツの領土的野心から始まった。
 EUの本質的な目的は、ドイツを取り込み、「再びヨーロッパで戦争を起こさせないようにする」ことなのだ。
 ところがEUは、武器を大砲に換えたドイツによって乗っ取られ、現在は事実上「ドイツ第四帝国」の様相を呈している。ドイツは自国の製品を無関税で東欧や南欧に売ることで莫大な富を手に入れてきた。その一人勝ちの構図が他のEU諸国から大きな反発を生んでいるが、強いユーロはとりもなおさずドイツのおかげだから、まだまだドイツの天下は続く。

 (3)EU内での力は圧倒的なドイツだが、ロシアとの衝突は避けようとしている。歴史的に東への進出を志向してきた国家ではあるものの、二度の世界大戦で甚大な被害を被り、その教訓が今も生きているのだ。
 ロシアがクリミア半島を併合した際、国際的な経済制裁がロシアに対して行われた。しかし、ドイツは早く制裁を止めたがっていた。2022年までに脱原発をめざすドイツは、エネルギー面でもロシアに依存しており、その意味でもロシアとの対立は一刻も早く幕を引きたいのだ。

 (4)ドイツの政策には、東独出身のメルケル首相のパーソナリティが大きく影響している。共産圏の東ドイツで大陸国家的な地政学を身につけている彼女は、プーチンの「ユーラシア主義」とは棲み分けるのが賢いやり方だと悟っているのだろう。

□佐藤優「米露中「大国の掟」を見極めよ」(「文藝春秋」2017年1月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】ロシア ~米露中「大国の掟」(3)~
【佐藤優】米国 ~米露中「大国の掟」(2)~
【佐藤優】歴史と地理 ~米露中「大国の掟」(1)~

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】ロシア ~米露中「大国の掟」(3)~

2016年12月19日 | ●佐藤優
 (1)12月15日にプーチン・ロシア大統領が来日し、安倍首相と会談を行う。一時は「北方領土返還に向けて動き出す」と期待が高まったが、その後、プーチンが「北方領土はロシアに帰属」と言い出したので雲行きが怪しくなった。
 どうしてこんなことになったのか。おそらく日本側がプーチン政権の権力構造を誤解していたのが大きな原因だ。プーチンは独裁者だから、プーチンさえ押さえれば北方領土は返ってくると勘違いしたのではないか。

 (2)たしかにプーチンは独裁者だ。しかし、たった一人でロシア政治を動かせるような専制君主ではない。ロシアには、いくつかのエリートグループがあり、その均衡の上にプーチン政権は成り立っている。実はそれぞれのグループがプーチンが独裁者であると見せることに利益を見出している、というのが実情なのだ。
 ロシアでは、ソ連時代のゴルバチョフにしても、ロシアになってからのエリツィン大統領にしても、複数の権力グループのバランスの上に乗っていた。ロシアの権力構造は、実は調整型のリーダーなのだ。

 (3)領土返還に関してクレムリン内でコンセンサスが採れていないのは明らかだ。
 ロシアでは漁業ロビーと軍が領土返還に反対の立場からプーチン周辺に働きかけているのは間違いない。漁業関係者は色丹島、歯舞諸島が返還されれば漁業権を失うから反対するのは当然だ。
 軍関係者は、議題に上がると見られる「北方四島の非軍事化」によって自分たちの国内におけるプレゼンスが低回することを怖れている。
 外交交渉では、障害になりそうなグループには事前に接触してロビー活動を行い、賛成の立場になってもらえなくても、中立の立場を取ってもらうよう工作するのが基本だ。ソ連時代に、共産党のほかに軍関係者や極東地区の知事との接触に力を入れるとか。
 現在の外務省もやっているのだろうが、大事なところを押さえられているかどうか。

 (4)事態が深刻なのは、交渉の窓口だったウリュカエフ・経済開発大臣が疑獄事件で逮捕されたことだ。日本側の担当だった世耕弘成・大臣はウリュカエフのルートで経済協力に関する情報を送っていた。内偵捜査は前々から行われていたはずだから、日本側が提供した情報がどこまでプーチンに伝わっているかわからない。そういうことから判断すると、日ロ交渉は抜本的な組み直しになる。
 今後は、これまでのようにプーチンとの個人的な信頼関係に期待するのは禁物だ。ロシアは個人的な信頼関係があると見える方がプラスだと見ると、首脳同士の信頼関係を演出することがよくあるからだ。
 〈例〉プーチンは、対IS問題で緊張関係にあったエルドアン・トルコ大統領とも良好な雰囲気を作り出している。
 厳しく利害関係が対立するわけだから、プーチンと森喜朗・元首相のような「柔道」という共通言語を持った個人的なコミットメントを期待するのは無理だと冷静に受け止めるべきだ。

