「人は善をなさんとして悪をなす」 先ごろ亡くなった米国の国防長官としてベトナム戦争を指導したロバート・マクナマラの言葉である。晩年、「ひどい過ちを犯した」と回顧録やドキュメンタリー映画で述べている。また、「人類は20世紀に1億6千万人を殺した。21世紀に同じ事が起きていいのか。そうは思わない」という言葉もある。深い悔恨を背負って後半生を生きたのだろう。
「善をなさん」という言葉を聞くと、「善者は強くなければならない」というチャーチルの言葉を思い出す。マクナマラはこの言葉の信奉者で強いアメリカが善をなさんとして突き進んだのだろう。
目的が善であろうと手段を間違うと、つまり、悪の行為を為せば結果は悪となるのは理の当然である。この理屈からすると、太平洋戦争の末期、いくら戦争の早期終結を図ろうとアメリカが日本に原爆を投下したのはやはり誤りである。悪魔の行為というべきであろう。
しかるに、アメリカ人にベトナム戦争に対する反省はあっても、原爆投下に対する反省がないというのはどういうことか。善悪よりも勝ち負けに思考が偏っている国柄なのであろう。