2011/2/19up全ページ目次 |
頭が悪くて気づくのが遅い |
ミステリーが読めない。
伏線とかを覚えていられない。
面倒くさくなってしまう。
名手宮部みゆきが苦手なのもそのせいかもしれない。
登場人物が多いのもダメだ。
途中で誰が誰だかわからなくなる。
せっかくの『三国志』も二度挑戦したがすぐあきらめた。
映画『たそがれ清兵衛』に切られ役の余吾善右衛門が出てくる。
余吾には個人的に最も親近感を覚える。
だがその経歴が何度観てもよくわからなかった。
なぜ最後に籠って討手を待つことになるのかよくわからないまま何度も観た。
先月六度目か七度目に観たときやっとわかった。
頭が悪くて気づくのが遅い。
頭のいい人に生まれたかった。
今日電車から降りて突然気づいたことがある。
母から頼まれて救急車を呼ぶと逆に救急車から電話があった。
うちの前の道は狭くて車が入れないという。
病人を運んで来いという。
そんなひどいことはあるかと思った。
夜中僕は板切か一反の布のようにやせた母を背負いバス通りまで歩いた。
小さな町の川にかかる橋にさしかかったとき母はひと言の遺言を残した。
僕の背中で左耳に小さく囁いたひと言の遺言はその後何十年か僕を支えた。
ただひと言。
ひと言を言う機会はその瞬間しかなかった。
翌日亡くなるまでの間、母は苦しんでのたうつか麻薬で朦朧とするかしかなかった。
救急車がうちの前に来たならばそのひと言はなかった。
そんなことに今日初めて気づいた。
何十年も考え続けた晩にもわからないことがあった。
頭が悪いと気づくのが遅い。
だが遅すぎたわけではなかった。