 (5)ロシアの外交戦略には、「ユーラシア主義」と「面としての緩衝地帯」という二つの重要な概念がある。
 歴史的にロシア人は、自分たちをスラブ系の白人を中心とした「ルスキー」ではなく、「ロシヤーニン(王朝に忠誠を誓う人)」だと認識している。「ロシヤーニン」には、トルコ系、モンゴル系などのロシア帝国が成立する過程で領内に取り込まれていった様々な民族が含まれている。
 「ユーラシア主義」とは、その帝国としての自己認識をベースに「アジアとヨーロッパに挟まれたユーラシア空間は独自の法則を持つ」という考え方だ。ロシアは、欧州、米国、アジアとは異なる論理と発展法則を持っているとユーラシア主義者は主張する。
 さらに、ロシアを分析する上で重要なのは、地政学的概念である「緩衝地帯」だ。ロシアは国境を「線」ではなく「面」でなければならないと考えている。彼らは、敵対する隣国と国境を接することを極度に怖れる。それで国境には「ロシアの領土ではないが、ロシア軍が自由に動ける地域」を作ろうとする。第二次世界大戦後、ソ連は西側諸国との間に、ポーランドやチェコスロバキアなどの共産主義国家を作った。

 (6)以上を踏まえて北方領土問題を分析してみよう。
 まず地政学的に見ると、色丹島と歯舞諸島を引き渡した後、そこが「緩衝地帯」になるのかどうかをロシア側は重視しているはずだ。具体的に言えば、日米安保の適用除外地域になるかどうか。日本では、ロシア側の最優先事項が経済支援であるかのように報じられているが、それは間違いで、彼らにとって重要なのは経済問題より安全保障だ。
 そもそも領土と経済協力はバーターとして成立しない。しかも、その経済協力もロシアが相手だと簡単ではない。ロシアはODAの対象ではないので、日本政府が直接お金を渡すことができない。そこで民間頼みの経済協力になるのだが、民間企業が利益の出ない投資をすることはありえないから、政府の音頭取りにどこまで協力するかは未知数なのだ。

 (7)今後の日ロ関係において、注目すべきは2016年8月に発表された大統領府長官(官房長官)人事だ。抜擢されたアントン・ヴァイノはまだ44歳。駐日ロシア大使館に数年間勤務した経験がある元外交官で、プーチンの初訪日時にはまだ二等書記官だった。
 彼は大統領府の副長官時代から日程を管理する立場にあったから、プーチンとは非常に近い。今回長官に選ばれたということは、将来の大統領レースに残る一人だと見ていい。
 残念ながら外務省は、ヴァイノとのパイプがうまく構築できていないようだ。当然、プーチンは日本に関しては彼のアドバイスを求めるだろうし、日本の政治家は通訳なしで彼と話ができるわけだから、今後の日ロ外交を考える上でキーパーソンになることは間違いない。  

□佐藤優「米露中「大国の掟」を見極めよ」(「文藝春秋」2017年1月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】米国 ~米露中「大国の掟」(2)~
【佐藤優】歴史と地理 ~米露中「大国の掟」(1)~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】米国 ~米露中「大国の掟」(2)~

2016年12月18日 | ●片山善博
 (1)トランプがやろうとしていることは、日本の真珠湾攻撃の日(1941年12月8日、米国時間7日)より前の米国に戻すということだ。
 1941年までの米国は、自国に関係ないことには基本的に介入しないという「モンロー主義」を掲げていた。彼らはヨーロッパの宗教戦争から逃れ、命の危険を冒して大西洋を渡ってきた人びとの子孫だ。だから「自分たちはヨーロッパの国家間対立にはかかわらない。ヨーロッパの国もアメリカ大陸のことに口を出すな」と言った。つまりトランプに通じる「アメリカ・ファースト」の考え方だった。
 第一次世界大戦や大戦後にできた国際連盟に積極的に関与しなかったのも、ヨーロッパ大陸でナチスが台頭しても当初無関心でいられたのも、「アメリカ第一」だったからだ。
 米国が変質したのは、日本の真珠湾攻撃以後だった。第二次世界大戦に勝利した後、世界に自由と民主主義を拡げるために、理念を掲げ積極的に他国へ介入する国家へと変貌を遂げた。

 (2)新しい米国の思想的支柱になったのが、神学者で政治学者でもあったラインホールド・ニーバーだ。F・D・ローズヴェルトからトルーマン、ブッシュ父子に至るまで、歴代大統領のほとんどがニーバーについて言及している。最近では、オバマ大統領が「好きな哲学者」とまで言い切るほど二-バーの影響を受けていた。
 ニーバーは、世界を理念や理想を持った「光の子」と善悪の価値観がなく暴力を信奉する「闇の子」の二項対立で説明する。第二次世界大戦中は、民主主義陣営や共産主義陣営が協力して「闇の子」であるナチスやファシズム勢力を倒すべきだと主張した。第二次世界大戦後に「闇の子」とされたのはかつて手を結んだ共産主義。その後、イランのイスラム主義やイラクのフセイン、現在では「イスラム国」が「闇の子」にあたる。

 (3)トランプは、ニーバーの世界観を否定している。よその国のことなど米国には関係がない。自分たちの利益だけを守るんだ、と主張しているのだから。
 一部で誤解があるようだが、モンロー主義は孤立主義ではない。19世紀から20世紀にかけてフィリピンや中米に関して積極的に介入したように、米国に死活的な利益があると考えれば介入するのが米国第一の考え方だ。トランプもシリアやイラクから手を引くと言っているが、一方で「米国大使館をテルアビブから(イスラエルが首都と定める)エルサレムに移す」などとイスラム勢力を刺激するようなことも言っている。つまり中東から完全に手を引くということではない。
 トランプの登場で、新しい国際的な枠組みとなるはずだったTPPは完全に終わった。米国は、農業や知的財産の分野で非常に有利な条件を勝ち取っていたが、トランプは自らの支持基盤である製造業の労働者にしわ寄せが来ることを重く見たのだ。安倍首相は翻意をうながすと言い続けているが、本心ではもう諦めているはずだ。しかしその方が正しい現状認識だ。 

