川越市小仙波町に鎮座する『日枝神社』(仙波日枝神社)の鳥居の前に【國寶 日 枝 神 社】と刻まれた
石標が立っていますが、日枝神社って「国宝」でしたっけ?
そしてこちらは、毛呂山町岩井に鎮座する『出雲伊波比神社』ですが、本殿横に【國寶 出雲伊波比神社
本殿】と刻まれた石標がありますが、出雲伊波比神社の本殿も「国宝」ですか?
いえ、上記日枝神社本殿も出雲伊波比神社本殿も国宝ではありません。国指定重要文化財(建造物)です。
しかし、あながち間違いではありません「かつては国宝だった」からです。
では何故「國寶・・・」とあるのでしょうか?
実は旧法である「国宝保存法」時代に国宝指定を受けていましたのでその時に建立したもののようです。昭和25
年(1950)5月30日に「文化財保護法」が施行され、これにともない「国宝保存法」等が廃止されましたが、旧
法の国宝保存法によって国宝指定を受けていたものは、新法の「文化財保護法」に規定する《重要文化財》へと
指定替えになりましたが、【國寶 〇〇〇〇】の石標などをそのまま残しているところが多いのです。埼玉県内
においてもこれら以外にも【國寶 〇〇〇〇】が残る神社等がありますし、県外においても同様です。
例えば高知県の高知城も追手門前に【國寶 高知城】の石標が立っています。また、福井県の丸岡城でも【國寶
霞ヶ城】(丸岡城の別名)の石標が立っていますが、脇にこの石標が建てられた理由と現在は法律が変わって国
指定の重要文化財ですとの説明版が立てられています。こうした説明版があれば誤解を招くことはありませんが、
【國寶 〇〇〇〇】という文字を見れば「国宝だ!」と思ってしまいますね。
無論、旧・国宝で現・国宝のものもありますし、国指定重要文化財でもすべてが旧・国宝であったかと言えばこ
れまた違います。それは旧法「古社寺保存法、「国宝保存法」から引き継がれたものでなく、新法の「文化財保
護法」施行以降に新規に重要文化財に指定されたものもたくさんあります。このことから、
旧法「古社寺保存法、「国宝保存法」での『国宝』 = 新法「文化財保護法」での『重要文化財』
と考えてよいでしょう。なお、新法「文化財保護法」では重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもの
をあらためて国宝に指定しています。「国宝」は重要文化財の一種であり、重要文化財に変わりはありません。
まあ、國寶・ 社などといった旧字が使われていたら「国宝保存法」時代に指定されたものという一つの目安にな
ります。また、石標などの建立年月日からも推定できます。
前置きが長くなってしまいましたが、よくクイズ番組で「国宝が一番多い都道府県はどこでしょうか?」などと
いった問題がありますが、では埼玉県には何件の国宝があるでしょうか?
5件です 新法(文化財保護法)における国宝はわずか5件しかありません。6月1日現在の国宝指定件数は1132件
新法「文化財保護法」における埼玉県での国宝指定第1号は、ときがわ町の「慈光寺」にある
【国宝】書跡 ・ 典籍 ・ 古文書
《名称》 《員数》 《指定年月日》
法華経一品経 33巻 昭和27年(1952)3月29日
阿弥陀経
般若心経
附 筆者目録一巻
補写目録一巻
ですが、実物は見ることができません。
実物は見られませんが「般若心経堂」に模写(陶器)展示「妙法蓮華経 授記品第六」があります
埼玉県唯一の村の【東秩父村和紙の里・「道の駅 和紙の里ひがしちちぶ」】にある「伝承館」です。
ここに、県内の国宝の指定2番目、3番目の
【国宝】工芸品
《名称》 《員数》 《指定年月日》
太刀 1口 昭和 29年(1954)3月20日
銘 備前国長船住左兵衛尉景光
作者進士三郎景政
嘉暦亖年己巳七月日
短刀 1口 昭和 31年(1956)6月28日
銘 備州長船住景光
元亨三年三月日
の【写し】が展示されています。
実物はさいたま市大宮区の「埼玉県立歴史と民俗の博物館」に所蔵されていますが、この太刀・短刀は、
播磨(兵庫県)の地頭であった大河原時基が作刀させたもので、大河原時基は秩父郡大河原郷(現在の東
秩父村)が本貫地で、その縁から写しを作られ展示してあります。
国宝 長船景光・景政合作太刀写
国宝 謙信景光短刀写
御物 長船景光・景政合作太刀写
4件目は行田市の「埼玉県立さきたま史跡の博物館」で管理・展示している
【国宝】考古資料
《名称》 《員数》 《指定年月日》
武蔵埼玉稲荷山古墳 一括 昭和 58年(1983)6月6日
出土品
この出土品の所有者は国となっています。通常ですとこうした国宝は別の施設、例えば東京国立博物館な
どで所蔵しますが、出土した現地(博物館)で保管・展示することは極めて稀なことです。
この場合ですと、稲荷山古墳と出土品を同一の場所(稲荷山古墳もさきたま史跡の博物館も埼玉古墳群と
言う同一エリア内にある)にあるということです。
稲荷山古墳国宝のパンフレット
実物は博物館の国宝展示室に常時展示されており写真撮影も可能です。
5件中の5件目は熊谷市妻沼の「妻沼聖天山本殿・歓喜院聖天堂」
【国宝】建造物
《名称》 《員数》 《指定年月日》
歓喜院聖天堂 1棟 平成24年(2012)7月9日
です。御本殿と言われるものですが、国宝としての登録名称は上記の通り「聖天堂」としています。
平成15年10月から約7年間の歳月をかけて行われた「平成の大修理」によって、長年の時の流れによって
生じた傷みや、剥落した彩色を、建立当時のように華麗な色彩に復元された聖天堂。
以上、今更説明するような内容のものではありませんが、某サイトで旧国宝に関して気になるコメ
ントがありましたので思いつくままに書いてみました。