カテゴリー別目次
2022-02-06
今年度、60になった。
生徒から思わぬお祝いを頂いた。
【記事1/2件】
「ありがとう」
2021年某月某日
授業へ行くために階段をのぼった。
のぼりきったところへ、1年生の授業クラスの女子、男子がつめかけて、テストについて質問を始めた。
「試験範囲は、いつ配られますか!」
「ことわざは、何問出ますか!」
「何点分、出ますか!」
いちどにすごい勢いで話しかけるので、聞き取れないし、答えられない。それに、いつもわりと無口な女子もやたらに気迫がある。
「一度に言ったら、わかんないよ~」
えーと。範囲ね。範囲は・・・・・・。と一人一人答えた。
ずいぶん、やる気になってるなあ、とここでは何もわからなかった。
廊下を歩いていくと、今度は男子が数人、文庫本を持ってつめかけた。
「この本おもしろいですよ。」
「貸してあげます。読んで下さい!なんとかかんとか、なんだかんだ、ああだこうだ!」
あー。そういうことか。
長いこと、この仕事をしていると生徒の企画はすぐわかる。
でも、中学生に教えるのは久しぶりなので、にぶっていたし、期待もしていなかった。
ぼくは、授業の荷物をろうかに置いて、じっくりと話を聞き、どんどん答えた。
伝令(でんれい)役の生徒が、ちょろちょろぼくたちと教室を行き来している。
(もういいよ)と、伝令役がこっそり言うのがぼくにも聞こえる。このアホさがたまらない。かわいすぎる。
ゆっくり歩いて授業教室に入る。まだ休み時間だが、全員席についてぼくを見る。
ぼくは、(何をしたのかな?)と教室を見回すと、黒板にいっぱいのお祝いの絵と言葉が書いてあった。
「おーーー。ありがとう。こんなことしてくれるなんて思わなかった。うれしいね!」
そして、これは予告通り無理矢理♪ハッピバースディ♪を歌わせる。予定通りのお話をする。しかし、このクラスは話を聞くときものすごく澄んだ目で聞くのだ。あぶないっ。
では授業を始めましょう、と僕は竹取物語を追い読みさせた。生徒の板書には慣れていた。
でも、教室に入れないように必死に時間かせぎする生徒の顔が目に浮かんだ。声が少し震える。
あぶない。早く読み終わらないとあぶない。早く読み終わろうとするとよけい胸がいっぱいになる。
目のふちが熱くなりかける。あ、あぶないっ。
「では、漢字ドリル」と言ったあとしばらく、だいぶがんばって何かこぼれてしまうのを我慢した。
とても感激しました。
Z組のみなさん。
ありがとうございました。
うれしいです。
【記事2/2件】
やられたっ! あの歌に。
2021年某月某日
ぼくが黒板の(ディア の**)を振りかえり「これでお願い・・・・・・」と言いかけると、
「今だっ」
という声が聞こえた。そして・・・・・・。
金曜日はぼくの御生誕の日だった。今年は学年も素晴らしいし、還暦は特別だから久しぶりにどのクラスにも
「みんなに、無理矢理歌わせる」
と言っておいた。
2時間目に、あるクラスがサプライズをしかけてきた。
何十年ぶりだから、ちょっと引っかかりかけて、目のふちがぬるぬると溶け出しそうになった。
しかし、(おれはプロだプロだ)と言い聞かせて、なんとか耐え抜いた。
いやあ、あぶなかったと思って午後、W組の授業に行った。数人宿題をしている。
あちこちに集まっておしゃべりをしている。なぜか体育館から戻ってくる生徒がいる。
「体育館にいたの? なぜ」
「いや、なんか今日は使っていい日だったんで」
普通のW組だった。何の変わりもなかった。これなら大丈夫だ。
授業開始のチャイムが鳴り、ぼくは安心して、予定通り黒板に(ディア の**)と書いた。
あいさつをするのを待たず、
「では、今日はこれでお願いします」
と言おうとすると、
「い、今だっ!」
という声が聞こえた。長い経験から(ああ、歌ってくれるのかな)くらいはわかった。
しかし、そのサプライズは想像を越えた。
「きりっつ」
という元気な声と同時に全員がそろって立ち上がり、いすを机に入れた。
ぼくは(あ、そう、立つわけ、へえ)と思い、出だしの合図をしようとした。だが。
「せーの。Happy birthday・・・」
と歌は、ものすごく上手な手拍子と共に、勝手に始まった。
その手拍子はピッタリそろって、歌はものすごく大きな声だった。
みんなが一生懸命歌っていた。ぼくは途中で踊って笑おうとした。
ものすごい歌が終わると、またたく間に一人の女子が机から何か取り出し、もう一人の女子と前に来て、
「おめでとうございます」
と言った。たぶん。渡された紙袋の中には、手紙がいっぱいつまっていた。
「ああ、こんなに準備してくれたんですね。ありがとう」
と、確か、ぼくは言った。
それから、考えておいたお礼のお話をしようとした。
でも、ダメだった。ぼくはそのとき「手紙にやられた」と言いましたが思い返すと違いました。
歌でした。歌はアカン。しかも、本気で歌ってくれるのはアカン。ぼくはしゃべれなくなって、顔を押さえた。
いや、まさかこんなことになるとは自分でも想像もしなかった。
歌はそれくらい力がある。ぼくがそのまま動かずにいると、誰かが言った。
「ほ、ほ、ほんとかよ」
生きていて、悲しくて泣くことはある。
でも、うれしくて目から水が出るのはこの仕事くらいだ。とても感激しました。
手紙は帰って二度繰り返し読みました。
W組の皆さん。
とてもうれしいです。
ありがとうございました。