 (4)トランプは国家リーダーとしてどういうタイプか。
 まず、政治に関しては素人であることから、当面は官僚支配になることが予想される。トランプ時代の官僚とは、試験や能力で選抜された官僚ではなく、「友達」と「身内」から選ばれた人が意思決定することになりそうだから、官僚としての質は当然低くなる。米保守系ニュースサイトの経営者で「人種差別主義者」とも批判されているバノンを首席戦略官・上級顧問に任命し、娘のイヴァンカの夫であるクシュナーの登用もささやかれている。縁故で固められた組織がどこまで機能するかが最初のハードルとなるだろう。

 (5)最も注目される官僚組織は、FBIだ。今回のトランプ政権誕生において、FBIが果たした役割は決定的だった。大統領選挙の最終盤の10月になって、コーミーFBI長官がクリントンのメールアドレス問題を再捜査すると発表したため(投票の2日前に不正行為はなかったと発表)、鎮静化していたスキャンダルが再燃し、クリントンの支持率は急落した。
 おそらくFBIは、捜査に対して猛烈に反発していたクリントンの政権奪取を怖れたのだろうが、結果的にトランプに恩を売った。これをきっかけにトランプ政権とFBIの蜜月が始まるはずだ。トランプは政治経験がなく人脈もないので、身体検査、つまり、誰がどういった経歴を持っていて、どういうアキレス腱があるかを調べる力がない。情報を持っているFBIが重宝されるのは間違いない。
 1924年から1972年までFBI長官を務めたフーバーは、自身に情報を集中させ、大統領の弱みを握り、亡くなるまでその地位を手放さなかった。これからの米国は、フーバー時代の再来を思わせるような、FBIが睨みを利かせる警察国家になる可能性がある。

 (6)トランプの人物評価として、もう一つ重要なのは不動産業者としての経歴だ。不動産業者という経歴から何が言えるか。
 不動産業者が理念や理想を語ることはあまりない。彼らにとって最も重要なのは何か。それは取引(ディール)だ。現にトランプは「自分が好きなのはディールだ」と公言している。
 不動産業者は、取引成立のためなら相手にいくらでも合わせるし、ケンカしてみせることもある。ロバート・キヨサキとの共著『あなたも金持ちになってほしい』が日本でも評判になったが、トランプの本質は商売人であることは今後も変わるまい。

 (7)トランプは日本に関して「相応の負担をしなければ在日米軍の撤退もあり得る」と発言した。そこで注目が集まるのは沖縄だ。翁長知事は、トランプ当選が確実になった後の会見で、祝電を打つことと就任後の2月に訪米する意向を表明した。
 トランプが沖縄の民意をそのまま聞くということはありえない。しかし、このまま日本政府が辺野古への基地移設を強行した場合、流血事件などが起きて反米の世論が盛り上がったりすると、トランプは「日本政府の言うとおりに本当に移設はできるのか?」と考え出す可能性が出てくる。そこで日本が安保体制の理念を語っても、トランプにはおそらく通じない。トランプが沖縄の基地問題に関して現実主義的な解決策を選ぶ可能性はある。

 (8)対中戦略も、理念がないだけに米国の不利にならない限りは、中国の政策に口を出すことはなさそうだ。そうなると日本は難しい立場に追い込まれる。特に尖閣問題は、トランプ政権が中国寄りの姿勢を示す可能性すらある。そもそも、「尖閣諸島には日米安保条約が適用される」と確認したのは、オバマ政権のクリントン国務長官だった。それ以前の米国は曖昧にしていたのだから、尖閣問題については米国の姿勢が大きく変わる可能性さえある。

□佐藤優「米露中「大国の掟」を見極めよ」(「文藝春秋」2017年1月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】歴史と地理 ~米露中「大国の掟」(1)~

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】歴史と地理 ~米露中「大国の掟」(1)~

2016年12月17日 | ●佐藤優
 (1)米国を再び偉大な国にする、と叫び続けたドナルド・トランプが2017年1月に米国大統領に就任する。
 選挙期間中から「TPPには参加しない」「イスラム教徒は入国させない」などの過激な発言に、世界の国々は振り回され続けてきた。
 多くの国がトランプ政権の行く末に不安を抱くなか、ロシア、中国、さらにはイランといった国がすでにトランプ大統領の誕生を歓迎している。それは彼らがトランプ政権誕生の意味を正確に察知しているからにほかならない。

 (2)これまで米国は「世界の警察官」として、ロシアや中国のやり方に何かと口出ししてきた。その米国が「世界の警察官をやめる」と言い出した。それはロシアや中国には極めて都合のよい話だ。
 換言すれば、世界は無警察状態になり、遠からず国家が欲望を剥き出しに動く時代がやってくる。戦後つくられた国際的な協調体制は寸断されていく。
 いまから120年ほど迄、世界は似たような状態にあった。強国がそれぞれ勢力拡大をめざし、周辺の弱小国やアジア・アフリカの民族を侵略した帝国主義の時代だ。
 トランプ以後の世界は、その帝国主義の時代に似てくる。「新・帝国主義」がやってくる。

