カルテ番号 め・3（15）
院長は頭に指を触れたまま、ゆっくりと話をしてくれた。
「明木さんだから、少し太極拳の話をしましょう。
とはいえ、私は太極拳の専門家ではありません。
気功という分野からの太極拳です。
明木さんは、太極拳について知っていますか？」
礼子は目を瞑ったまま答えた。
「いいえ、ほとんど知りません。
先生が、ひたすら続けなさい、と教えてくれたので、それだけです」
院長は、少し間をおいてから話し出した。
「物事は、見る立場や角度から、いろいろな面があります。
だから、どういう風に説明するかは、その人によります。
これからする説明は、あくまで私流の解釈だと思って下さい。
この解釈が正しいかどうかは、気にしないで下さいね。
こういう見方があるのだ、という程度で結構です」
礼子はそのままの姿勢で頷いた。
「元々は武術の型でしたが、今からの説明は健康法としての太極拳です。
昔の中国の人が、元気になる為に動き等を簡単にしたものです。
そして、昔の中国の生命の関する中心は、氣、という概念でした。
昔といいましたが、決して今より劣った概念ではありません。
むしろ、今の方が昔、あるいは古に追いついていないようです。
進んだのは、一見する見た目や科学技術です。
概念は、いろいろな分野で、解明できずに遅れてしまった。
あるいは、忘れてしまったものが、とても多いです」
（登場する人物・組織・その他はフィックションです）
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