2022-02-06
今年度、60になった。
生徒から思わぬお祝いを頂いた。
【記事1/2件】
「ありがとう」
2021年某月某日
授業へ行くために階段をのぼった。
のぼりきったところへ、1年生の授業クラスの女子、男子がつめかけて、テストについて質問を始めた。
「試験範囲は、いつ配られますか!」
「ことわざは、何問出ますか!」
「何点分、出ますか!」
いちどにすごい勢いで話しかけるので、聞き取れないし、答えられない。それに、いつもわりと無口な女子もやたらに気迫がある。
「一度に言ったら、わかんないよ~」
えーと。範囲ね。範囲は・・・・・・。と一人一人答えた。
ずいぶん、やる気になってるなあ、とここでは何もわからなかった。
廊下を歩いていくと、今度は男子が数人、文庫本を持ってつめかけた。
「この本おもしろいですよ。」
「貸してあげます。読んで下さい!なんとかかんとか、なんだかんだ、ああだこうだ!」
あー。そういうことか。
長いこと、この仕事をしていると生徒の企画はすぐわかる。
でも、中学生に教えるのは久しぶりなので、にぶっていたし、期待もしていなかった。
ぼくは、授業の荷物をろうかに置いて、じっくりと話を聞き、どんどん答えた。
伝令(でんれい)役の生徒が、ちょろちょろぼくたちと教室を行き来している。
(もういいよ)と、伝令役がこっそり言うのがぼくにも聞こえる。このアホさがたまらない。かわいすぎる。
ゆっくり歩いて授業教室に入る。まだ休み時間だが、全員席についてぼくを見る。
ぼくは、(何をしたのかな?)と教室を見回すと、黒板にいっぱいのお祝いの絵と言葉が書いてあった。
「おーーー。ありがとう。こんなことしてくれるなんて思わなかった。うれしいね!」
そして、これは予告通り無理矢理♪ハッピバースディ♪を歌わせる。予定通りのお話をする。しかし、このクラスは話を聞くときものすごく澄んだ目で聞くのだ。あぶないっ。
では授業を始めましょう、と僕は竹取物語を追い読みさせた。生徒の板書には慣れていた。
でも、教室に入れないように必死に時間かせぎする生徒の顔が目に浮かんだ。声が少し震える。
あぶない。早く読み終わらないとあぶない。早く読み終わろうとするとよけい胸がいっぱいになる。
目のふちが熱くなりかける。あ、あぶないっ。
「では、漢字ドリル」と言ったあとしばらく、だいぶがんばって何かこぼれてしまうのを我慢した。
とても感激しました。
Z組のみなさん。
ありがとうございました。
うれしいです。
【記事2/2件】
やられたっ! あの歌に。
2021年某月某日
ぼくが黒板の(ディア の**)を振りかえり「これでお願い・・・・・・」と言いかけると、
「今だっ」
という声が聞こえた。そして・・・・・・。
金曜日はぼくの御生誕の日だった。今年は学年も素晴らしいし、還暦は特別だから久しぶりにどのクラスにも
「みんなに、無理矢理歌わせる」
と言っておいた。
2時間目に、あるクラスがサプライズをしかけてきた。
何十年ぶりだから、ちょっと引っかかりかけて、目のふちがぬるぬると溶け出しそうになった。
しかし、(おれはプロだプロだ)と言い聞かせて、なんとか耐え抜いた。
いやあ、あぶなかったと思って午後、W組の授業に行った。数人宿題をしている。
あちこちに集まっておしゃべりをしている。なぜか体育館から戻ってくる生徒がいる。
「体育館にいたの? なぜ」
「いや、なんか今日は使っていい日だったんで」
普通のW組だった。何の変わりもなかった。これなら大丈夫だ。
授業開始のチャイムが鳴り、ぼくは安心して、予定通り黒板に(ディア の**)と書いた。
あいさつをするのを待たず、
「では、今日はこれでお願いします」
と言おうとすると、
「い、今だっ!」
という声が聞こえた。長い経験から(ああ、歌ってくれるのかな)くらいはわかった。
しかし、そのサプライズは想像を越えた。
「きりっつ」
という元気な声と同時に全員がそろって立ち上がり、いすを机に入れた。
ぼくは(あ、そう、立つわけ、へえ)と思い、出だしの合図をしようとした。だが。
「せーの。Happy birthday・・・」
と歌は、ものすごく上手な手拍子と共に、勝手に始まった。
その手拍子はピッタリそろって、歌はものすごく大きな声だった。
みんなが一生懸命歌っていた。ぼくは途中で踊って笑おうとした。
ものすごい歌が終わると、またたく間に一人の女子が机から何か取り出し、もう一人の女子と前に来て、
「おめでとうございます」
と言った。たぶん。渡された紙袋の中には、手紙がいっぱいつまっていた。
「ああ、こんなに準備してくれたんですね。ありがとう」
と、確か、ぼくは言った。
それから、考えておいたお礼のお話をしようとした。
でも、ダメだった。ぼくはそのとき「手紙にやられた」と言いましたが思い返すと違いました。
歌でした。歌はアカン。しかも、本気で歌ってくれるのはアカン。ぼくはしゃべれなくなって、顔を押さえた。
いや、まさかこんなことになるとは自分でも想像もしなかった。
歌はそれくらい力がある。ぼくがそのまま動かずにいると、誰かが言った。
「ほ、ほ、ほんとかよ」
生きていて、悲しくて泣くことはある。
でも、うれしくて目から水が出るのはこの仕事くらいだ。とても感激しました。
手紙は帰って二度繰り返し読みました。
W組の皆さん。
とてもうれしいです。
ありがとうございました。