 (3)オバマ大統領は、2008年の大統領選挙で「チェンジ(変革)」を訴えて当選したが、彼がやろうとしたことは従来どおり米国の理念を世界に押しつけるやり方だった。本当の「チェンジ」は、トランプ大統領の誕生によって始まる。そしてそのチェンジはおそらく悪い方へのチェンジとなる。国家の逆襲が始まるのだ。

 (4)これからの時代は、最新の国際情勢やリーダーの振る舞いをいたずらに追いかけると、かえって本質が見えなくなる。いつの時代も国家や国家リーダーは、その国の歴史や地理的条件にかなり制約されるものだ。換言すれば、「大国を動かす掟」は時代を超えて一貫している。
 したがって歴史と地理は国際情勢を読み解くうえではきわめて重要で、この二つの学問的集積をベースとして見ていけば、国家の大枠を見誤ることはない。

 (5)ドイツの哲学者ユルゲン・ハーバーマスは「未来としての過去」と言った。未来は必ず過去の反復となっている。これから起きる出来事の多くは「帝国主義時代の反復」となるだろう。だから歴史を学ぶことが大事だ。
 同様に、国家を取り巻く「地理的条件」が変化することもない。地理的なアプローチで国家の歴史を見ていくと、ある一定の方向へ進出を繰り返していたり、周辺国との緊張の現れ方にパターンがあることに気づく。
 歴史と地理の二つを押さえながら、国家の本質や指導者たちのパーソナリティを立体的に検討するのだ。

□佐藤優「米露中「大国の掟」を見極めよ」(「文藝春秋」2017年1月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】沖縄に対する構造的差別 ~「土人」発言~
【佐藤優】尖閣諸島から米国が手を引く可能性 ~北方領土交渉と日米安保~
【佐藤優】ウズベキスタンにIS流入の危険 ~カリモフ大統領死去~
【佐藤優】国後島で日本人通訳拘束/首脳会談への影響は ~実践ニュース塾~
【佐藤優】モサド長官から学んだインテリジェンスの技術
【佐藤優】ロシア大統領府長官にワイノ氏就任の意味 ~北方領土交渉~
【佐藤優】西郷と大久保はなぜ決裂したのか ~征韓論争~
【佐藤優】開発独裁とは違う明治維新 ~目的は複数、リーダーも複数~
【佐藤優】岩倉使節団が使った費用、100億円 ~明治初期~
【佐藤優】反省より不快示すロシア ~五輪ドーピング問題~
【佐藤優】 改憲を語るリスクと語らないリスク ~改憲問題~
【佐藤優】+池上彰 エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】スコットランドの動静と沖縄の日本離れの加速
【佐藤優】沖縄の全基地閉鎖要求・・・・を待ち望む中央官僚の策謀
【佐藤優】ナチスドイツ・ロシア・中国・北朝鮮 ~世界の独裁者~
【佐藤優】急進展する日露関係 ~安倍首相が取り組むべき宿題~
【佐藤優】日露首脳会談をめぐる外務省内の暗闘 ~北方領土返還の可能性~
【佐藤優】殺しあいを生む「格差」と「貧困」 ~「殺しあう」世界の読み方~
【佐藤優】一時中止は沖縄側の勝利だが ~辺野古新基地建設~
【佐藤優】情報のプロならどうするか ~「私用メール」問題~
【佐藤優】テロリズムに対する統一戦線構築 ~カトリックとロシア正教~
【佐藤優】北方領土「出口論」を安倍首相は訪露で訴えよ
【佐藤優】ラブロフ露外相の真意 ~日本政府が怒った「強硬発言」~
【佐藤優】プーチンが彼を「殺した」のか? ~英報告書の波紋~
【佐藤優】北朝鮮による核実験と辺野古基地問題
【佐藤優】サウジとイランと「国交断絶」の引き金になった男 ~ニムル師~

