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市内国語弁論大会2010年9月
市内国語弁論大会(14年前記事公開)
2010年9月記述・管理人50歳・本日再編集2024-09-14
(再掲かもしれませんが、僕にとって大切な文章なので残します)
今日は市内中学校国語弁論大会だった。
十数校から代表生徒一人と付き添いの教員、保護者が集まった。
僕の務める学校だけが、私立学校だった。
大会の最後に、公立国語科で大会責任教員の講評のようなものがあった。
その公立中女性教員は、7、8分間の間に31回、
「えー」
を繰り返した。
ひとコマの授業にして200回以上「えー」と言う計算だ。
こういう人が結構いる。
しかも、明らかに事前に生徒の作文題名からだけ推測して書いた、事前記述原稿の音読だ。
つまり、今日までに生徒が発表した何時間か、十数時間かの努力を無視している。
即日講評の能力がない、又は、恥をかきたくないのだ。
こういう行為を講評とは言わない。
ひどすぎて僕はうつむいて聞いた。
両隣に座っている。本校の15人位の生徒が、そんな僕を不思議そうに見ていた。
よくもまあ、あの十数人の代表生徒の努力の結晶のあとに、こんなひどい話を5分以上もできるものだ。
恥を知れと、僕は声に出さず叫んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
僕は弁論会場に、本校生徒集合時刻の50分前に着いた。
昨日の前日リハーサル後、帰宅してから弁論者Aさんのことを考え続けていた。
僕は、
「がんばって」
という言葉が、いかに無駄で逆効果かを説明した短文を、
見学生徒と、もう一人の若い引率教諭に配っておいた。
周りが緊張するとAさんに伝染する。
見学生徒が会場に着くたび、その生徒に近寄り、
「Aさんに、緊張するな、は言うな。がんばって、は言うな」
「わかったら心の中で三回繰り返せ」
と一人一人に言った。済んだら名簿に丸をつけた。
待ち時間にホール前を覗くと知り合いのベテランY女性教諭がいた。
「や、やす先生ですか? どうしたんですか。弁論大会ですよ」
だから来たんだ。
彼女は二十年来の知り合いの国語科で、僕の私立勤務校近くの公立中にいる。
僕は干渉されたくなくて、初任校から遠い私立勤務校を誰にも知られないよう気を配っていた。
「あ、Y先生。お久しぶりです。身分はこういうものです」
と彼女に身分証を見せた。
隣の学校じゃないですか、と彼女は言った。
20年前、僕は30になるかならないかの頃、市教委に頼まれて新採用50人前後に研修講座をした。
その中の一人がY教諭だった。
知り合いなのでたっぷり皮肉を言った。
「Y先生。本日は、本市の弁論のレベルを勉強させていただくために参りました。
何しろ、うちの毎日ベロンベロンの校長によれば、本校は公立中の先生がたから、
ベンロンノレベルガ毎年サイテイ、と言われているそうですから」
弁論大会で最低の評価がずっと続いていると言ったのは、勤務している私立学校の校長だった。
「私はね酒好きでねぇ、
よく市内の校長と飲むんだけど。
うちの中学生の弁論はレベルが低いって。
いつも公立の先生がたが、酒場でそう言っているんですよ。」
それは、校内の中学生全員を集めた、集会の言葉だった。
まだ子どもの、しかも自分の学校の、中学1年から3年まで全員を集めた集会でそんな話をしたのだ。
ひどい管理職はずいぶん見たが、下には下がいる。
「う、ち、の、さ、ん、ね、ん、せ、い、の、弁、論、の、レベルが低いだとっっっっっっっお!
二日酔いの学校○も、こ、う、り、つ、の、や○○も、どの口で言ってやが○○だっ!
見てろよおおおおお」
と、僕は心に決めた。
校長はじめ教員はともかく、僕が授業していた中学1年、3年は抜群に素敵で優れていたからだ。
本校周辺の公立中学校の授業の様子は近隣の公立中教諭から聞いていた。
授業不成立の公立中学校の教諭は飲み会で集まると、僕の勤務校の弁論のレベルが低いと言っている。
うちの3年生を舐めているとしか思えない。
勤務校の、僕のこんな素敵な中学3年生をだ。
校長の言葉を聞いてから、市内の公立国語科に目にもの見せてやるという感情が芽生えた。
以来1か月。
授業で練習を繰り返して、弁論発表会の今日が来た。
大会には、学校代表のはずだが、3年生ではなく2年生の弁論が8校続いた。
厳しい学校状況なのだろうか。
3年より2年の力が上なのだろうか。わからない。
前半の約10人の弁論が終わり、休憩後3年生の弁論になる。
僕と練習した、Aさんの弁論はここではどう聞こえるのだろう。
Aさんを含めて「弁論」と言えるレベルに値する発表は、3年生9人中3人いた。
3人のうち一人は実に良かった。
力強い。
間もスミを押さえることも習っている。
内容に深みもある。
3人を除く3年生も皆素敵だった。
指導法を知っている教員もいるのだ。
ただ、国語科が聞けばすぐわかるが、教師が見栄のため、ズタズタに書き換えた作文が数点あった。
そんな語彙と言い回しを中学生は持っていないのだ。
なぜ、そんなことをするのだろう。
その教師や中学校にとって、何が大事なのだろう。
他校で、実に優れた女子生徒が一人いた。
でも、本校のAさんはその生徒を上回った。ものすごい勢いだった。
緊張のきの字も見せなかった。
昨日の学校内でのリハで、彼女は9月以来、初めて硬い表情を見せた。
もしかしたら学校でやったとおりにできないのかもしれない。
そう思った。それはそれでよい。なんでもない。
Aさんは大きく学習をして育つ。
だから、見栄のためズタズタに書き換える国語科の気が知れなかった。
本番、校内練習の二倍くらいの迫力でAさんは語った。
そんなことは、普通の教員ごときには決してできない。
ニコニコと。
会場全員を見渡して。
自然に湧き出す身振りを交えて。
マイクなどAさんだけには必要ない声量だった。
Aさんのあと、他校5人の3年生が語った。
Aさんの直後が、実に優れた女子だった。
その優れた女子は、まさか過去20年間、最低の弁論をした私立学校の生徒が、
最高の弁論をするとは思わなかったのだろう。
それで、Aさんが自然に体から湧く身振り手振りを、急に真似し始めた。
生徒を悪く言うつもりはない。
でも、思いついたことをできるはずがない。
不自然で、気の毒だった。
だが「弁論」としては比較にならなかった。
発表会が終わり、帰り際、前述のベテランY女性教諭が僕を見つけて近寄ってきて言った。
「見違えるようでした。
いちばん良かったです。」
僕は答えた。
ホールに響き渡るように。
「いえいえ、公立の先生がたにはとてもかないません。勉強させて頂きました」
後日、Y助教諭がメールを下さった。
「本当に、**私立中学校の生徒は、20年以上最下位の発表だったんです。
指導でこんなに変わるんですね。
なんだか、怖くなりました」