(1)米国のトランプ新大統領に世界中が振り回されている。日本も例外ではない。
トランプ大統領は、1月、TPPを離脱する大統領令に署名し、今後は2国間交渉にシフトすることを明言した。米国の離脱が決まったことで、今後日本側がいくらTPPの重要性を強調しても、空中分解する可能性が高くなった。
(2)1月25日、財務省が2016年分の貿易統計を発表した。
総額では輸出70兆392億円、輸入65兆9,651億円、黒字が4兆741億円。、対米国だけに絞れば輸出14兆1,431億円、輸入7兆3,084億円、黒字が6兆8,347億円。日本は、1年間で、米国に輸入するよりも6兆円以上も輸出しているということだ。米国が「貿易不均衡だ」と追求するゆえんだ。
米国への輸出のトップが自動車で、約4兆4,000億円。第2位が自動車の部品で約8,630億円。自動車関連だけで約5兆2,630億円輸出している。米国が「貿易不均衡の元凶が車だ」と主張するゆえんだ。
(3)「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領は、「米国が赤字になる貿易は許せない」のだ。6兆円も日本が黒字になっていることこそ、貿易不均衡を証明している。米国側は、「日本の貿易黒字をどこまで減らすことができるか」を要求しているはずだ。
TPPのように5年10年かけて輸入を増やす、というような生ぬるいことは、米国は許さぬであろう。トランプ政権には、「今年中にどれだけ米国の貿易赤字を減らせるか」が最重要課題の一つである。日本側にも強硬姿勢で臨むはずだ。そこで日本側が無回答であれば、「自動車の輸入に関税を20%プラスする」といったことにもなりかねない。
(4)安倍政権は、自動車の関税が引き上げられ、米国への輸出が減る事態は極力避けたいだろう。
そうなると、貿易黒字を減らすには、米国からの輸入を増やさねばならない。数兆円の貿易黒字を一気に減らすことはないにしても、米国から日本への輸出量を拡大する具体的な品目と数量を明示せよと米国側は要求してくるだろう。
そこに浮上するのは「食」だ。食料品全部合わせても、輸入額は1兆3,250億円しかない。そのうち肉類は約3,500億円。穀物類は約3,600億円だ。米国側が要求してくるのは、「米」と「牛肉」だろう。
(5)穀物の小麦、トウモロコシ、大豆と、肉類の豚肉はすでに輸入量が多いので、米国産の輸入拡大はあまり見込めない。ところが、米と牛肉は国産の消費量が多いので、安い米国産が輸入されれば相当な需要が見込められる。
この2品目は、米国での大量生産が可能で、関税をゼロにすえば、日本への輸出額が数千億円増加するだろう。逆に言えば、日本の米農家と畜産農家に大打撃を与えることになる。
(6)TPPが実施されても国産農家への影響が大きいと言われているのに、2国間協定で米国の言いなりになって、自動車を守るために食を犠牲にすれば、まさに「トランプの思うつぼ」になる。
2月10日の日米首脳会談について、安倍首相は衆議院予算委員会で「TPPと同じで、守るべきものは守る。攻めるところはしっかり攻めていく」と発言しているが、何を守ってどこを攻めたのか。
日本の第一次産業を犠牲にしてまで自動車を守る必要はない。米国依存の経済から抜け出すいい機会だ。輸出ばかりに頼らず、国内需要を高める政策に方向転換すべきだ。
□垣田達也(消費者問題研究所代表)「車が大事か、食が大事か トランプ外交に巻き込まれるな」(「週刊金曜日」2017年2月10日号)
↓クリック、プリーズ。↓
トランプ大統領は、1月、TPPを離脱する大統領令に署名し、今後は2国間交渉にシフトすることを明言した。米国の離脱が決まったことで、今後日本側がいくらTPPの重要性を強調しても、空中分解する可能性が高くなった。
(2)1月25日、財務省が2016年分の貿易統計を発表した。
総額では輸出70兆392億円、輸入65兆9,651億円、黒字が4兆741億円。、対米国だけに絞れば輸出14兆1,431億円、輸入7兆3,084億円、黒字が6兆8,347億円。日本は、1年間で、米国に輸入するよりも6兆円以上も輸出しているということだ。米国が「貿易不均衡だ」と追求するゆえんだ。
米国への輸出のトップが自動車で、約4兆4,000億円。第2位が自動車の部品で約8,630億円。自動車関連だけで約5兆2,630億円輸出している。米国が「貿易不均衡の元凶が車だ」と主張するゆえんだ。
(3)「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領は、「米国が赤字になる貿易は許せない」のだ。6兆円も日本が黒字になっていることこそ、貿易不均衡を証明している。米国側は、「日本の貿易黒字をどこまで減らすことができるか」を要求しているはずだ。
TPPのように5年10年かけて輸入を増やす、というような生ぬるいことは、米国は許さぬであろう。トランプ政権には、「今年中にどれだけ米国の貿易赤字を減らせるか」が最重要課題の一つである。日本側にも強硬姿勢で臨むはずだ。そこで日本側が無回答であれば、「自動車の輸入に関税を20%プラスする」といったことにもなりかねない。
(4)安倍政権は、自動車の関税が引き上げられ、米国への輸出が減る事態は極力避けたいだろう。
そうなると、貿易黒字を減らすには、米国からの輸入を増やさねばならない。数兆円の貿易黒字を一気に減らすことはないにしても、米国から日本への輸出量を拡大する具体的な品目と数量を明示せよと米国側は要求してくるだろう。
そこに浮上するのは「食」だ。食料品全部合わせても、輸入額は1兆3,250億円しかない。そのうち肉類は約3,500億円。穀物類は約3,600億円だ。米国側が要求してくるのは、「米」と「牛肉」だろう。
(5)穀物の小麦、トウモロコシ、大豆と、肉類の豚肉はすでに輸入量が多いので、米国産の輸入拡大はあまり見込めない。ところが、米と牛肉は国産の消費量が多いので、安い米国産が輸入されれば相当な需要が見込められる。
この2品目は、米国での大量生産が可能で、関税をゼロにすえば、日本への輸出額が数千億円増加するだろう。逆に言えば、日本の米農家と畜産農家に大打撃を与えることになる。
(6)TPPが実施されても国産農家への影響が大きいと言われているのに、2国間協定で米国の言いなりになって、自動車を守るために食を犠牲にすれば、まさに「トランプの思うつぼ」になる。
2月10日の日米首脳会談について、安倍首相は衆議院予算委員会で「TPPと同じで、守るべきものは守る。攻めるところはしっかり攻めていく」と発言しているが、何を守ってどこを攻めたのか。
日本の第一次産業を犠牲にしてまで自動車を守る必要はない。米国依存の経済から抜け出すいい機会だ。輸出ばかりに頼らず、国内需要を高める政策に方向転換すべきだ。
□垣田達也(消費者問題研究所代表)「車が大事か、食が大事か トランプ外交に巻き込まれるな」(「週刊金曜日」2017年2月10日号)
↓クリック、プリーズ。↓