【佐藤優】矛盾したことを平気で言う「植民地担当相」 ~島尻安伊子~
【佐藤優】陰険で根暗な前任、人柄が悪くて能力のある新任 ~駐露大使~
【佐藤優】世界史の基礎を身につける法、決断力の磨き方
【佐藤優】国内で育ったテロリストは潰せない ~米国の排外主義的気運~
【佐藤優】沖縄が敗訴したら起きること ~辺野古代執行訴訟~
【佐藤優】知を身につける ~行為から思考へ~
【佐藤優】プーチンの「外交ゲーム」に呑まれて
【佐藤優】世界イスラム革命の無差別攻撃 ~日本でテロ(3)~
【佐藤優】日本でもテロが起きる可能性 ~日本でテロ(2)~
【佐藤優】『日本でテロが起きる日』まえがきと目次 ~日本でテロ(1)~
【佐藤優】小泉劇場と「戦後保守」・北方領土、反知性主義を脱構築
【佐藤優】【中東】「スリーパー」はテロの指令を待っている
【佐藤優】東京オリンピックに係るインテリジェンス ~知の武装・抄~
【佐藤優】分析力の鍛錬、事例、実践例 ~知の教室・抄(3)~
【佐藤優】武器としての教養、闘い方、対話の技術 ~知の教室・抄(2)~
【佐藤優】知的技術、情報を拾う・使う、知をビジネスに ~知の教室・抄(1)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(2)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(1)~
【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
 ★『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』目次はこちら
【佐藤優】サハリン・樺太史、酸素魚雷と潜水艦・伊400型、飼い猫の数
【佐藤優】第2次世界大戦、日ソ戦の悲惨 ~知を磨く読書~
【佐藤優】すべては国益のため--冷徹な「計算」 ~プーチン~
【佐藤優】安倍政権、沖縄へ警視庁機動隊投入 ~ソ連の手口と酷似~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】冷静な分析と憂国の情、ドストエフスキーの闇、最良のネコ入門書
【佐藤優】「クルド人」がトルコに怒る理由 ~日本でも衝突~
【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~
【佐藤優】被虐待児の自立、ほんとうの法華経、外務官僚の反知性主義
【佐藤優】日本人が苦手な類比的思考 ~昭和史(10)~
【佐藤優】地政学の目で中国を読む ~昭和史(9)~
【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~
【佐藤優】近代戦は個人の能力よりチーム力 ~昭和史(7)~
【佐藤優】戦略なき組織は敗北も自覚できない ~昭和史(6)~
【佐藤優】人材の枠を狭めると組織は滅ぶ ~昭和史(5)~
【佐藤優】企画、実行、評価を分けろ ~昭和史(4)~
【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~
【佐藤優】バチカン教理省神父の告白 ~同性愛~
【佐藤優】進むEUの政治統合、七三一部隊、政治家のお遍路
【佐藤優】【米国】がこれから進むべき道 ~公約撤回~
【佐藤優】同志社大学神学部 私はいかに学び、考え、議論したか」「【佐藤優】プーチンのメッセージ
【佐藤優】ロシア人の受け止め方 ~ノーベル文学賞~
【佐藤優】×池上彰「新・教育論」
【佐藤優】沖縄・日本から分離か、安倍「改憲」を撃つ、親日派のいた英国となぜ開戦
【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~
【佐藤優】沖縄の自己決定権確立に大貢献 ~翁長国連演説~
【佐藤優】現実の問題を解決する能力 ~知を磨く読書~
【佐藤優】琉球独立宣言、よみがえる民族主義に備えよ、ウクライナ日記
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】ネット右翼の終わり、解釈改憲のからくり、ナチスの戦争
【佐藤優】「学力」の経済学、統計と予言、数学と戦略思考
【佐藤優】聖地で起きた「大事故」 ~イランが怒る理由~
【佐藤優】テロ対策、特高の現実 ~知を磨く読書~
【佐藤優】フランスにイスラム教の政権が生まれたら恐怖 ~『服従』~
【佐藤優】ロシアを怒らせた安倍政権の「外交スタンス」
【佐藤優】コネ社会ロシアに関する備忘録 ~知を磨く読書~
【佐藤優】ロシア、日本との約束を反故 ~対日関係悪化~
【佐藤優】ロシアと提携して中国を索制するカードを失った
【佐藤優】中国政府の「神話」に敗れた日本
【佐藤優】日本外交の無力さが露呈 ~ロシア首相の北方領土訪問~
【佐藤優】「アンテナ」が壊れた官邸と外務省 ~北方領土問題~
【佐藤優】基地への見解違いすぎる ~沖縄と政府の集中協議~
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
【佐藤優】ロシアが警戒する日本とウクライナの「接近」 ~あれかこれか~
【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
【佐藤優】ハワイ州知事の「消極的対応」は本当か? ~沖縄~
【佐藤優】米国をとるかロシアをとるか ~日本の「曖昧戦術」~
【佐藤優】エジプトで「死刑の嵐」が吹き荒れている
【佐藤優】エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】バチカンの果たす「役割」 ~米国・キューバ関係~
【佐藤優】日米安保(2) ~改訂のない適用範囲拡大は無理筋~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】外相の認識を問う ~プーチンからの「シグナル」~
【佐藤優】ヒラリーとオバマの「大きな違い」
【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【佐藤優】戦勝70周年で甦ったソ連の「独裁者」 ~帝国主義の復活~
【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【加賀野有理】脳の栄養 ~EPAとDHA~

2016年12月16日 | 医療・保健・福祉・介護
 アジ、イワシ、サバなどの青魚や、マグロ、カツオなどにはEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が含まれている。これらの成分は「脳の栄養」と呼ばれるオメガ3系脂肪酸の一種だ。
 健康維持のため、EPAやDHAはどのくらい摂取すればいいだろうか。厚生労働省は1日あたり千ミリグラムを推奨している。
 魚に換算すると、1日に約90グラムを食べる計算になる。例えばイワシなら1匹が約100グラム。食べられる量である。だが、毎日となると結構難しい。しかし、専門家は「週3回、これらの魚を食べれば1日に必要なEPAやDHAの量である千ミリグラムを取れる」としている。
 人間は体内でオメガ3系脂肪酸を生産できず、魚などから摂取するしか方法はない。最近ではサプリメントの服用で摂取する人も増えてきている。
 EPAやDHAは脳や血管の健康に役立ち、血液をサラサラにしてくれるそうだ。心筋梗塞や脳卒中など動脈硬化の予防にもいいだろう。 

□加賀野有理(サイエンスライター)「脳の栄養 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2016年月日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【加賀野有理】今年の冬の天気、ラニーニャ現象
インフルエンザワクチン
【加賀野有理】大掃除の道具
【加賀野有理】サザンカとツバキ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【社会哲学】「同一化」から「非同一的なもの」へ ~ミメーシスについて~

2016年12月16日 | 批評・思想
 
 (1)アドルノとホルクハイマーは『啓蒙の弁証法』において、最終的には自然と文明の宥和をめざしていた。それは、たんなる自然支配とは別の自然との関わりを追いもとめるものであって、その際の自然には、外的な自然だけではなく、内的な自然もふくまれていた。アドルノとホルクハイマーは、外的・内的な自然支配の根底には、「同一化の暴力」が働いていると考える。
 〈例1〉稲妻は、ささいな電気現象と同一のものへと理論的に還元することで、無化することはできないまでも、避雷針などを使って制御することができる。
 〈例2〉集団生活になじめない子どもを指導して、集団へと同一化させようとする。その子ども自身がそういう規律を内面化して、自分で集団生活に同化するよう努力してくれるならば、いっそう事はうまく運ぶ。

 (2)(1)のような外的・内的な自然支配には、けっしてこれで終わりということがない。自然の支配は、つねに支配しきれないもの、同一化しきれないものを生み出す。集団への同一化にしても、それからはみ出す者をたえず生じさせる。あるいは逆に、同一化をはみ出すものを確認することによって、それ以外の者たちは同一であることを保証されるのだ、と言ったほうが正確だ。
 <ヨーロッパのキリスト教社会に暮らしていたユダヤ人ないし元ユダヤ教徒たちは、かなりの程度キリスト教社会へと「同化」していましたが、キリスト教社会の側はそれを認めていませんでした。反ユダヤ主義的であったのはなにもナチスだけではありません。ヨーロッパのキリスト教社会は、ドイツにかぎらず、たえず自分たちの不満のはけ口に「ユダヤ人」を利用してきました。
 その点からすると、同一化というあり方自体から私たちが踏み出すことが必要ではないか、と考えることができます。同一化は、その内部に私たちがいるかぎり安心感をあたえてくれますが、いつもその外部を必要としています。そして、学校などのいじめから、社会的マイノリティの排除にいたるまで、いつ私たちがその「外部」に振り当てられるか、じつは分かりません。それこそ、自分がその外部に振り当てられることへの不安から、私たちは自分以外の誰かをその「外部」にたえず追いやっているのに違いありません。ここでも、私たちの不安と恐怖は相変わらず断ち切られることなく続いていることになります。>

 (3)私たちを雁字搦めに縛っている同一化の呪縛から私たち自身を解き放つことが必要だ。それは、私たちが「非同一的なもの」を、私たちの内部でも外部でも、積極的に認めることからはじまるに違いない。私たちがおよそ何事かをほんとうの意味で「経験」しうるのは、非同一的なものをつうじてではないか、とも考えることができる。
 〈例〉旅先でガイドブックに書かれてあるとおりに旅程が進行しないとき、私たちは不安に駆られるが、あとで顧みれば、そういう齟齬のなかにこそ旅の醍醐味、その旅における「経験」があったと思いいたるはずだ。ベンヤミンも、ある都市を知るためには迷う能力が必要だと記している。

 (4)<そして、そのような「非同一的なもの」を認識する方法がミメーシスです。文字どおりには「模倣」ですが、アドルノとホルクハイマーはこれについて、フランスの社会学者ガブリエル・タルドからだいじな示唆を受け取りました。タルドの『模倣の法則』の初版は1890年に出版されています。タルドは、およそ社会と呼ばれるものが織りなされている根底に、模倣という振る舞いを置き、そのさまざまな法則を探究しました。このタルドの社会学的な模倣概念を、プラントン、アリストテレス以来の芸術表現における「模倣」と結びつけるところに、アドルノ独自のミメーシス理解が成立したと言えます。>
 
 (5)子どもは学校の先生の先生やお母さんの真似をする。発達心理学では子どもの社会化のプロセスに位置づけられるかもしれない。しかし、子どもは機関車や風車になりきったりもする。元来そこには他なるものへの押さえがたい関心が働いている。そこには、他なるものを自分へと同化・同一化するのではなく、自分をむしろ他なるものへと異化するような衝動が働いている。それはもちろん、子どもだけの問題ではない。アドルノとホルクハイマーは、そもそも文明の根底にあるものをミメーシス衝動と呼んでいる。したがって、その遺著『美の理論』にいたるまでアドルノがもっとも肯定的に捉えているミメーシス能力を、こう規定することができる。
 すなわち、ミメーシスとは、既知のものへと還元・同一化することなく、未知のものを未知のものとして経験し認識しうる能力である、と。それは、同一化という暴力を行使することなく、非同一的なものを認識し表現する能力だ。そしてその際、私たちの外部の非同一的なものと私たちの内部の非同一的なものは、何らかの形でたがいに呼び合っているに違いない。

 (6)とはいえ、『啓蒙の弁証法』において、ミメーシスはけっして一面的に美化されてはいない。反ユダヤ主義者たちがユダヤ人を迫害する際に「哀れなユダヤ人」の真似をしてみせたことなどを引き合いに出して、むしろ否定的な意味合いで用いられている場合が多いとさえ言える。
 したがって、重要なのは、文明の根底、そして私たち自身の根底にありながら、自然支配をことさらする理性がそれをタブー視することによってかえってさまざまな病的な模倣衝動として発露しているミメーシスの能力を、文明のただなかでどのようにして救出するか、ということになる。
 だから、『美の理論』においてアドルノは、シェーンベルグはもとより、カフカやベケットといった彼がもっとも評価する文学者たちの作品に即して、ミメーシス的契機と合理的契機の媒介について、繰り返し論じている。
 アドルノによれば、一見難解なカフカやベケットの作品は、この二つの契機のあいだをジグザクに縫い取るように進んでいるのだ。そのあてどない歩みにつき従うこと、まずもってそれが彼らの作品を読むということにほかならない。

□細見和之『フランクフルト学派 ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ』(中公新書、2014)の「第5章 「アウシュビッツのあとで詩を書くことは野蛮である」」 
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【社会哲学】言語社会学の諸問題--ひとつの集約的報告 ~ベンヤミン~
【社会】格差社会における「承認の欠如」 ~第三世代のフランクフルト学派~



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【心理】きこえる音、きこえぬ音/きれいな音、いやな音/立体音(ステレオソニー) ~聴覚という知覚~

2016年12月16日 | 心理
●きこえる音、きこえぬ音
 <つぎに音の心理を述べよう。人間の耳にきこえるもっとも低い音は1秒12振動である。ふつうのピアノのキイで、一番左手にあるもの、すなわち一番ひくい音は27振動であるから、人間にきこえる音は、ピアノの一番ひくい音よりも、さらに1オクターブひくいということになる。
 ある映画館に大きなパイプ・オルガンをそなえつけたことがあった。パイプ・オルガンは空気の振動で音を出すのであるが、このパイプの中に、1秒2振動しかしない巨大なパイプがあった。つまり、人間の耳には絶対聞こえない「音」を出す楽器である。
 いったい低い音はこわい感じのするものである。ミッキー・マウスの映画などでは、こわい声はふとい、ひくい音として表現される。そこで、この映画館の主人は、あるスリラー映画の、ごくおそろしい瞬間に、この一番ふといパイプをならすことを思いついたのである。結果はどうであったか。おそろしいことがおこった。観衆たちはひじょうな恐怖にとらえられ、ある人たちは争って劇場の扉に殺到した、という。
 これによってみると、1秒2振動というような振動は、耳にはきこえないが、しかし人間の感覚には刺激をあたえるのであり、それは、きこえる音の最低のものよりももっとはげしい刺激、すなわち巨大な、おそろしい、という印象をあたえるものであることがわかるのである。
 このことは、耳の感覚的性質にたいして、われわれに一つの見とおしをあたえる。耳はわれわれに一つの刺激を「音」として感ぜしめる。しかし、耳が音として感ずる刺激には一定の制限がある。これは物の振動の中で、一つの特定の幅をもったものだけを、音としてキャッチするのである。
 たぶん耳は、昔は触覚と同じものだったのであろう。皮膚感覚だけを感ずる場所であったにちがいない。これが進化による分化の結果、ある種の刺激にたいして、とくに敏感な、耳、というオルガンに変形したのである。だから耳は今でも、もとの皮膚感覚の性質をのこしている。そののこされた皮膚感覚が、ひくい音に対して活動を開始して、おそろしい、という印象を生じたのである。
 だが、音のこういう性質--つまり音覚の皮膚感覚的性質をもっともよく教えるものは、高い音のばあいである。人間にきこえるもっとも高い音は、低い音のように一定ではない。すなわち人によって、聞きうる高い音にはちがいがあるのである。ある人は3万5千振動以上の音をきくことができる。しかし、人によっては2万振動くらいしかきこえない人もある。
 いっぱんに、人間は年をとるにしたがって、高い音にたいする感受性を失っていく。しかし、では、きこえない高い音というのは、どんな感じのものなのか。それを実験するには、ゴールトン笛をもちいる。これはパイプ・オルガンと同じ原理で、ただし、空気をごくこまかく振動させるように工夫されている笛である。1秒4万振動ぐらいまでの音を出すことができる。
 高い音はピイ、ピイいう。それは小さい、かわいらしい感じをともなう。なぜ高い音がかわいらしく感じられるかは、低い音はなぜ巨大な、そら恐ろしい感じを生み出すかとともに、よくわかっていない。
 ゴールトン笛をつかって、2万振動ぐらいから、だんだん高めていく。そうすると、耳にきこえる音が、高くなるが、同時に音が小さくなってくる、かすかにしかきこえなくなる。しまいには、もうほとんどきこえなくなる。ここに妙な現象がおこってくる。こういう音にたいし、めまいを報告している。とにかく、それはもはや、音としてでなく、奇妙な皮膚感覚として、コマクに感応するのである。
 しかし、これがさらにすすむと、もやは、そういう皮膚感覚させも感ぜられなくなる。 空気の振動は3万、5万と、さらに出つづけていうのだが、これは人体の感覚器官にはもはや刺激とならないのである。これは人間であるからのことであり、たとえば犬などにおいては8万振動ぐらいまできこえるらしい。

●きれいな音、いやな音
 音には騒音と楽音とが区別される。楽音は、規則正しい音波からなっている音であり、騒音は、不規則な音波を構成要素としている、と、ふつう言われるが、しかし、これは相対的なものであって、どんな楽音にも、騒音的要素がいくらかははいっているものである。純粋に規則正しい音ばかりでできている音は、かえって退屈で、単調で、つまらない感じがする。
 コップに水を入れてたたく、一つだけのコップだと、それは騒音とはいわなければならないが、コップを八つならべ、水の量を加減すれば、かんたんな歌を奏することができる。またシロホンのごときも、一つ一つの木の音は騒音なのである。
 人間の声も同様で、コトバは口腔や、舌や、喉を利用した騒音によらなければ成立しない。しかも、われわれはコトバのはいらない、ただの人声だけのメロディーでは退屈してしまう。
 不規則の音波は遠くへ達しない。このことをもっともよく示すのは、ヘンな音のチクオンキでも、遠くで聞くと、よくきこえることで、また遠くできく人の歌声は美しいものである。これは不規則な音が、途中で消えてしまって、規則的な音ばかりが伝わってくるからである。これを音の純粋性が高まるという。いやな、しゃがれ声の人の話も、遠くで聞けばそれほどでないのは、このためである。

●立体音(ステレオソニー)
 道をよこぎるとき、ゴー・ストップのないところでは、われわれは目と耳と、両方つかって車を避けなければならぬ。目は前方しかきかないので、いきおい、耳を十分にはたらかせることになる。
 耳によって、音の方向を知るには、次の三つの原理による。
 (1)左の耳に達する音と、右の耳に達する音との時間的ズレ。左手にある発音体では、音はまず左の耳に達し、つぎに右の耳に達するから、その間にかすかなズレができる。このかすかなズレが、発音体の方向を教える。
 (2)左の耳に達する音と、右の耳に達する音とで、強さが違う。左手にある発音体から発する音は左の耳に達し、ついで右の耳に達するが、そのわずかの間に、頭によって音エネルギー多少吸収され、よわまる。それが弁別のたすけになる。
 (3)音波は、空気のタテナミであるから、耳には気圧の変化として感ぜられるわけである。そこで、左右いずれかに片よった音源から出る音は、右の耳と左の耳とで、「同じ時間」には、気圧を異にしている。これが弁別の根拠になる。もし、われわれの耳を半メートルなり、1メートルひきはなして、このような微妙なズレ、または、ちがいを拡大することができれば、音源の位置の決定は、さらに正確さを加えることができるわけである。高射砲にそなえつけられた聴音機は、この原理にもとづいたものであった。

□波多野完治『心理学入門』(光文社、1958)pp.45-49を引用
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【加賀野有理】今年の冬の天気、ラニーニャ現象

2016年12月15日 | 生活
 今年10月、この時期としては今世紀最強の寒気が日本列島を覆い、全国で急に寒さが厳しくなった。11月下旬初雪もみられた。
 日本気象協会の発表では、北日本は12月から寒さが本格化し、東日本は平年並みとしている。沖縄や奄美は平年並みか低い予想だ。西日本は今後寒さに拍車が掛かり、全般的に寒い冬になると予想している。
 昨冬(2015年12月~16年2月)はエルニーニョの影響もあり、全国的に暖冬だった。
 気象庁の発表では現在、ラニーニャ現象が発生しているという。一般にエルニーニョからラニーニャに移行する時期は気温が低下傾向となり、ラニーニャ現象が発生すると、冬の気温は下がるそうだ。
 今年は気を引き締めて、怠りなく寒さ対策をしたいものだ。体を温めるためにはウールやカシミヤのマフラーとセーター、コートなどがよく、インナーにシルク製品を用いると温かく、汗の吸湿性もいいだろう。
 手袋や帽子、湯たんぽ、腹巻きなども利用し、寒い冬を乗り切りたいものである。

□加賀野有理(サイエンスライター)「冬の天気 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2016年12月2日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
インフルエンザワクチン
【加賀野有理】大掃除の道具
【加賀野有理】サザンカとツバキ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【加賀野有理】インフルエンザワクチン

2016年12月15日 | 医療・保健・福祉・介護
 インフルエンザワクチン接種によって免疫ができるまでの期間は約2週間といわれている。専門家によると、ワクチンの効果は、接種を受けた人の体内でできる「能動免疫」で獲得できるそうだ。
 接種は11月中にといわれるが、これは年末年始、多くの人が移動する際の流行を意識したものだという。本格的なインフルエンザシーズンに対応するため、今から接種しても遅くないそうだ。
 接種は、体調の良い時を選び、37.5度以上の熱がなく、風邪をひいていないこと(治って1週間後からは接種可能)。妊娠中や授乳中の人、持病のある人は、医師に相談してみよう。
 今季はA型2種類(H1N1pdm09とH3N2)、B型2種類(山形系統とビクトリア系統)のウイルス株による4価ワクチンだ。
 また、2009年に出現した「インフルエンザ(H1N1)2009」は「ブタインフルエンザ」と呼ばれたが、ブタ由来という確証はないという。
 先月、同タイトルの記事を掲載したところ、読者の医科大学名誉教授の方から丁寧なご指摘を受け、深謝している。

□加賀野有理(サイエンスライター)「インフルエンザ ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2016年12月15日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【加賀野有理】大掃除の道具
【加賀野有理】サザンカとツバキ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする